炎罪のウロボロス

あくえりあす

62、永遠の夜

止めないと。
私を止めないと。

「……だ、だめ、だ。……い、行くな」

わかっていた。私の声など届かないことなど。
なぜならあの時の私には、そんな声は聞こえなかったのだから。

15歳の私が、私を置いて遠くへ行くのを感じた。
どこに行き、どうなるのか。すべては悲しいほどわかっている。

「……か、母さん」

ふと、薄れ行く意識の中で、光を感じた。
だが残念ながら、それは神のお迎えなどではなかった。

「また、ダメだったね」

声の主が何者なのか。もう顔を上げることすらできない私であったが、その確認をするまでもない。

「だから言ったじゃないか。この件で不安や疑心を持ったり、後悔してはいけないとね」

エノク!

力を振り絞ったが、声にはならなかった。

「君はまた、この夜に囚われてしまったんだね」

松明の炎が揺れる音がした。消えゆく視界の中で、光が揺らめくのもわずかに見えた。

「じゃ、僕は行くよ。……いつになったら、君はここから抜け出すことが出来るんだい」

その言葉とともに、光が遠ざかってゆくのを私は感じていた。

(終)

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