炎罪のウロボロス

あくえりあす

40、契約を成立させるには……


「必要なのはこれさ」

松明の炎が、男の顔を、このときはじめてはっきりと映し出した。
青白い肌。整った、でもどこか儚げなその相貌。そして神秘的な輝くを放つ金色の瞳。
やはり――やはりこの男は人間ではない。私は思わず身震いをした。

「さあ、受け取り給え」

私の心は無になった。思考もゼロだ。気が付けば、ただ言われるがままに手を伸ばし、男から松明を受け取っていた。
その刹那、わずかに私の手に男の指先が触れた。

「……これで、契約は成立……したんだね」

いざ手にした松明は重く、炎が放つ強い熱に少々たじろぐ。

「いや、まだだ。サインは終わっていないよ」

この謎めいた美青年は、首を二、三度横に振った後、静かにそう述べた。
炎が揺らめく。私の心も揺れそうになるが、これも何とか押しとどめる。
動揺はしてはならない。私は必死になって心をまた無に戻した。

「何を……すればいい?」

紙にサインをしないというなら、何か秘密儀式のような行うというのか?
結論から言えば、私の予想は当たったともいえるし、外れたともいえる。
サインの代わりに彼が求めたものは確かに秘密儀式と呼ぶにふさわしい行いであった。
が、それは予想をはるかに超える恐ろしいものだったのだ。
男が、相変わらず抑制が効いたトーンで答えた。

「その松明の炎で、僕の、この身を焼いてくれ。それで契約は成立する」

さすがにこの場面で動揺を抑えることは不可能だった。
私の鼓動は激しくなり、言葉もうまく口から出ない。

「え?……ど、ういう……どういう意味、だ?」

「そのままの意味だよ。その松明の炎を、君は僕のこの体にただ押し付ければいいんだ」

「いや、でも……」

意味が分からない。
だがそれでも極力私は動揺を抑えようと必死になった。

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