炎罪のウロボロス

あくえりあす

27、追って来た者


やっぱりこいつは、俺を追って来たデカだったんだ!

そう思った刹那だった。私には確かに聞こえた。もはや絶対に聞こえるはずのないその声を。

『おい! いるのはわかっているんだ! 出てこい!』

私はその瞬間、究極の選択をした。まったく無意識のうちに。あたかも何者かの命令に、考える余地もないままに従うかの如くに。
闘争か逃走か。気付けば私は迷うことなく前者を選んでいた。

手にしていた小さなナイフに力を込めるのとほぼ同時に、私は自分でも驚くほどスムーズに立ち上がり、暗闇でよく見えないうえ、草木が生え足場が悪い状態にもかかわらず、私は不思議なほど滑らかに駆け出すことが出来た。
それは邪神の導きか?
あるいは悪魔の手引きだったのか?
私は殆ど瞬時のうちに木々を縫い、草場を駆け抜けた。そして男が立つ目の前にまで達した。
それでも暗闇のせいで、男の相貌ははっきりとは見えなかった。
だがそれはある意味幸いだった。それは――相手にも自分の姿ははっきりとは見えない――と同時に、相手の表情が見えない分、私は良心の呵責に苛まれることなく、躊躇なしに刃物をその男に突き立てることが出来たからだ。

「……お、お前は?!」

男が短く、そう発した。だがその時にはすでに、私の右手にあったナイフは、男の胸に突き刺さっていた。

やっぱり俺を追っていたデカだったんだ。

あのチンピラどもから、きっと私の風体は正確に伝わっていたのだろう。
そんな推論が頭をめぐる。と同時に、私は目の前の男にしっかりとトドメを刺さねばならない――と意を強くした。
そしてありったけの力で、男の胸から引き抜いたナイフを二度、三度と強く刺した。

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