炎罪のウロボロス

あくえりあす

54、間違っていた自画像


そうか……俺は長いこと、自分に対して、えらく思い違いをしていたんだな……。

私は知っていた。この秘書が決して嘘など付けないことを。それどころかオベンチャラもいわなければ、ご機嫌取りも絶対することはない。
ときにジョークを飛ばしたり、ウィットに富んだ会話を機能的には出来るものの、私は秘書仕様に必要のないものとして、その設定を利用開始時点で既に排除していた。
だから彼女が下した私への人物像は、間違いなく100%正しい。

俺は、ずっと思いこんでいたんだ……自分はそういう人間だって……。

ふと少年期の自分を思い起こす。
暗く辛かった日々。暴力と、貧困に耐え、環境の変化に苦悩し、やがて私は、あの運命の日の、あの夜を迎えた。

俺は……たしかに……。

私は思い出す。
あの頃の心情を。その思考を。

確かに俺はあのとき……いや、あの頃ずっと思っていた……

自由になりたい。こんな生活から抜け出したい。その為にはまずもって、何よりもカネが必要だ、と。そして、カネが多ければ多いほど、きっとより自由に生きられる。誰にも指図されず、誰にも支配されることなく、誰にも振り回されることなく、自由に生きられるはずだ、と。
とはいえ、支配者階層に君臨することを夢想したわけではない。私が望んだのは、ごく普通の、暖かくて、笑ったり、泣いたり、ともに感じ、ともに思い出を共有する、そんな家族を、そんな家庭を築きたい、手に入れたいと思っただけだ。
最愛のパートナーとの幸福に満ちた空間、時間を過ごし育むことを、私はただ望んだだけだ。
そして私は、あの“運命の日”以来、そこに向かって真っすぐ歩んできただけなのだ。

それに俺は……俺のすぐ傍にいる、周りにいる人たちの役に立ちたいと……頑張って来た。俺が望み、俺がやって来たことといえば、ただそれだけのことだ。

そう。私は今日まで、自分の理想を手に入れるため、何をすべきかを考えた。口下手で内気な自分だけど、そんな自分にできることは、いったい何のか。
やがてその過程で私は気付いたのだ。私は誰かの役に立つことをするたびに、自らが幸福を感じるということに。
だから私はそうした職業を選んだ。そしてそれに没頭してきた。そんな生活に、仕事に、私は夢中になっているうちに、気が付けば私は手に入れたかったものの多くを、既にこの手に掴んでいたのだ。

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