エレメンツハンター

柏倉

第4章-2 新造”宝船”

 アキトはユキヒョウの第2格納庫の隅で、精密マニピュレーターを操作している。カミカゼ水龍カスタムモデルのオリハルコンボードを取り付けているのだ。
 さっきまで、オリハルコンボード内のオリハルコン合金板を、シミュレーション結果に基づいて配置し直していた。
 シミュレーションの為のデータは、オリハルコン合金板1枚1枚をGE計測器で精密に測定して取得した。
 以前は、ボード内のオリハルコン合金板を配置換えしてから、ルーラーリングで反応のチェックをしていた。何度も試行錯誤を繰り返し調整していたのだ。
 そもそもオリハルコン合金は、重力元素を精錬し通常物質の金属と混ぜて合金を鍛造する。しかし、重力元素に含まれているミスリルとオリハルコンの比率を一定にすることは、現在の技術では不可能なのだ。
 重力元素の量が一定であっても、オリハルコン合金板の感度、性能にバラツキのある理由をアキトは漸く理解できた。
 そして原因が解れば、対処方法を考えることも可能である。カミカゼ水龍カスタムモデルを、アキトは己の頭脳と技術力でチューンアップしていたのだ。
 そのアキトの元に、第2格納庫の人用の扉の方から声が聴こえる。
「0.1Gに設定されているわ。また、トライアングルを改造しているのかしら?」
 トライアングルの重量は機種により様々だが、カミカゼは350kgぐらいある。重力制御でGを軽くして、取り扱いを楽にしているのだ。
「・・・アキトが?」
「そうなのよねぇ。何が楽しいのか、私には全然理解できないわ」
 風姫の凛とした耳に心地よい声音と、史帆の抑揚の少ない声が聴こえてくる。
「あのトライアングル・・・カミカゼ水龍カスタムモデルを弄りまわしていると思うわ。エレメンツハンターとして、道具の習熟は必要でしょうけど、トライアングルはエレメンツハンティングに必須ではないわ」
 ここユキヒョウの第2格納庫は、主にエレメンツハンティングに必要な機体や機器が格納されている。
 オレだって、エレメンツハンティングの道具に馴染む為の訓練もしたぜ。だが、今優先すべきは、カミカゼ水龍カスタムモデルの改造なんだ。
 それには、正当な理由がある。
 得た知識を使って早く改造し、操縦してみたい。気になって訓練に集中できるはずがない。胸を張って断言できるぜ。
 ただ口にだして、風姫達に宣言するほど愚か者ではない。
 反論の集中砲火に晒され、アキトが大破判定を受けるのは、火を見るよりも明らかだからだ。
「変な改造して、性能が落ちなければいいけど・・・」
 惑星”シュテファン”に突入する前にした風姫と彩香の会話の辺りから、史帆の態度は冷たく、ぞんざいだった。それは、風姫達の会話が小芝居だと知った今でも変わらない。
 しかし、それはアキトの誤解だった。
 史帆の態度は、アキトと出会ったときから変わっていない。そして、アキトの史帆に対する態度も変わっていない。
 つまり、お互い様なのである。
「水龍カンパニーのチューニング、難しいのに・・・」
 史帆の声から、真剣に心配しているのが判る。
 ただ、その心配は、オレに対して・・・ではなく、カミカゼ水龍カスタムモデルに対してなんだろうなぁ・・・。
「おいっ! 聞こえてんぜ」
 アキトは顔をあげずに、声をあげた。
「今度は何をしていたのかしら?」
 風姫の口調には呆れ成分の他に、興味津々なのが感じられた。
「オリハルコン合金版の配置を見直してたんだよ。オリハルコンボード内のな」
「どうやって?」
 史帆が平坦な口調で尋ねてきた。
「GE測定器でオリハルコン合金板に含まれているミスリルとオリハルコンの比率を割り出したのさ。そして最適配置をシミュレーションし、その結果を反映させてたんだ」
 悩んでる史帆を横目に、アキトはコネクトを操作して、第2格納庫の制御装置に命令する。
「重力戻すぜ。5分で0.1な?」
 1Gに戻す必要はないのだが、トライアングルは無重力下でなく惑星の重力下での使用を前提にしている。もちろんアキトのカミカゼも、惑星で使用するのだ。
「なんで?」
 そういえば、たまにいたなぁ・・・。こういうエンジニア。
 相手に理解できるように話す気がない。
「何が、だ? 自分の世界だけで完結すんな。他人にも分かるように話せ」
 史帆の表情が強張る。
 しかし反抗するでもなく、彼女なりに説明しようと考えているようだ。
「カミカゼの機体性能が上がるようには思えない。だから、なんで配置を変更したのか理解できない」
 仕方ねぇーなぁ。
 話が進まねぇーから、答えてやんぜ。
「機体の性能に頼り切るのは、間違ってるぜ。自分の機体なら、自分に合わせたチューニングをして足りない部分を補うようにしないとな。総合力で勝てるようにするんだ」
 GE計測器でミスリルとオリハルコンの配分を調査する手法改造をしている。傍には、道具も改造している。
「素人が弄り回したって、性能が落ちるだけ・・・」
 あぁーあ。自分が知ってることは、他人も知っているだろうって前提で話してるぜ・・・。質が悪いことに、自分の常識や経験の範囲内でしか判断できないから、否定してんだな。まず謙虚な態度で、教えを理解しようとしねぇーとな。
 史帆の考え方が手に取るように分かるぜ。
 何せ経験者だ。オレもそうだったからな。
 だけど一つ一つ教えてやんのは面倒だし、実際に結果を見せた方が早いぜ・・・オレの経験上の話だが・・・。
「百聞は一見に如かず、と言うぜ。見てろ」
 カミカゼに跨ろうとして飛び上がったところを、力尽くで風姫に止められた。
「おわっ」
 それは腕力という意味ではなく、スキルという意味での力尽くであった。風姫は風を操って、アキトを吹き飛ばしたのだ。
「バカッ!」
「人をフッ飛ばしておいて、その台詞はねぇーぜ」
 アキトは風姫に向かって怒鳴った。
 しかし、彼女は冷静に問い質す。
「トライアングルに乗って、何処に行くつもりかしら?」
「ここじゃチューニングした性能を見せつけられねーだろっ。スターライトルームからでも外を眺めてろよ」
「はぁあああ」
 もの凄い溜め息のあと、呆れた口調で風姫は理由を伝える。
 さっきと違い、興味は全く含まれていなようだ。
「いいこと。ユキヒョウは今、ワープ中だわっ!」
「おおっ、そうだったぜ」
 オリハルコンとミスリル、その他の通常物質からなるワープ用オリハルコンが、ワープには必要となる。
 ミスリルが超重力と超エナジーを発生させ、オリハルコンがワープ空間内で船を制御する。
 そうしてワープ航法を可能にするのだ。
 ワープポイントの入り口で超重力を発生させ、ワープ航路を開く。
 ワープ空間へと突入する前に、超エナジーで船体を覆いつくす。
 超エナジーで覆われていなければ、船がバラバラになってしまうからだ。
「超エナジーによって自身をエナジーの一部へと還元した後、ワープ空間でバラバラになりたかったのかしら? それなら、吹き飛ばさなかったわ」
 知的探求に夢中になり、状況がすっぽりと頭の中から抜けてたようだぜ。
 だが、それはオレの所為じゃない。ワープ中にも拘わらず、ユキヒョウの船体が殆ど揺れない。
 それが悪いんだ・・・。
 いや、ホントは悪くなくイイことなのだ。技術の進歩が、正しく人の為になっている。
 ユキヒョウの性能は常軌を逸している。
「吹き飛ばさずに、止められなかったのかよ」
「止められなかったわ」
 妖精姫の二つ名に相応しい、可憐で愛らしい笑顔で断言する。
 しかし騙されてはいけない。風姫には”ルリタテハの破壊魔”という、もう一つの二つ名がある。
 オレは確信をもって断言する。
「ウソだな」
「ウソ?」
 疑問形で尋ねた史帆から視線を外すように、風姫はアキトに顔を向ける。
「証明できるかしら?」
 コネクトを使えば・・・? いや風姫は、ユキヒョウ船内でコネクトを持ち歩かない。リモートコントロールは不可能・・・か。
 悔しいが、確信は持っているが・・・証明できない。
 待てよっ、ロイヤルリングがある。
「なぁ、聞いていいか?」
「何かしら?」
 誤魔化されないよう慎重に確認する必要がある。
「なんでユキヒョウ船内で、コネクトを持ち歩かないんだ?」
「必要ないからだわ」
 やっぱりだぜ。
「ロイヤルリングで、ユキヒョウ船内のコントロールは可能なんだな?」
「そうなの?」
 史帆が驚いたように呟いた。
「あら、良く分かったわね」
「・・・凄い」
 ここからが核心だ。
 さあ、一気にいくぜ。
「格納庫から気密ブロックへの扉もコントロールできるよな? オレより上位権限もってんだろ? それなら扉もロック可能だぜ。そうだよな?」
 風姫は含み笑いを美しい顔の下に隠す・・・気もないようだ。
「ああー、なるほど。そーーねーー。できそーーだわぁ。それはぁ、思いつかなかったわぁーー」
 あからさまに、台詞が棒読みだった。
 唸り声を殺しきれず、少しだけ音を漏らし、アキトは思わず右拳を固めた。
「ぐっ」
 殴りてぇー・・・。
 ヒメシロランドで絡んできたグリーンユースの連中の気持ちが、今なら理解できる。
 ユキヒョウは今、当初の目的地であるヒメジャノメ星系へ向かって、ワープ航路を疾走している最中であった。

 ダークマターハロー”カシカモルフォ”から、ヒメジャノメ星系は遠かった。通常航路とワープ航路を1週間以上かけ、ようやくヒメジャノメ星系に1日の距離まで辿り着いた。
 惑星シュテファンでヘルを拾うという余計なミッションの所為で、随分と遠回りした。それに費やさなくても良い、余計な時間をかけた。
 ヒメジャノメ星系へとワープインする宙域まで、約20時間の通常航路を進む。その後は、ワープ航路を約10時間疾走する。
 それでヒメジャノメ星系の第6、7惑星間の公転軌道上に、ワープアウトできるのだ。
 今ユキヒョウは、通常航路を順調に航行している。
 今は・・・。
「さあ、ヘンタイアキトがチューニングしたトライアングル実力を見せてくれるかしら?」
「オレの名前は、シンカイアキトだ。その件は、誤解もとけ、終わってたよな?」
「理由は分かったわ。しかし、あなたが私の部屋に忍び込み、下着を漁っていた事実に、変わりないわね。その事実だけでも万死に値するのに、私が部屋に戻った時、両手で下着を広げ熱心に見つめていたわ。だから、あなたは変態なのよ」
「下着を広げて熱心に見つめ、匂いまで嗅ぐな・・・」
「ちょっと待てやっ!」
 アキトの言い訳なんて聞きたくないと、史帆は手で耳を塞ぐ。
「オレは、そこまでしてねぇーぜ」
「私が見てない時に、匂いまで嗅いでいたなんて・・・。酷いわ」
 手を合わせ指を組み、風姫の体は少し震えていた。そして、彼女の白い肌は朱に染まり、碧い瞳が潤みはじめている。
「おいっ」
「凄い変態。・・・ヘンタイアキト。しっくりくるネーミング」
 史帆はいつもの抑揚の少ない口調で、アキトを罵倒したのだ。
 なんで、風姫の台詞は聞いてんだ。
 いや、それより、なんかオカシイぜ。
「なあ、オレの話聞いてっか?」
 アキトは睨みを効かせ、鋭い視線を史帆に突き刺す。
「・・・クズ」
 史帆はアキトから視線を外すよう下を向き、言い放った。
 しかし、彼女の声は震えていた。
 あー、やっぱりかぁ・・・。
 史帆の前に大きく一歩を踏み出し、剣呑な口調でアキトは彼女の名を呼びつける。
「史帆っ!」
 ビクッと肩を震わせ、史帆は徐に顔をあげる。怯えの表情が色濃く現れ、彼女の目尻は涙でぬれていた。
 ムリヤリ小芝居に引き込まれたんだな。
 主演”一条風姫”
 脚本・演出・演技指導”甲斐彩香”
 友情出演”速水史帆”
 ・・・と、いっところだろうな。
 視線をルリタテハの破壊魔に向ける。
「冗談が分かり難くくなってきたぜ、風姫」
「気づくか気づかないかのギリギリが、センスの良い悪戯だってジンが言ってたわ」
「それを信じて、実践する必要はないと思うけどな」
「そうかしら? 神様の言うことは、聞いた方がいいわ。いいかしら、ジンは一条家の始祖にしてルリタテハ王国の唯一神だわ。天罰が降るわよ」
 オレも口先だけとはいえ、ルリタテハ神に祈った事があったけなぁー。
 もう2度と祈ることはないがな。
「でっ、理由はなんだ?」
 風姫に訊いても時間の無駄だと考え、史帆に尋ねた。
「ワープ航法中の自由時間に、アキトが風姫を構ってあげないからだって」
 宇宙船はワープ航路内で、常に超高圧に晒される。その超高圧による圧壊を防ぐため、エナジーシールドが宇宙船全体を覆いつくす。そして恒星間宇宙船はワープアウトした後、速やかにエナジーシールドを切る。
 ワープ航路では超高圧下のため、エナジーシールドが一定の形状を保てる。しかし通常の宇宙空間では、エナジーシールドが一定の形状を保てず発散してしまう。つまりワープ航路内と同じ状態を保とうとすると、常にエナジーシールドを生成し続ける必要がある。それはワープエンジンに、膨大な負荷を掛けることになる。
 それ故ワープ中は、船に負荷のかかる一切を禁止されている。
 ジンからは、シミュレーションでの訓練すら免除されている。そこでオレは、久しぶりに研究開発へと没頭していたのだ。
 史帆の言葉は、まるで予想できなかったし、オレの頭に入ってこなかった。
「はっ?」
 あまりの衝撃で、アキトは呆けると同時に身構えていた。
 この先の展開が、まったく読めない。
 流石は甲斐彩香の脚本だ。
「違うわ! 理由はないわ」
 風姫の白い肌が、再び朱に染まった。
「彩香さんが、そう言ってた。だから・・・」
 風姫の肌の色が朱から赤へと移行した。そして、さっきは侵食を許さなかった耳の先までもが、朱色に染まる。
「なっ、なっ、何を・・・・」
 普段の透き通るような風姫の声が、今は裏返っている。
 何処から何処までが演技なのか?
「何をいってるのかしら? 史帆ったら、完全に誤解しているわよ」
「えっ? えーっと・・・」
「彩香は、こう言ったのではないかしら? 風姫は暇すぎると碌な事をしないから、アキトを使って暇つぶしましょう、と」
 自分で碌な事しないって言っちゃったし、認めちゃったぜ、お姫様よぉ。
「そうも言ってた・・・。でも・・・」
 風姫が史帆の台詞を遮るように、断言する。
「他に理由はないわ」
 風姫は生まれた瞬間からお姫様だった。ありのままの自分でいられる環境ではなかった。外では常に演技をしていなければならない。そういう幼年期を過ごした。そんな風姫をオレは可哀想だと感じていた。
 その話を彩香から聞かされた時は・・・。
 ジンと出会った所為で、風姫は抑えつけていた自我を解放させ、ありのままの自分でいられるようになった。その結果”ルリタテハの破壊魔”と呼ばれ、ジンと風姫の2人が揃うと”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”と呼ばれている。
 王族のクセに、国王から3年間の暇を押し付けられたヤツが可哀想なものかっ!
 たとえ環境の所為で今の性格が培われたのだとしても、限度ってぇーモノがあるだろう。
「そろそろ、カミカゼのテストをするぜ」
 アキトの発言の意図は、付き合いきれないから、勝手に作業を進めるということだった。
『ダメだな。汝は、これより5時間連続シミュレーション訓練を行うのだ』
 突如、第2格納庫にジンの偉そうな声が響いた。
 まるで計ったようなタイミングで・・・。
「なんでだ?」
『ワープ中は汝の好きにさせてた。通常航法に戻ったのだから、訓練を再開するのは当然だな』
 いや、絶対にタイミングを計っていたな。
 しかし、答えてくれないだろう推測よりも、アキトはジンの台詞の中で感じた疑問を口に出す。
「訓練は基本的に、実機を使って宇宙空間でするんじゃなかったのかよ」
『ヒメジャノメ星系への到着が遅れた分を取り戻すためだ』
 遅れたのはダークマターハローに立ち寄った所為だし、それを仕組んだのはジンだった。
「なあ、それってさぁー」
『ダラダラしてる暇なぞない』
「いや、ちょっと待てよ。遅れたのは・・・」
 そして遅れを増長させたのは、マッドサイエンティストのシュテファン・ヘルが、予定宙域まで進まず寄り道をしたからだ。
『訓練開始は10分後だ』
「おいっ!」
『以上!』
「ああっ、分かったよ。オレに拒否権はねぇーんだろ」
 素早くカミカゼ水龍カスタムモデルを格納庫に固定して、アキトはサムライのシミュレーションルームへと疾走した。
 風姫は憮然と史帆は唖然とし、第2格納庫の隅に取り残されたのだった。

 5時間連続のシミュレーション訓練の後、アキトは3時間だけ仮眠した。ユキヒョウの船長として、航行に重要な時は必ずコンバットオペレーションルームにいる。今はワープイン宙域に約1時間の距離であり、ユキヒョウを慣性航行へと移行させた。
 3Dホログラムでワープ航路図で、アキトはヒメジャノメ星系へ15光年であること確認した。いつの間にかダークマターハロー”カシカモルフォ”へのワープ航路を選択された時の反省からだった。
 ワープ航路図から周辺航路図に変更し、先行させた無人偵察機の位置をチェックする。順調にワープポイントへと前進しているようだ。
 現在の技術では、前もってワープアウト宙域を偵察できない。しかしワープインの時は、通常宇宙空間を航行しているので、前もって偵察艦や偵察機を派遣できる。
 軍の艦隊がワープインの宙域に赴く際、必ず偵察艦を派遣するのだ。
 それが軍隊の常識らしい。オレは知らなかった。・・・というより、知らないままの人生を送る予定だったけど・・・。
 常在戦場のジンは、今までも無人偵察機をワープインの宙域に派遣していて、オレも踏襲することにした。
 いや、訂正すべきが一点あるな。常在戦場ではなく、ジンの周囲が常に戦場になるの間違いだったぜ。
 先行している偵察機は順調にポイントへと近づき、周囲の様々な情報と映像を送ってくる。情報の中にはワープイン、ワープアウト可能なワープポイントのデータも含まれている。
 偵察機で一番大きな光学レンズのカメラを最高倍率でワープポイントに向けた。索敵システムのレーダーでは捉えられない敵でも、人の開発する船が目に見えないことはあり得ない。
 案の定というべきか、レーダーで捉えられなかった船が大型ディスプレイに映った。
 その映像に、アキトは我が目を疑った。
 いや疑いたかった。
 帆船?
 帆に書きなぐったような文字がある。
 漢字一文字で”宝”っぽい気もするが、気の所為だろう。
 何せ、七福神ロボがいない。
 それに、木造船風の塗装もされていない。
 そう、だから宝船ではない・・・と思う。
「お宝屋の宝船?」
 史帆の呟きは、アキトの鼓膜の中へと音を抉り込まれるように感じられた。
「あの失礼極まりない3兄弟の船ですね。ジン様、先手必勝です」
 彩香が冷徹な表情に、真剣な声でジンに物騒な提案をした。
「ちょっと待ったぁあぁあーー。何があったか知らねぇーけど。宝船は、民間のトレジャーハンティング船だぜ」
 ユキヒョウの全乗員がコンバットオペレーションルームにいる。そして全員の眼は大型ディスプレイに釘付になっていた。
「民間船が武装しているのだ。我には理解できぬな」
 テメーが言うかぁあ?
「ジン様。全く理解できそうにないゴウとやらに、天罰を下しても良いかと・・・。どうですか?」
「そうだな」
「そうだわ」
「そうです」
 ジン、風姫が彩香の物騒な提案に次々と賛成し、彼女が最後を締めくくったのだ。
「素晴らしいぃいぃいいい。なんてぇ、なんてぇー斬新なフォルムの宇宙船なんだぁあああああ。我輩は、お宝屋のセンスに脱帽だぁあああああああ。ジンよ、天罰は人にのみ与えれば良いのだろう? ならばぁああああ。あの船は我輩のモノしたい。・・・そうではない。アレは我輩のモノなのだぁああああああああ」
 惑星シュテファンでヘルを拾ってから、ユキヒョウ船内が5割増しで賑やかになっていた。・・・というか、ヘルがすっげぇーうるせぇー。
「おいおい。オレたちは宇宙海賊じゃねぇーんだぜ、ヘル」
「無益な戦闘は、しない方がいい」
 淡々としながらも、史帆は誠実な口調だった。
「しかぁーし、ルリタテハの唯一神が天罰を下すのだぁあああああ。それは合法以外にあり得ないではないかぁああああああ」
「史帆とヘルには、冗談も通じねぇーのかよ?」
 ジンと風姫が、悪戯っぽい笑顔をみせる。
「無論、冗談だがな」
「もちろん冗談だわ」
「・・・わたくしも冗談です」
 彩香の反応が遅かった。
 ゴウと何かあったか?
 1時間後、お宝屋とアキトは再会を果したのだった。

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