炎罪のウロボロス

あくえりあす

58、奇妙な違和感


「繰り返します。サン・ディエゴ最高幹部会議は先程緊急声明を発表いたしました」

まさに心臓が凍り付くような感覚を私は覚えた。

「これ以上の混乱に終止符を打ち、事態を決定的に好転させるため、サン・ディエゴ最高幹部会議は本日、日本時間の午後9時に大陸南部の不法占拠を続けているCFAの拠点に対し、新型ミサイルによる攻撃を行ったと発表しました。繰り返します――」

「えっ?!……なんだとっ!?」

まるで自動化された追尾装置のように、私の意識は、今現在進行している重大情報へと不意にその照準を合わせた。そしてその驚愕すべき内容を認識した瞬間、当然のごとく、私は著しく困惑した。

「どういうことだっ?!」

私は思わず大きな声を上げた。

「社長。目的地に間もなく到着です」

「いや、そうではなく……いったい何が起きたか説明してくれ!……今、少し考え事をしていて、聞いていなかった部分があるんだ」

私は強い苛立ちを覚えた。そして感情そのままに語気を強め、AIの秘書にそう言葉を返した。
だが……ふと、何か奇妙な違和感を私は秘書に感じた。
私の伝え方が悪かったのは認めよう。だが、この緊急時である。普段なら我が優秀な秘書は、決して事の大小、順序を見誤ることなど無い。
つまり私の曖昧な言葉や指示に対しても、これまで蓄積してきた膨大なデータをもとに、常に「彼女」は、最適解を瞬時に探し当て、確実に期待した通りの応対を示してきたのだ。だが今の彼女は優先すべきを見誤り――いや、それ以前に、いつもとはまるで違い、彼女の口調は、まるで機械的で無機質な単語の羅列に過ぎない抑揚を示したのだ。

「サン・ディエゴの声明に関して、より深度の深い情報はないか?」

そのことに気付いた私は、努めて動揺を抑え、今一度、秘書に問い直した。
元々――AIの思考を言語化し、それを合成音で再現しているだけに過ぎない存在。それが今、私が「会話」をしている相手だ。
だから、何か違和感を感じたからといって、それは何か些細な故障や不具合により生じた、極めてテクニカルな事象に過ぎないはずだ。

―――いや、そんなことはあり得ない!

しかし、こうした自らの楽観論に対してもまた、私の魂が発する叫び声が全面的に否定してくる。
鼓動が速まるのを感じる。強い恐怖と焦燥が私の心身を蝕む。

「…しゃちょ……いかがさ……申し訳ございませ……音声が聞き取……」

「いや、ありえない。そんなことはあり得ない。俺は信じない」

私はあえて、その思いを声にして出した。いや、本心を打ち消す為、私は心にもないことを意図的に口にしたのだ。

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