炎罪のウロボロス

あくえりあす

4、溢れるフェイクニュース


特に活発な値動きは見られない。

「今日一日の値動きが見たい」

基本上がり調子だ。ここ数週間、ずっと続いている流れだ。
大陸政府の旧首都にいよいよ完全崩壊の危機が迫っていること。それに対するサン・ディエゴの秘密会合も、我が国の直近の動きも投資家たちはまだ把握していないことが確認できた。
それが既に広く知られていれば、株の取引がもっと活発に行われているはずだからだ。
私はこうしたポジティブな情報に意識を集中させた。

「我が国の完全機械化部隊の性能が世界一であることは疑いようがない事実です。小規模戦闘ではすでに秘密裏に実戦にも投入されており、運用面でも練度や信頼性は高く、部隊の技術開発、生産を実際に担う企業連合体にとっても、予想される大規模戦闘でその能力が最大限に発揮されれば、さらなるビジネスチャンスにつながる可脳性が大いに期待されます」

現地からの情報に、私は大きく頷く。
私は秘書に、このプロジェクトに関連する銘柄をいくつか挙げ、それぞれの値動きを表出させた。
結果は概ね良好。そしていずれも我が社の株価と似たような動きだ。
私は満足した。

「以上、現地ビジネス連合情報局が会員様に現地から最新情報をお送りしました」

その対象がマスであれ個人であれ、一般がメディアから得られる情報は限りがあるうえ、そもそも正確性に乏しく混乱を極めていた。
だから多くの国民は、実際のところ、今この世界で何が起こっているのかその実体を理解、把握している者はほとんど存在しない。
彼らの多くはせいぜい、そうしたプロセスを経て出された結果の一部をただ受け取るのが関の山だ。その真の意味するところなど、まるで知らぬままに。

「社長。ご自宅まであと5分12秒で到着いたします」

モニターには再び造られた美人秘書の姿が映し出されていた。

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