炎罪のウロボロス

あくえりあす

46、心の底からの感謝


母の目から、見る間に大粒の涙がこぼれ落ちて行った。義父がそんな母の方に手をやりながら、大きく頷く。

「そうか」

義父の物言いはぶっきらぼうながら、十二分に温かみが伝わって来た。

「がんばれ。応援しているぞ」

母も、止め処も無く流れ落ちる涙を指先で拭いながら、必死に言葉を絞り出した。
「……ごめんね。ずっと、苦労掛けてたから……大変だったと思うけど、一緒に……一緒に頑張ろう」

ああ……俺は、愛されていたんだ。
……どうして今まで、俺はこのことにまるで気付きもしなかったのだろう?

不安。疑念。そして後悔。
そんなものあるわけがない。あろうはずもない。
全ては都合よく……いや、本来あるべき姿に、形に納まり、行いも存在も"悪"と名の付くものは無に帰したのだ。
そしてそれは、間違いなくあの"エノク"と名乗った謎めいた青年のおかげであった。

エノク……ありがとう。本当にありがとう。

私は心の底から彼に感謝した。と同時に、過去に起こった全ての呪われたような出来事を、さらには昨晩、私自身がしでかした許され難い罪との決別を誓った。

やり直せるんだ。俺は人生をもう一度……自分の手でもう一度、やり直すんだ。

そう。まだ15歳の少年に過ぎなかい私の人生なんて本当の意味では、まだ始まってすらいない。
だが「どん底」を味わった記憶は厳然と残っている。いや、だからこそ、どん底というヤツを知ったからこそ、人生をやり直すことの価値を、生きる意味の尊さを、私は強い感謝の念を持って実感できるのだということを悟った。

ありがとう

私は今一度心の中で、全ての存在に対して、そして全ての事柄に対して、感謝の念を述べた。

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