君がため

文戸玲

ひとりの部屋,ひとつの封書

宅配便? 

通常、ドローンで済まされる配達物に慣れたせいか,チャイムが鳴るとどこか不安な気持ちに駆り立てられる。
不在の時でさえ,備え付けの荷物受け取りポストへ入れると,住民の部屋にまで回転寿司の新幹線のごとく運ばれてくるこのご時世になんだろう。
よっぽど大切な書類が,いわゆる既読無視を防止するために受け取りサインを求めたり,金品にかかわるものは業者が運ぶことはあるが,これまでの人生に2、3度もそんな経験は無い。

こうにも急に家を出て人を会わさない生活を繰り返していると,玄関先が散らかっていることや、寝ている間に伸びた無精ひげが気にはなるが,そうも言っていられない。
何の要件だろうといぶかしみながら玄関先で荷物を受け取ると,あっけないほど軽くて小さな荷物だ。

小切手か? 

と一瞬期待もしたが,今時お金は電子マネーで管理している。
紙きれを手にもって存在価値を証明するなんて不合理なことなどあるはずもなく,書類の類いであることは明らかだ。

こぎれいな制服を身にまとった配達員にお礼を言い,グライダーに乗って颯爽と去っていくのを見届けると,荷物を机に置いた。
仕事が終わってから読もうと思ったが、思い立った。指紋認証のチップに人差し指を差し込み,封を開けた。

その中身を読んで,僕は思わず目をむいた。

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