いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

家政婦な妻


ご機嫌な歌声が浴室から響いている。
仕事終わりにお酒をひっかけて帰り,家に着いたら出てくるご飯をあてに,焼酎をちびちび飲む。
食事が済むちょうど良いタイミングで張ったお風呂に入ったところだ。




いつからだろう。
旦那のキスにときめかなくなったのは。



胃袋の中で,胃液と時間をかけて作った晩御飯と,その他もろもろとがお酒と絡み合って腐った汚物をいぶしたような匂いを口元へ近づけられた時には,思わず眉間にしわを寄せてしまった。

そんなこともつゆ知らず旦那はご機嫌そうに流行りの邦楽を口ずさみながら浴室へと向かった。
ねっとりとしたくちびるをティッシュで丁寧にぬぐい,片付けもせずにテーブルに置かれた食器をシンクへと運びながら,肺をいっぱいに膨らませて空気を吸い,大きく吐く。



食った後の食器ぐらい持っていけよ!!!!
てか帰りしニンニク食っただろくせえんだよ!!!!


浴室で体を流している様子を背中で感じながら,声にならない叫びを脳内にこだまさせながら洗い物を済ませた。
茶碗の口が欠けてしまったけど,よしにしよう。



旦那のだし。

コーヒーを入れて,ソファに腰を掛ける。
ドラマを見ながら,この瞬間がすっと続けば良いのに,なんて思っていると,旦那が風呂から上がってきた。

「ゆっくり浸かればよかったのに。良い湯だった?」

どうせ,脱衣所の足元はびちょびちょだろう,どういう拭き方をしたら盛大にバスマットから溢れる水たまりが作れるんだ。
重たい体をソファから起こした。


テレビでは新婚夫婦が甘い言葉で永遠の愛を誓いながら寝室で過ごしてた。




「いつまでも,いると思うな家に嫁」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「エッセイ」の人気作品

コメント

コメントを書く