いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

塵も積もれば山となる

旦那は私の逆鱗に触れるのがうまい。
私の気持ちいいところを刺激するのと同じくらいに。
その話はまたにしておくとして。



「お帰りなさい。疲れたでしょう」
仕事から帰った旦那を迎えるために、私はコーヒーを淹れた。
わざわざコーヒーミルで淹れた香りの効いた格別なやつ。

ありがとう。と言ってテーブルについた。
口に含む前に香りを楽しんでから口に運び、美味しい。と言ってくれた。

帰りの時間を予測してちょうどいい時間に豆を挽き、帰宅を待った。
その甲斐があったとお世辞でも思わせてくれるなら、それでもいいかと満足できた。
そんなささやかな幸せを感じさせてくれたとしてもそれはわずかな時間。ひとときの幸せと呼ぶのにふさわしいほどにほんのわずかな時間だ。


ごろん


コーヒーカップを倒したのが見えた。
それを見つめる旦那。
絨毯に滴るコーヒー。


早く拭けよ!!

私は声を張り上げ、タオルを洗面所からとって旦那に投げつけた。
なにを鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔をして突っ立っているんだ。


こんな旦那と一生を過ごすと考えると、憂鬱だ。
どうして私はこんな人に惹かれたのだろう。

ハイブランドではないが、安くはない白いじゅうたんについた染みを見ながら、私はため息をついた。

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