炎罪のウロボロス

あくえりあす

26、後悔


私は一気に緊張した。草陰で息を凝らそうと努めたが、思いとは逆に息は激しくなるばかりだった。動悸も一層激しくなる。加えて全身からどっと汗が吹き出した。
よせばいいのに、私は下げていた頭を思い切って少し上げた。そしてクルマの方に目をやった。
木々に囲まれた夜の闇の只中にあっても、ヘッドライトのおかげでクルマの輪郭はある程度見えた。とはいえ、さすがに車種はもちろん、全体の形も今一つ掴めなかった。そのカラーリングも同様だ。いずれ黒や濃紺といった暗めのものに思えたが、正確なところはわからない。
クルマはその場に止まったまま、しばし次のアクションを何ら起こさずにいた。その時間は永遠のようにも感じられたが、実際には恐らく……数秒か、長くても十数秒であっただろう。
そして……ついにクルマのドアが静かに開き、人が出てきた。確認できた人数は一人。男のようだ。さすがに年齢までは見当がつかなかったが。
男は辺りを見回し、車中に待機しているであろう人物と何かやりとりをしているように見えた。
それから男は、周囲を見回した。私は咄嗟に頭を下げようとしたが留まった。下手に動くとかえって危険だと判断したからだ。私はそのままの姿勢でしばらく男の様子を伺っていた。
だが、私はやはり身を隠すべきだったと、すぐに後悔することとなった。
しばらく頭をあちこちに向けていたその男の体が、ある瞬間ピタリと止まった。暗くてよくわからないものの、どこに視線を向けているのか、その男の姿勢から可能性は二つしかなかった。
その体勢が示す男のシルエットから判断できること。それは……こちらを見つめているか、あるいは背を向けているのか、どちらかしかない。
私は無論、背を向けていることを望んだが、残念ながら男はこちらに視線をくれているようであった。その理由も明白だ。男がこちらに向かって前進してきているのがわかったからだ。しかもどうやら、男は私に視線を向けている。明らかに木陰の中に私という「人影」をある種の確信を持って気取っているようであった。
私の鼓動はいよいよ激しさを増し、息も一層乱れた。全身からは恐怖からなる滝のような汗がさらに噴き出した。

どうする? 
どうすればいいんだ?俺は!

男はクルマを離れ、遂におよそ10メートル付近にまで近づいてきた。男が私から最早視線を外さないようにしているのは明らかだった。

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