炎罪のウロボロス

あくえりあす

5、愛する妻と優秀な秘書


「お客様はどうかな? 間に合いそうかな?」

「はい。お客様がご到着するのは、今からおよそ17分ほど後になるものと予想されます」

「よろしい」

秘書が告げた予想は、いつものように全て現実となった。
私が乗る、軍がわざわざ用意してくれた、見た目はスタイリッシュだが装甲車張りに頑健なクルマは、正確に312秒後、私が暮らすマンションの――これも、軍事施設と比しても見劣りしない堅固なつくりの――地下駐車場に到着。私は最上階の自宅に直行する専用エレベーターにそのまま乗り込み、客人が到着するよりも早く無事帰宅することが出来た。
とはいえ、余り時間はない。

「お帰りなさい」

妻が笑顔で出迎えてくれた。
これもいつも通りだ。何よりもホッとする瞬間だ。私は妻を抱きよせた。

「ただいま」

この日は、いつもより少し早い時間帯の帰宅であった。だが残念ながら、そうゆっくりとはしていられない。そしてそのことを妻も事前に知っていた。

「これから会合があるんでしょ?」

「……ああ、すまない」

「謝る必要なんてないわ」

私の秘書は神出鬼没だ。いや、私の秘書に限らない。ネットの世界に生きるバーチャルな存在は言うまでもなく皆同様だ。「彼女」は必要最低限の情報を、自宅で待っている妻にも当然のごとく、モニター越しに伝えていた。
とはいえ妻は「プロジェクト・ウロボロス」の内容は無論、その名称すら知らない。そして当然、これから訪れる客人が如何なる職種の人間かということも当然知らなかった。

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