いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

若気のいたり

運命の人っているんだ。
そう思った。

以前勤めていた会社で今の夫に出会った。
仕事が速くて,頼りがいがあって,優しくて……

いつしか職場にいる彼を目で追うようになって,「私はここにいるよ」って気付いてほしくて,仕事中にバカなことをしてみたり,失敗もした。
そんな私を屈託のない笑顔で見てくれて,好きだと思うようになった。

大好きな人と一緒にいられるってどれほど幸せなことなんだろう。
あの時の私は,キャバクラ通いで大金をはたく男の人や,聞き上手でセクシーなホステスに入り浸る女の人に対してひどく寛大で共感的だった。

お金の許す限り,時には自分の懐事情を無視してまで会いに行ってしまう彼らに比べて,好きなときに会える私はなんて幸せ者なのだろうとさえ思ってしまっていた。



そして,
「この人と結婚したい」
そう思った。



誰にでも,失敗はある。
特に若い時は。
それを,“若気のいたり”と呼ぶらしい。

私は,その“いたり”を最悪のタイミングで発症した。
人生において極めて重要な時に“いたり”に犯されただけなのだ。
“いたり”って何なのかしらないけれども。


“いたり”に気付くまで時間はかからなかった。

仕事や,仕事終わり,休日の短い時間を共に過ごす彼と,夫となって共に生活するのは全く別のことだった。
夫との生活は続けていられないと感じたのは,結婚生活を始めて一週間経つか経たないかの頃だった。

私には運命の人がいる。
幸せな生活を送る権利がある。

私は,“いたり”と決別することを決意した。

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