炎罪のウロボロス

あくえりあす

57、確信


私が必死に記憶を手繰り寄せているその間にも、クルマは順調に目的地に向かっていた。そのことにも気づかなかったが、高速を下りて以降、周囲を走るクルマは一切なかった。いや、そればかりか、道路沿いには民家が立ち並んでいるにも関わらず、人が暮らしている気配さえ感じられなかった。ただむなしく、ポツンポツンとかなりの距離を置いて設置された街灯が、路面を照らすのみであった。

「だとして……」

一体いつ、どうやって奴は……エノクは、俺の願望を知ったというのだ?
なぜ俺の秘めた願望が、奴に届いたのだ?

そう思った瞬間。なぜか私の中で、説明のしようがない確信めいたものが、ふと生じた。

きっと、あの時だ。
鍵をかけ、部屋に引きこもった、あの時。あの運命の日を迎えるまでのおよそ一か月間。私は昼となく、夜となく、部屋の中で強く強く願い、ずっと望んでいた。
一体何を――?
自由を、富を、名誉を、地位を、権力を、理想の家庭を、と同時に、そしてそれ以上に強く、憎み、呪い、願った世界の終焉を……あのエノクという何者かは全てを聞き入れ、今私の目の前にそれらの全てを具象化させた。

「……そんな、はずは」

認めたくなかった。だが、私の確信は深まることはあっても、その逆はない。もちろん、この確信を証明する証拠の類など一切なかった。しかし、私の中の心の声が、感情が、あらゆる感覚が、全本能が、私自身に、それこそが間違いなく正解だと訴えかけてくるのだ。

『そう。それは君が望んだからなんだ』

私が望んだからあの男が現れた。
なぜ?
それは私の望みを叶えるため。
あの時願った私の強い思いが、あの男に――神か、悪魔かは知らぬが――届いたからこそ、あいつは私の前に現れ、契約は実行に移されたのだ。

「全ては……俺のせいだ……」

私は自分の成功と引き換えに、世界を悪魔に売ったというのか?
違う……俺は自分の罪を帳消しにするため、その取引材料として世界の命運をあいつに引き渡したんだ。

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