TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね

きつね雨

TSお姉様、呆れられる

 






「おい、おかわり頼むわ」

「はっ」

「嬢ちゃんは何かいるか?」

「お気遣いありがとうございます。それでは、同じものを」

「あいよ。じゃあ、これもな」

「了解しました」

 いつの間にか用意された椅子に二人は腰掛けて、和やかに談笑しているようだ。二人の間に置いてある映画館で売っていそうなポップコーン的紙製の箱の中身は、多分白身魚のフライ。あれ、美味いんだよな、独特のスパイスが合うんだよ……海の近い王都では魚介類が最高なのだ。

 高位貴族の娘であるアリスの前にいる以上、俺は跪いたまま横目で観察している。そもそも急いでたんじゃないのか?シクスのおっさんに怨みがましい視線を送るが、あっさりと無視された。それどころか皮肉めいた笑みをプレゼントされたものだから、悔しい。

 周囲には変わらず群衆がいて、ヒソヒソと話をしている。もう夜なんだから帰れよ、お前らも……

「名乗りなさい」

「はい。アートリスから来ました、ジルと申します。私達の世話役を買って出て頂いたとの事、心から感謝しております」

「……いいですわ、顔を上げて。街中だし、普通にしてくださる?」

「ありがとうございます」

 漸く立ち上がり、もう一度アリスちゃんを見る。勿論失礼のない様にね。

 うん、可愛い。

 縦ロールはアレだが、間違いない美少女だ。ターニャちゃんとは違うキツめのタイプだけど、出来るなら一緒にお風呂に入りたい。睨み付ける眼も綺麗だなぁ。

 でも……うーん、執事さんも気付いてないのかな?

「噂は聞いていますわ。超級の魔剣、お強いのですって?」

「確かに卑しい冒険者の一人ですが、強さには様々な指標がありますから……アリスお嬢様に知って頂いているとは大変光栄です」

 取り敢えずは無難に返しておこう。分かってて我慢してるかもしれないし……

「あら?謙遜も過ぎると嫌味になりますわよ?クロエリウス様のお師匠様なら堂々として下さらないと」

 許しませんわよ!と益々睨んでくるアリスちゃん。うん、可愛い。

 と言うか、クロ!なんでお前まで観客席にいるんだよ!?しかも……それは俺の大好きなキャッツバードのタレ焼じゃないか!馬鹿クロ、俺のも買っておいてね?視線で伝えた筈だが、嬉しそうに笑う。しかも頑張って下さいと拳を見せてガッツポーズしやがった。馬鹿クロ……後で思い切り抓るからな……

 因みにキャッツバードだけど、別に猫みたいな可愛い鳥じゃない。上空からデカい鉤爪で獲物を掻っ攫っていく、かなり面倒くさい魔物だ。羽も硬く討伐するのに最低でもトパーズ、出来ればコランダム級を求められる。名前は多分キャッチから訛ったんじゃないかな。肉は美味いから、見付けたら必ずヤッてます。乱獲注意。

「失礼しました……」

「さすが超級、礼儀は弁えているようですわね。しかし偉大なるツェツエの勇者、クロエリウス様を惑わせるなど言語道断。魔女の誹りは免れませんわよ?何か言い訳があるなら言ってごらんなさい」

 改めて可愛いアリスちゃんを見る。うーん、でもなぁ……まあ怒られてもいっか。

「……失礼致します」

 スススとアリスちゃんに近づき、両手で可愛らしいお手々を握る。そして真っ直ぐに綺麗な瞳を見て確認、間違いないと分かった。て言うか顔も真っ赤になったし我慢してるんだろうなぁ。取り敢えず回復力を促進させる魔法を行使。馬車に乗る時にターニャちゃんにかけたアレの簡易版だね。痛みも緩和する。瞬時に効くが効果は其処まで強くない。

「ななな、なんで……」

「いきなり申し訳ありません。しかし、体調が優れない時は無理なされない方が……今の魔法はあくまでも対処療法ですから、後でちゃんと診てもらって下さい」

 一人で冒険する場合は自身の体調管理が重要だ。今でこそ数々の手段を持っているが、最初はこの体調チェック魔法を使ってた。最近は機会がなかったけど。他人に行使する場合は皮膚接触が条件の一つという使い辛さもあるからね。

「今のは、ジル様考案の……ではアリスお嬢様が?」

「はい。微熱と頭痛、ですね。今は抑えてますが、しっかりとお休みになって下さい」

「なんと……」

 執事さんは青い顔になってアリスちゃんを見る。うんうん、きっと良い執事さんなんだろう。これなら安心だ。

「貴女……」

「あっ、すいません」

 やべっ、まだ手を触ってたよ……触り心地が良いからナデナデしちゃった。無礼者!とかないよね!?

 なんか顔真っ赤なままだし、怒ったかな……話を逸らしちゃおう。







「周囲に人も多いですから……あの、不躾ですがアリスお嬢様はクロ、クロエリウスが好きなのですよね?ならば、このジルは応援致します」

「……それを信じろと?先程も随分仲が良さそうでしたわ。クロエリウス様の頬を抓って……」

 ギロリと俺を睨むアリスちゃん、可愛い。まだ真っ赤だけど。まだ魔法が効いてないのかな?

「あれは馴染みの者との挨拶みたいなものです。私にとってクロエリウスは弟みたいな、そんな感じですよ?」

「む……しかしクロエリウス様は貴女に会えば分かると。素直に受け止られないですわ」

 まあ、そりゃそうだよね……仕方ない、恥ずかしいけど告白しちゃおう。

「正直にお話し致しますね。えっと……私には好きな人がいます。色々と事情があって……殆ど上手くいかないですけど。お互いのがありますので」

 ターニャちゃんとの仲は難しいのだ。お互いTSだし、性別の壁を二重にクリアしないといけない。まだターニャちゃん若いしね。でもいつかはイチャイチャするのだ。そう、前のお風呂タイムのように!

「好きな人……やはりあの噂、ツェイス様と」

「はい?」

 何やらアリスちゃんが呟くが、聞こえなかったぞ。

「……なんでもありませんわ。分かりました、取り敢えず貴女を信じましょう。街中で話す内容でもないですわね。では、貴女方は我がジーミュタス家が責任をもって扶翼ふよく致します。ついていらして」

 爺!行きますわよ!

 そう元気な掛け声を出すアリスちゃんを眺めてホッとした。結局は体調不良を我慢して迎えに来てくれたんだよな。やっぱり良い子だね。可愛いなぁ。それに引き替え……



「なんだ?もう終わりか?」

「みたいですね」

「こう……僕を取り合ってお師匠様が勝つ予定だったのに」

「あん?お前が理由なのか、つまらんな」

「つまらんとは何ですか!」

「周りを見ろよ!皆不満顔だろうが!折角の余興……お、おう……ジル、そんな怖い顔するな……お前みたいな美人が本気で怒ると洒落にならん、な?」

「うわぁ……お師匠様、コレあげますから……キャッツバードお好きですよね?僕の食べ掛けの、此処なんて間接キ……いだだだ!いだい!おじじょうざま!」

 コイツら……後でお仕置き決定だな、うん。

「ターニャちゃん、行こっか。アリスお嬢様が連れて行ってくれるって……ターニャちゃん?」

「お姉様、やけにあっさり終わりましたね?」

「そうかな?説明したら分かってくれたのよ、きっと」

「説明、ですか?」

「うん」

「なんて?」

「え?それは……」

 実はターニャちゃんとイチャイチャしたいなんて、此処では言えないし……

「……アリスお嬢様?が嬉しそうで良かったですね?」

「ええ……? 嬉しそうはないんじゃない?」

 するとターニャちゃんがハァと溜息をついた。

「な、なに?」

「なんでもありません」

 スタスタと歩き始めるターニャちゃんは、行きましょうと言葉を残し準備をしているジーミュタス家の集団に向かっていった。なんだろ?

「ジル、お前……ハァ……」

「……なんですか、その溜息は?シクス様」

 これ見よがしに再び溜息を吐くと、残念な生き物を見るように俺を見る。

「ジル……お前、タチアナが言ってた通りだな」

「タチアナ様ですか?」

 意味わからん。リュドミラ様のメイドだけど、そんなにコミュニケーション取ってたかな?あの人、演算の才能持ちで頭良いんだよ。こう、見透かされる感じがヤバいのだ。

「変な奴だよなぁ……あれだけチヤホヤされるのに、スレてないし鈍感だし……まあ、面白いから良しとするか!」

「え?あの……」

「ガハハ!よし行くぞ!」

「はっ」

 ちょっと!気になるじゃん!

 ねえ!ちょっと!!














 ☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜












「アリスお嬢様……申し訳ありません。まさか体調を崩されているとは」

「謝る必要はないわ。私自身も其処まで感じて無かったから……先程のは何ですの?」

「ジル様が考案された魔術理論体系の一つですな。皮膚接触した箇所から魔素の循環を利用して体内の状態を確認する魔法です。かなり特殊で難解な技術の為、一般には浸透しておりませんが……一部の者に絶大な支持を受けたと聞いております」

「それで手を……驚いて損しましたわ」

「何か申されましたか?」

「気にしないで、独り言」

「……お嬢様、体調は?」

「大丈夫、随分楽になったから」

「そうですか。しかし、屋敷に戻りましたら典医を呼びますぞ?」

「ええ」

 爺の声も遠くに感じる。冷たい返しになってるけど、今は許して貰おう。

 だって……身体が熱いし、胸だって動悸が激しい。

 何なの、あの女……

 まさか……まさかあんな人間が存在するなんて、信じられない。美の女神なんて馬鹿な話と思ってたけど、そのままじゃない!

 あんなの反則ですわ……本当は魔族とか、魔物が化けているとか……このドキドキは何かの魔法かも。

 魔女の隣りにはクロエリウス様、反対側に女の子。どちらもジルを慕っているのが丸分かり。露天で手に入れたのだろう何かを貰って、美味しそうに頬ばっている。

 ……凄く楽しそう。

 視線に気付いたのか女の子が此方を見た。何故かジルに寄り添い、マントの裾を掴む。まるで甘える様な仕草に私はある感情を自覚した。

 羨ましい……

「な、なにを……」

 お、おかしいですわ。まるであの魔女とお友達になりたいみたいに……

 でも……でも本当に綺麗。

 添えられた手、艶やかな肌、涼やかな水色の瞳、白金の長髪は降り注ぐ陽の光。その全てがつい先程まで目の前に在った。

 爺の言う通り、言葉にならない絶佳ぜっか

 何より、その温かい心。理不尽な怒りをぶつけたわたくしに優しい魔法をかけた。

 ツェイス殿下との噂など信じていませんでしたが……

「好きな人、立場」

 きっとそういう意味なのでしょう。互いに愛し合いながらも、身分を理由に身を引いた。あれ程の美貌でありながら、浮いた噂など聞かないらしい。

「今も一途に想っているのですわね……」

 クロエリウス様との仲を応援すると言ってくれた。ならばわたくしも助力を惜しんではならないでしょう。伯爵家の娘一人に何が出来るか分かりませんが、ディザバル兄様に話してみよう。それに、リュドミラ王女殿下に御目通りが叶えば……

「爺」

「はい、お嬢様」

「確か噂がありましたわね、ツェイス殿下の想い人について」

「ジル様ですな。ツェツエの危機で共闘し、意気投合したと聞いております。その際は殿下も身を明かさず、友の様に振る舞ったと。その後も何度かの逢瀬を重ねたそうですが、彼女から身を引きました。貴族間でも相当な反対があるのを知ったジル様は、ツェツエの混乱を嫌ったのでしょう」

「そう……」

「この度の招聘も随分と時間が掛かりました。当初ジル様が固辞されたらしいとディザバル様が」

 なんて意地らしいの……

 見れば笑顔の中に何処か物悲しい表情をしてますわ。剣神や隣りの娘も溜息を隠していない。剣神はツェツエの危機以降に何度もと会っているでしょうから理解している筈ですし……

「わたくし、決めましたわ」

「はっ」

「その反対した貴族は誰なのかしら?」

「急先鋒はマーディアス、ルクレー両侯爵家と聞いております。それと、あくまで噂ですが……」

「なんですの?」

「チルダ公もジル様に隔意があるらしいと。両侯爵家を裏で操っていたと当時噂されておりました。あくまでも噂ですぞ?」

「チルダ公……ですか」

 歴史ある大公爵家ですわね。そして長年ツェツエを陰から支え、また乱してきた正に大貴族。我がジーミュタス家など塵芥と同じ。やはりリュドミラ王女殿下と……いえ、王女殿下といえどチルダ公相手では……

「アリスお嬢様」

「何かしら?」

「これは爺の戯言ですが、エーヴ家と話し合うのが良いかと愚考します。かの侯爵家は王家の覚えめでたく、何より」

「タチアナ=エーヴ様かしら?」

「ほほ……流石はお嬢様です。かの演算は全ての未来すら解き明かすと言われ、何よりリュドミラ王女殿下に近い。その能力を生かしたいと内務にも関わる才女ですからな。そして、ジル様とも面識があります」

「更に言うならクロエ様も、ですわ」

「おお……紅炎の騎士団長ですな? 女性騎士から熱狂的な支持を集めるクロエ様が味方となれば、見えない力が働きましょう」

「お父様に相談しないと……クロエリウス様とわたくしの婚約の為にも協力して貰いましょう。そうすれば……」

 クロエリウス様とは弟みたいな間柄と言っていた。ならばその妻であるわたくしは……

「アリスお嬢様、お待たせ致しました」

 やっぱり綺麗……

「アリス様?」

「はい、姉々様ねねさま。すぐ参りますわ」







「ん?」
「お?」
「やっぱり」
「あーあ……」













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