美女女神から授かったチートスキル〜魅了〜を駆使して現代社会でたくさんの嫁を娶りたい!
青年編 第38話 温泉旅行②
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
電車が揺れ進む音が車内にいる俺の耳へと届く。
俺と氷堂先輩は目的の温泉へと電車に乗って移動中。
よもぎ駅から電車に乗って都会の駅に移動したあと、都会から出る山王線の電車に乗り換えて再び電車に乗って移動した。
そのあと、山王線からまた電車を乗り換えて、今は一両しかない古びた電車に乗って移動中。
時間はよもぎ駅を出発してから約1時間半くらいたっただろうか。
それでもまだ目的の場所に着くにはもうそろそろ時間がかかるようだ。
今、乗っている電車の様子はひっそりとして閑散としている。
この電車に乗っているのは私と氷堂先輩、そして若干数名程度だ。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
キィィィ。
カーブに差し掛かったので、古びた電車とレールの間で甲高い金切り音が鳴っている。
車窓から見える景色は乗り換えた最初の方は所々近代的な建物が見えていたものの、電車が山に向かって進むにつれてそれが畑や民家に移り変わっていって、遠くにみえていいた山は今やとても近くに見えている。
俺は初めて電車を乗る子供みたいに、目をキラキラさせながら車窓からの景色を眺めていた。
「ふふ。敦子ちゃんはなんだか小さい子供みたいだね」
「……そうですか? 滅多にこんな景色見ることができないもので……」
「そうよね。よもぎ町も都会ってほどは栄えてはいないけど、田舎ってわけでもないし、なにかと便利なところだもんね」
「そうなんですよね。学校も商店街もショッピングモールも公園も駅もなんだってありますからね」
「そうだね。やっぱり久しぶりに田舎の穏やかな景色を堪能すると心が和むわね」
「はい。訳あってこういう場所にはなかなか来れないもので……」
「そうなのね……まぁ、今日と明日はのんびりと旅行を楽しみましょうね」
「はい。もちろんです」
ガタンゴトンと揺れる車内には私たち以外に会話をしている音なんて一切聞こえてこない。
私と氷堂先輩が会話をやめてしまうと、聞こえてくるのは男の乗客の人が新聞をペラリとめくる音と電車から発せられる音のみ。
沈黙した空間の中から目に映る外の景色はいつも目の当たりにしている喧騒としたものではなく、畑、山、木造の家と非常に落ち着いて、どこか穏やかさを感じさせるもの。
夏であるにもかかわらず入り込んでくる日差しは強いどころか、柔らかくと感じられ、電車の窓を少しだけ開けて入ってくる風がすごく冷たく感じられて心地よい。
普段は人が沢山いる場所で生活している俺と氷堂先輩はこの穏やかな空間を無駄話をして乱してしまうのではなく、この空間と同化するの如く、悠揚としてこの貴重な時間を楽しむのであった。
話すこともなく、温暖な空気に身を任せていると、私も今日気合いを入れて朝早く起きたせいなのか、目の焦点が徐々に合わなくなっていき、いつの間にか目をすとんと落としてしまって、眠りの世界へと旅立ってしまっていた。
俺の意識は深くへと落ち込み、身体は氷堂先輩へと預ける形となってしまっていた。
そんな俺の様子を見た氷堂先輩は俺が預けた身体に寄り添うようにして、そっと先ほどまで開いていた目蓋を閉じて俺と同じように気持ちよさそうに眠った。
俺の意識は奥闇へとどんどんと行こうとする中、
「……あつこちゃん。……あつこちゃん」
どこからか誰かを呼ぶような声がする。
あつこちゃんって……
「……あつこちゃん。ついたわよ」
水色の髪をした綺麗な女性が俺の前に立っていて、俺を起こそうとしている。
徐々に落ちていった意識が戻っていき、
「ふぁぁぁあ!」
俺は目を擦って、大きく欠伸をした後、うーんと伸びをした。
「かなり、ぐっすり眠っていたみたいね」
あっ。そうだった。さっきまで電車に乗っていて、眠ちゃってたんだ……
「あっ! ごめんない……」
「いいのよ。わたしも気持ち良くて少しだけだけど眠ってしまっていたから。それにここは終電だからあまり焦らなくていいわよ」
私は完全にぐっすりと眠ってしまっていたらしい。
「…………そうですか」
俺は自分の体を入念に確かめて、
「ふぅ……よかったぁ……」
ぐっすりと眠ってしまっていだけど、ここで師匠の変身が解けてしまうなんて事件は起こることなく、一つ安堵した。
「……んじゃあ。荷物を持って外に出ましょうか?」
「はい。行きましょう」
私と氷堂先輩は荷物を持って、乗っていた電車の外へと一歩を踏み出す。
外に出ると、そこは森の中。
鳥が囀る声が響き渡り、風がそよそよと吹いて葉音が耳をくすぶる。
「うわぁぁ! すっごい涼しいですね! 夏なのにここはこんなにも涼しいんですね」
「そうでしょ! ここは山の中だからね」
気温はおそらく20度くらいだろう。
都会の気温はこの時期にはもう30度を超えた猛暑日が続き、かなり熱く過ごしづらい。
「夏に温泉ってなんだかなぁって思っていたんですけど……こんなに涼しいなら夏に温泉ってのもありですね」
「そうでしょ? あつこちゃんはわかってるわね」
夏の蒸し暑い都会の生活で、俺はわざわざ熱い思いまでして湯船に浸かるのは嫌になるからな……
これだけ涼しいなら露天風呂は普通にお風呂として楽しめそうだな。
いろんな意味でも露天風呂は最高なんだけども……
「じゃあ、先輩、早速旅館に行きましょう!」
俺は秘境に来たみたいに興奮し、先輩を目的の旅館に行こうと誘うのだが……
「うーん……最初に旅館かぁ……」
「え!? 旅館以外に行く場所があるんですか?」
「まぁ、いっか! 旅館に行って荷物を置いてから向かう事にしましょうか」
「先輩、ちなみにどこに行くんですか? やっぱり山に来たら滝とか小川とかそういう場所ですか?」
「え!? 違うわよ。そんなところに行ったら足が疲れちゃうじゃない……」
「まぁ……確かにそうですけど」
「行こうと思ってるのは近くの温泉街だよ?」
「あっ! そういうことですか」
「私たちが今日泊まるのは温泉街とはちょっと離れた山奥にある温泉だから、温泉街に行ってから向かおうと思ったんだけど。意外と早く着いたことだし、いっても温泉街は旅館から歩いても20分くらいだから、旅館に一度荷物を置いてからでも良さそうね」
「はい。後のことは先輩にお任せします。案内よろしくお願いしますね」
「うん。任せてちょうだい」
俺たちは山中にある駅からさらに山の奥にある目的の旅館へと向かって歩いていくと、突如自分の視界が真っ白になった。
こんな雪も一切降っていない場所でホワイトアウトなんてことがあるはずもなく、突如として視界を白く染め上げたものの正体それは、歩いている横に湧き出ている温泉だった。
湧き出ている温泉は小川を形成していて、町の方へと伸びている。
「こんなところからも温泉が湧いてるなんてすごいですね!」
「ここはいろんなところで温泉が湧き上がってくるからね! 街のところも温泉が出ていて、湯気のせいで視界が真っ白になるんだよ」
いつもなら見られない不思議な光景を目の当たりにしながらも、さらに森の奥へと進んでいく。
したは舗装はされておらず、けんけんぱができそうな平石が置かれているだけ。
そんな道を俺と氷堂先輩は上がっていく。
さらに奥へと進み、湯気が立ち上がり白く霞んだ視界の先に、うっすらと大きな建物が見えてきた。
とそこで、
「あ! 見えてきたわよ! 今日泊まるのはあそこの旅館よ!」
「えっ!? 本当ですか? こんな立派なジブリで出てきそうな旅館がですか?」
「そうよ! ここはおばあちゃんが大好きなところなのよ」
氷堂先輩に案内してもらいながら、立派な旅館へと向かっていく。
近づくごとに建物が大きくなっていき、白霞の先にあったのは一種の城とも思えるような荘厳とした建物であった。
大きな木造の扉は開いてて、扉の横には仁王像が二体立っている。
迫力ある門を抜けた先には、丁寧に整備された和風の庭園が両脇にあった。
無数の白い石に模様が美しく描かれていて、とても立派な庭園。
中央には東大寺にあるような立派な石畳が並べられていて、奥の入り口と思われる扉へと伸びている。
そんな道を無意識に少しばかり中央を開け、奥の扉へと向かう。
「ふふ。別に中央に神様なんて通らないわよ?」
「でも……」
そんな俺の様子を氷堂先輩はくすりと笑って、一緒に扉へと向かう。
木造の大きな引き扉を開けると、その先には
歳はとっているものの美しい浴衣に身を包んだ婦人がが俺たちを神様の如く丁寧にもてなしてくれた。きっとこの人はここの旅館の女将さんなのだろう。
「ようこそ! お越しくださいませ!」
だが、俺たちに礼をして俺たちの顔を見た途端、そんな型式ばった調子も崩れ去った。
「誰かと思えばしーちゃんじゃない!」
綺麗な婦人の声の調子からするに、氷堂先輩と縁がある人のようだ。
氷堂先輩も婦人を目にして、美しい目をうっすらと細めて、整った笑顔を向けていた。
「お久しぶりです、女将さん!」
やはり俺の思った通りこの綺麗な婦人はここの女将さんであるらしい。
旅館の景観同様に女将さんも気品がある方のようだ。
「しーちゃん、久しぶりね! 一年ぶりくらいかしら! 隣の子可愛い女の子はしーちゃんのお友達?」
「はい。学校の後輩の敦子ちゃんです!」
私は氷堂先輩に紹介してもらった後、自分でもしっかりと自己紹介をしておく。
「はじめまして! 時雨先輩の後輩の前田敦子と申します」
「月光館へようこそ。そんな緊張しないでいつも通りにして頂戴ね」
「あ、はい」
「それにしてもしーちゃんは一年見ないうちに随分と大きくなったわね〜。いろんなところが……」
女将さんは最初は氷堂先輩の頭頂部を見た後、胸部あたりで視線を硬直させた。
「いえいえ、大して変わらないですよ……」
氷堂先輩は少し顔を赤らめながらも、見られている胸元を手でそっと隠した。
「そんなことないわ。とても綺麗になったわよ!」
「それは、どうも……」
「それにしーちゃんがお友達をここに連れてきてくれるなんて、わたしとっても嬉しいわよ」
「ええ。今日はおばあちゃんたちが来るはずだったんですが、おじいちゃんが腰をやってしまったみたいで代わりに行ってきなっておばあちゃんに言われたので」
「そうだったのね……あの爺さんも歳だものね」
「はい……あ、女将さん。お部屋の方を案内してもらってもいいですか?」
「あっ。そうね。もうちょっと話をしたい気分だけど、また後にするわね! じゃあ、今予約してあったお部屋の方に案内させるわ。ちょっとそこのロビーのところで待ってて」
女将さんが美しいすり足でこの場を去った後、去った場所から違うお姐さんが現れて、部屋まで丁寧に案内してもらうのであった。
まずエレベーターに乗せられた後、エレベーターは上へと上昇していき、5階と書かれたところで停止した。
この月光館という名の城は5階層で構成されていて、二階が浴場となっていて、1階がロビーがあって、3〜5階までが宿泊する部屋がある。
最上階に上がってきたということは今日泊まる場所も最上階だということ。
お城の最上階といえばお殿様がいる場所。
つまりそれだけ高価だったいうことだ。
エレベーターの上昇が止まり、扉が開く。
廊下も床は寒さやささくれを防止するためなのか真っ赤な絨毯が敷かれてあったが、内装は穏やかな雰囲気を醸すために木が使われていて、より高級感と重厚感を感じるのであった。
お姐さんに導かれるまま歩いていき、お姐さんは龍の扉が描かれた場所の前で止まった。
「こちらでございます」
と、お姐さんが中に入るように促すように、扉を開けてくれた。
龍の扉の先には……
「うわぁああ! すっごい広いですね!」
15畳くらいの広さの居間がまず目に入り、その広い居間の中央に大きな木を一本をそのまま使ったと思われる歳月を思わせるようなテーブルがあり、
そのさらに奥には一面ガラスが貼ってあって、山に沈みゆく夕焼けが綺麗に見えそうだ。
それだけでなく、窓は開閉可能にものなって外にに出ることができ、外には木製のベランダが広がっていた。
机と椅子がおしゃれに設置されていて、朝でも夜でもロマンチックなひと時を過ごせるだろう。
居間から場所を変え移動してみると、風呂場があり、その風呂場の浴槽は檜を使っていて、とても芳醇な香りを漂わせていた。
触ると少しヌルッとするのだが、それも不快感などなく、どこか落ち着く感じがする。
と、風呂場の奥にまだ扉があり、サウナなのかなと思ってその扉を開くと、なんとそこにあったものとは……
露天風呂。
なんと、この部屋は露天風呂と普通の風呂を完備しているらしい。
普通にこの旅館には共用浴場もあったみたいだし、ここの部屋はやっぱり別格のようだ……
まず最上階にして、あれほどの広さの居間に、貸し切り状態の露天風呂。
ここに普通に宿泊しようとしたらどれぐらいの値段するのだろうか……
今の自分で払えないこともないが、前の人生の俺だったら結婚式の費用を全て費やさないと払えなかったかもしれないだろう。
こんな立派な部屋に私と氷堂先輩が2人で泊まる……
いったい何が起こるんだろうか……
俺は氷堂先輩と起こり得るであろう事の妄想にブドウ糖をかなりの量、消費するのであった。
俺は妄想から現実へと意識を引き上げてた。こんな充実した環境ではあるのだが、少し気になることがあるとするならば、氷堂先輩の親愛度が一度下がって以来70から一向に上がらないということだ。
こんな不安も、豪華な旅館という最高の環境の中では親愛度10なんてどうとでもなるだろう……
と、俺はこの事態を軽く考えていたのであった。
          
電車が揺れ進む音が車内にいる俺の耳へと届く。
俺と氷堂先輩は目的の温泉へと電車に乗って移動中。
よもぎ駅から電車に乗って都会の駅に移動したあと、都会から出る山王線の電車に乗り換えて再び電車に乗って移動した。
そのあと、山王線からまた電車を乗り換えて、今は一両しかない古びた電車に乗って移動中。
時間はよもぎ駅を出発してから約1時間半くらいたっただろうか。
それでもまだ目的の場所に着くにはもうそろそろ時間がかかるようだ。
今、乗っている電車の様子はひっそりとして閑散としている。
この電車に乗っているのは私と氷堂先輩、そして若干数名程度だ。
ガタンゴトン。ガタンゴトン。
キィィィ。
カーブに差し掛かったので、古びた電車とレールの間で甲高い金切り音が鳴っている。
車窓から見える景色は乗り換えた最初の方は所々近代的な建物が見えていたものの、電車が山に向かって進むにつれてそれが畑や民家に移り変わっていって、遠くにみえていいた山は今やとても近くに見えている。
俺は初めて電車を乗る子供みたいに、目をキラキラさせながら車窓からの景色を眺めていた。
「ふふ。敦子ちゃんはなんだか小さい子供みたいだね」
「……そうですか? 滅多にこんな景色見ることができないもので……」
「そうよね。よもぎ町も都会ってほどは栄えてはいないけど、田舎ってわけでもないし、なにかと便利なところだもんね」
「そうなんですよね。学校も商店街もショッピングモールも公園も駅もなんだってありますからね」
「そうだね。やっぱり久しぶりに田舎の穏やかな景色を堪能すると心が和むわね」
「はい。訳あってこういう場所にはなかなか来れないもので……」
「そうなのね……まぁ、今日と明日はのんびりと旅行を楽しみましょうね」
「はい。もちろんです」
ガタンゴトンと揺れる車内には私たち以外に会話をしている音なんて一切聞こえてこない。
私と氷堂先輩が会話をやめてしまうと、聞こえてくるのは男の乗客の人が新聞をペラリとめくる音と電車から発せられる音のみ。
沈黙した空間の中から目に映る外の景色はいつも目の当たりにしている喧騒としたものではなく、畑、山、木造の家と非常に落ち着いて、どこか穏やかさを感じさせるもの。
夏であるにもかかわらず入り込んでくる日差しは強いどころか、柔らかくと感じられ、電車の窓を少しだけ開けて入ってくる風がすごく冷たく感じられて心地よい。
普段は人が沢山いる場所で生活している俺と氷堂先輩はこの穏やかな空間を無駄話をして乱してしまうのではなく、この空間と同化するの如く、悠揚としてこの貴重な時間を楽しむのであった。
話すこともなく、温暖な空気に身を任せていると、私も今日気合いを入れて朝早く起きたせいなのか、目の焦点が徐々に合わなくなっていき、いつの間にか目をすとんと落としてしまって、眠りの世界へと旅立ってしまっていた。
俺の意識は深くへと落ち込み、身体は氷堂先輩へと預ける形となってしまっていた。
そんな俺の様子を見た氷堂先輩は俺が預けた身体に寄り添うようにして、そっと先ほどまで開いていた目蓋を閉じて俺と同じように気持ちよさそうに眠った。
俺の意識は奥闇へとどんどんと行こうとする中、
「……あつこちゃん。……あつこちゃん」
どこからか誰かを呼ぶような声がする。
あつこちゃんって……
「……あつこちゃん。ついたわよ」
水色の髪をした綺麗な女性が俺の前に立っていて、俺を起こそうとしている。
徐々に落ちていった意識が戻っていき、
「ふぁぁぁあ!」
俺は目を擦って、大きく欠伸をした後、うーんと伸びをした。
「かなり、ぐっすり眠っていたみたいね」
あっ。そうだった。さっきまで電車に乗っていて、眠ちゃってたんだ……
「あっ! ごめんない……」
「いいのよ。わたしも気持ち良くて少しだけだけど眠ってしまっていたから。それにここは終電だからあまり焦らなくていいわよ」
私は完全にぐっすりと眠ってしまっていたらしい。
「…………そうですか」
俺は自分の体を入念に確かめて、
「ふぅ……よかったぁ……」
ぐっすりと眠ってしまっていだけど、ここで師匠の変身が解けてしまうなんて事件は起こることなく、一つ安堵した。
「……んじゃあ。荷物を持って外に出ましょうか?」
「はい。行きましょう」
私と氷堂先輩は荷物を持って、乗っていた電車の外へと一歩を踏み出す。
外に出ると、そこは森の中。
鳥が囀る声が響き渡り、風がそよそよと吹いて葉音が耳をくすぶる。
「うわぁぁ! すっごい涼しいですね! 夏なのにここはこんなにも涼しいんですね」
「そうでしょ! ここは山の中だからね」
気温はおそらく20度くらいだろう。
都会の気温はこの時期にはもう30度を超えた猛暑日が続き、かなり熱く過ごしづらい。
「夏に温泉ってなんだかなぁって思っていたんですけど……こんなに涼しいなら夏に温泉ってのもありですね」
「そうでしょ? あつこちゃんはわかってるわね」
夏の蒸し暑い都会の生活で、俺はわざわざ熱い思いまでして湯船に浸かるのは嫌になるからな……
これだけ涼しいなら露天風呂は普通にお風呂として楽しめそうだな。
いろんな意味でも露天風呂は最高なんだけども……
「じゃあ、先輩、早速旅館に行きましょう!」
俺は秘境に来たみたいに興奮し、先輩を目的の旅館に行こうと誘うのだが……
「うーん……最初に旅館かぁ……」
「え!? 旅館以外に行く場所があるんですか?」
「まぁ、いっか! 旅館に行って荷物を置いてから向かう事にしましょうか」
「先輩、ちなみにどこに行くんですか? やっぱり山に来たら滝とか小川とかそういう場所ですか?」
「え!? 違うわよ。そんなところに行ったら足が疲れちゃうじゃない……」
「まぁ……確かにそうですけど」
「行こうと思ってるのは近くの温泉街だよ?」
「あっ! そういうことですか」
「私たちが今日泊まるのは温泉街とはちょっと離れた山奥にある温泉だから、温泉街に行ってから向かおうと思ったんだけど。意外と早く着いたことだし、いっても温泉街は旅館から歩いても20分くらいだから、旅館に一度荷物を置いてからでも良さそうね」
「はい。後のことは先輩にお任せします。案内よろしくお願いしますね」
「うん。任せてちょうだい」
俺たちは山中にある駅からさらに山の奥にある目的の旅館へと向かって歩いていくと、突如自分の視界が真っ白になった。
こんな雪も一切降っていない場所でホワイトアウトなんてことがあるはずもなく、突如として視界を白く染め上げたものの正体それは、歩いている横に湧き出ている温泉だった。
湧き出ている温泉は小川を形成していて、町の方へと伸びている。
「こんなところからも温泉が湧いてるなんてすごいですね!」
「ここはいろんなところで温泉が湧き上がってくるからね! 街のところも温泉が出ていて、湯気のせいで視界が真っ白になるんだよ」
いつもなら見られない不思議な光景を目の当たりにしながらも、さらに森の奥へと進んでいく。
したは舗装はされておらず、けんけんぱができそうな平石が置かれているだけ。
そんな道を俺と氷堂先輩は上がっていく。
さらに奥へと進み、湯気が立ち上がり白く霞んだ視界の先に、うっすらと大きな建物が見えてきた。
とそこで、
「あ! 見えてきたわよ! 今日泊まるのはあそこの旅館よ!」
「えっ!? 本当ですか? こんな立派なジブリで出てきそうな旅館がですか?」
「そうよ! ここはおばあちゃんが大好きなところなのよ」
氷堂先輩に案内してもらいながら、立派な旅館へと向かっていく。
近づくごとに建物が大きくなっていき、白霞の先にあったのは一種の城とも思えるような荘厳とした建物であった。
大きな木造の扉は開いてて、扉の横には仁王像が二体立っている。
迫力ある門を抜けた先には、丁寧に整備された和風の庭園が両脇にあった。
無数の白い石に模様が美しく描かれていて、とても立派な庭園。
中央には東大寺にあるような立派な石畳が並べられていて、奥の入り口と思われる扉へと伸びている。
そんな道を無意識に少しばかり中央を開け、奥の扉へと向かう。
「ふふ。別に中央に神様なんて通らないわよ?」
「でも……」
そんな俺の様子を氷堂先輩はくすりと笑って、一緒に扉へと向かう。
木造の大きな引き扉を開けると、その先には
歳はとっているものの美しい浴衣に身を包んだ婦人がが俺たちを神様の如く丁寧にもてなしてくれた。きっとこの人はここの旅館の女将さんなのだろう。
「ようこそ! お越しくださいませ!」
だが、俺たちに礼をして俺たちの顔を見た途端、そんな型式ばった調子も崩れ去った。
「誰かと思えばしーちゃんじゃない!」
綺麗な婦人の声の調子からするに、氷堂先輩と縁がある人のようだ。
氷堂先輩も婦人を目にして、美しい目をうっすらと細めて、整った笑顔を向けていた。
「お久しぶりです、女将さん!」
やはり俺の思った通りこの綺麗な婦人はここの女将さんであるらしい。
旅館の景観同様に女将さんも気品がある方のようだ。
「しーちゃん、久しぶりね! 一年ぶりくらいかしら! 隣の子可愛い女の子はしーちゃんのお友達?」
「はい。学校の後輩の敦子ちゃんです!」
私は氷堂先輩に紹介してもらった後、自分でもしっかりと自己紹介をしておく。
「はじめまして! 時雨先輩の後輩の前田敦子と申します」
「月光館へようこそ。そんな緊張しないでいつも通りにして頂戴ね」
「あ、はい」
「それにしてもしーちゃんは一年見ないうちに随分と大きくなったわね〜。いろんなところが……」
女将さんは最初は氷堂先輩の頭頂部を見た後、胸部あたりで視線を硬直させた。
「いえいえ、大して変わらないですよ……」
氷堂先輩は少し顔を赤らめながらも、見られている胸元を手でそっと隠した。
「そんなことないわ。とても綺麗になったわよ!」
「それは、どうも……」
「それにしーちゃんがお友達をここに連れてきてくれるなんて、わたしとっても嬉しいわよ」
「ええ。今日はおばあちゃんたちが来るはずだったんですが、おじいちゃんが腰をやってしまったみたいで代わりに行ってきなっておばあちゃんに言われたので」
「そうだったのね……あの爺さんも歳だものね」
「はい……あ、女将さん。お部屋の方を案内してもらってもいいですか?」
「あっ。そうね。もうちょっと話をしたい気分だけど、また後にするわね! じゃあ、今予約してあったお部屋の方に案内させるわ。ちょっとそこのロビーのところで待ってて」
女将さんが美しいすり足でこの場を去った後、去った場所から違うお姐さんが現れて、部屋まで丁寧に案内してもらうのであった。
まずエレベーターに乗せられた後、エレベーターは上へと上昇していき、5階と書かれたところで停止した。
この月光館という名の城は5階層で構成されていて、二階が浴場となっていて、1階がロビーがあって、3〜5階までが宿泊する部屋がある。
最上階に上がってきたということは今日泊まる場所も最上階だということ。
お城の最上階といえばお殿様がいる場所。
つまりそれだけ高価だったいうことだ。
エレベーターの上昇が止まり、扉が開く。
廊下も床は寒さやささくれを防止するためなのか真っ赤な絨毯が敷かれてあったが、内装は穏やかな雰囲気を醸すために木が使われていて、より高級感と重厚感を感じるのであった。
お姐さんに導かれるまま歩いていき、お姐さんは龍の扉が描かれた場所の前で止まった。
「こちらでございます」
と、お姐さんが中に入るように促すように、扉を開けてくれた。
龍の扉の先には……
「うわぁああ! すっごい広いですね!」
15畳くらいの広さの居間がまず目に入り、その広い居間の中央に大きな木を一本をそのまま使ったと思われる歳月を思わせるようなテーブルがあり、
そのさらに奥には一面ガラスが貼ってあって、山に沈みゆく夕焼けが綺麗に見えそうだ。
それだけでなく、窓は開閉可能にものなって外にに出ることができ、外には木製のベランダが広がっていた。
机と椅子がおしゃれに設置されていて、朝でも夜でもロマンチックなひと時を過ごせるだろう。
居間から場所を変え移動してみると、風呂場があり、その風呂場の浴槽は檜を使っていて、とても芳醇な香りを漂わせていた。
触ると少しヌルッとするのだが、それも不快感などなく、どこか落ち着く感じがする。
と、風呂場の奥にまだ扉があり、サウナなのかなと思ってその扉を開くと、なんとそこにあったものとは……
露天風呂。
なんと、この部屋は露天風呂と普通の風呂を完備しているらしい。
普通にこの旅館には共用浴場もあったみたいだし、ここの部屋はやっぱり別格のようだ……
まず最上階にして、あれほどの広さの居間に、貸し切り状態の露天風呂。
ここに普通に宿泊しようとしたらどれぐらいの値段するのだろうか……
今の自分で払えないこともないが、前の人生の俺だったら結婚式の費用を全て費やさないと払えなかったかもしれないだろう。
こんな立派な部屋に私と氷堂先輩が2人で泊まる……
いったい何が起こるんだろうか……
俺は氷堂先輩と起こり得るであろう事の妄想にブドウ糖をかなりの量、消費するのであった。
俺は妄想から現実へと意識を引き上げてた。こんな充実した環境ではあるのだが、少し気になることがあるとするならば、氷堂先輩の親愛度が一度下がって以来70から一向に上がらないということだ。
こんな不安も、豪華な旅館という最高の環境の中では親愛度10なんてどうとでもなるだろう……
と、俺はこの事態を軽く考えていたのであった。
          
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