炎罪のウロボロス

あくえりあす

55、私が望んだ世界。望まなかった世界。

だから、なぜこんな世界になってしまったのか、私には全く理解できなかった。
あの日、あの男は――エノクは言った。私の望みをすべて叶えると。個人的にはまさにそうなった。だが、世界がこんな風になることを、私は望んでなどいなかった。

「なんでこんな世界になってしまったんだ……」

いや確かに、私は不幸な自分と、そんな自分の運命を強く恨み、そして呪っていた。一層のこと、こんな人生終わらせてしまいたい。そしてこんなおぞましい世界など無くなってしまえばいいと思ったことは、一度や二度では済まない。
しかし、である――。

「……俺が」

あの男と契約を交わしたとき、言うまでもなく、私はこんな世界にしてくれなどとは頼んでもいないし、もちろん望んでもいなかった。
だから、私の人生はともかく、世界の現況に私とあの男の契約が何らかの影響を及ぼしているなどということは絶対にあるはずがない。
あの時、あの男はこういった。

疑問に思うな。後悔するな。不安になるな。

と――。
私はその言葉を全力で、そして忠実に今日まで守って来た。そして努めて、ネガティブな感情や思考も持たぬよう心掛け、それを実行もしてきた。

「だが、そういえば……いや……」

何か大事なことを私は忘れてしまっているのか?
そしてやはり、あの男との契約が、今日の世界を現出させる、何か原因になっているのだろうか?

あの日、あの時の出来事を、忘れることなど決してできはしない。だが、その記憶を封印しようとしてきたことも確かだ。
だから細部について、あるいは何か決定的なことを私は思い出せずにいるのではないか――。
車窓から見える、地を覆う大きな闇の空間を目にしながら、そんな風にあれこれと思いを巡らしているうちに、私は不意にバラバラだった記憶のピースが一つ、また一つとはまっていくのを感じた。

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