TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね

きつね雨

TSお姉様、少し涙目になる

 




「あれが宿場町ですか?」

 クロと下らない話をした直ぐあとに、ターニャちゃんは目を覚ましたのだ。顔色も良好で、プニプニほっぺが薄らと紅い。紫色してた唇も、ピンク色に戻って可愛い。ほっぺでも良いから、チューしたい。

「うん、そうね。アートリスと王都を繋ぐ街道には三ヶ所あるんだけど、その一つ目。名前はツェルセンよ。旅人の宿場町としてだけじゃなく、商人達も良く利用してるの。賑やかな何処だし、体調が良くなるまでゆっくりしようね?」

「お姉様、もう大丈夫ですから……王子、殿下?をお待たせする訳にもいきません。出発は明日の朝でしょうか?」

「通常はそうですね。毎日馬車で移動すれば、明日の夕方に次の宿場町に到着しますから。どうしますか、お師匠様」

「ターニャちゃんの体調次第でもう一泊しましょう。気遣いはありがたいけど、急ぐ必要なんてないわ。待たせておけばよいのよ、うん」

「僕が言うのも変ですが、ツェイス殿下も不憫な方ですね。まあ、お師匠様の未来は決まってますから、どの道同じ事ですが」

 もう放っておく事に決めた! いちいち反応してたらキリが無いよ……はぁ。

「お姉様……」

「ターニャちゃん、本当に大丈夫だから。元々期限のある依頼じゃないし、殿下は心の広い方よ」

 まあ実際ツェイス殿下は良く出来た人だ。世間では、人格に優れ、頭脳明晰で剣の腕も上々、しかも秀麗と、弱点が見当たらないお方だと言われてる。事実イケメンで頭も良いし、実力もあった。性格も優しいし、普通なら惚れるんじゃないかな?

 まあ、俺はあり得ないけど。

 一時期アピールが酷くて、距離を置いたんだよなぁ……あの頃は調子に乗って、思わせ振りな態度をしてたし……黒歴史だな。一回真面目に婚約を申し込まれたけど、身分差を理由に断ったんだよね。悲恋を気取ってみたりして……他の貴族達のやっかみも面倒だったし、そもそも男と一緒になる気はないのにね。

 ふむ……そう考えると、俺って最低の酷い奴だな……うん、忘れよう。

 今回の依頼がどういう意図なのかによるけど、まだ諦めてないのかなぁ?

「宿はどうしますか?」

「王家持ちよ。名前を出せば、何時でも泊まれる筈ね。通達もいってるだろうし、先ずは宿へ入りましょう」

 王家や貴族が利用する格の高い宿は、宿泊の如何を問わず部屋を空けているのだ。セレブじゃない日本人の感覚では無駄な空間に思われるが、それが常識となっている。まあ、王家御用達って看板が付くから宿にもメリットが有るのだろう。

「ツェルセンなら双竜の憩そうりゅうのいこいですね。馬車も預ける事が出来たはずですし手間が省けます」

 宿場町を利用する大半の人は、宿とは別に馬や馬車を馬宿に預ける必要がある。割引きはあるみたいだが、基本的に別料金だ。双竜の憩なら直接乗り入れるので楽チンなのだ。

 クロはツェツエの勇者だけあって、色々と知っているみたい。あちこちに遠征してるだろうし、泊まった事があるのかな?

「クロは双竜の憩に泊まった事があるの?」

「まさか! あんな高級な宿に泊まった事なんて一度もありませんよ。皆と同じ宿舎か、夜営が殆どですね」

「へえ……勇者と言っても特別扱いは無し?」

「いえ……軍とは別に宿を取ると言われますが、断ってます。仲間と共に過ごすのは大事な事ですから。お師匠様の教えを守ってますよ」

 お、おう……素晴らしいじゃないか、元弟子よ。ふーん……そんなこと言ったかなぁ? 多分格好良いこと言いたくて、適当に口にしたんだろうなぁ……

「そう……クロは偉いね……」

 ターニャちゃんといい、最近の子はみんな偉いな……俺の小さい頃なんて……まあ、過去の事は忘れよう!

「あの……僕も泊まれるんですか?」

「どうして? 当たり前じゃない」

「僕はギルドに雇われた護衛として同行しています。お師匠様やターニャさんとは立場が違いますから」

「そんな事気にしてたの? ツェイス殿下には三人で向かう事は伝わってる筈だし、駄目でも私が払うわ。別々なんて面倒じゃない」

「殿下に伝えたんですか? 僕が一緒だと」

「そうだけど……なんで?」

 手紙だから、まだ届いてないかも。いや、王家宛てだから普通とは違うかな。まあ、どっちでもいいや。

「殿下に嫉妬されると面倒なんだよなぁ……ただでさえ弟子として色々知ってるのが悔しいみたいだし……はぁ……」

 クロがぶつぶつ言ってるけど、俺はターニャちゃんに振り返ってたから聞こえなかった。丁度馬車もガタガタと煩かったし。

「ターニャちゃん、そろそろ町に着くよ。体調は大丈夫?」

「はい、大丈夫です。お姉様、アレはなんですか?」

 ツェルセンは視界に入っているし、ターニャちゃんの指差す方向はちょっと違う。因みに宿場町と呼んではいるが、ちょっとした城塞都市だ。特にアートリスと王都を結ぶ街道は人や物資の往来も激しく、発展度合いも他とは違う。城塞なのは魔物の襲来を警戒しているからで、軍も一定数駐留している。

 ターニャちゃんの質問に答えるべく、視線をずらす。

「アレは畜舎だね。匂いが強いから町と離してあるの。あの背の高い建物に干し草や飼料を備蓄してるのよ。お肉や乳を作ってるところね」

 牧場とはイメージが違うので分かりにくいのだろう。城塞と同じ理由で周囲を警戒してるから、かなり物々しいのだ。赤い屋根と見張り台が目立ち、小さなお城にも見える……とはちょっと大袈裟かな。

「あれが畜舎……ではアレは……」

「軍の訓練場ですね。アートリスと王都の混成軍が合同訓練を行う際に使います。普段は交代制で隊が駐留している筈です」

 クロが答えた施設は各地に点在し、ツェツエ防衛を担っている。今は戦争もないし、魔物相手が殆どだけどね。俺は初めて見た時、刑務所かと思ったんだけどね……なんか閉鎖的に見えたし、四方に見張り台があるし、鎧姿の男達が巡回してたから。

「山側の斜面に広がってるのは葡萄畑だよ。綺麗でしょ?」

「葡萄……ワインですか?」

「ここの葡萄は甘いのが有名で、ワインには向かないらしいよ? 品評会で優秀だった葡萄は王家に献上されるって聞いた事があるし」

「宿で出されるでしょう。ツェルセンの葡萄は有名ですからね。僕も楽しみです」

 クロにしては珍しく子供みたいにワクワクしてるみたいだ。何時もそうなら可愛いのに!

 ツェルセンは帯状に伸びた山……と言っても高めの丘……の裾野にあり、街道が山の反対側に通っている。その街道も山が途切れた辺りで曲がり、先は見えない。

「ツェルセンはアートリスより歴史があるから、散歩するだけでも楽しいよ? 小さな町だから直ぐに回れるし。体調が良かったら案内するね」

「はい、楽しみです」

 今やアートリスはツェツエを代表する街となったが、昔はツェルセンが貿易の要衝だったらしい。俺は大陸すら違うバンバルボア出身だから、そこまで詳しい訳じゃないけどね。

 ランプの明かりが広がる夜も凄く綺麗だったな……日本人がイメージするヨーロッパ の古い街並み、それにかなりイメージは近いと思う。魔物の存在は町作りに影響を与えているから、全部が一緒って事では無いよ? 夜や路地の治安は気になるけど、俺がいれば大丈夫だからね。

 ターニャちゃんとデート。手を繋いだりなんかして……クロはお留守番だ。

 三人で楽しく会話してると時間は直ぐに流れ、目の前にはツェルセンへの門が迫って来た。両脇に歩哨は立っているが、特に入門手続きなどは無い。直ぐに町に入れるのは嬉しいけど、防犯上はどうなんだろ。

 歩哨の片方は俺を知ってるのか、驚いた顔をしたと思ったら歩哨小屋へ声を掛けた……案の定中に何人か居たのかゾロゾロと出て来て、スゲェ!とか本物か!とかワイワイと騒ぎ始めた。 

「お姉様、手を振ってあげたらどうですか?」

「えぇ……やめようよ……私とは限らないし」

「どう考えてもお師匠様ですよ。魔剣とか聞こえるでしょう?」

 聞こえてるけどさぁ……俺のキャラじゃなくない? 俺は孤高の女冒険者で……

「あっ……」

 ターニャちゃんが俺の右手を掴み、フリフリと手を振らせた。げっ……油断してた!

「「おーっ!! ジルさーん!」」

 わあ! 声がデカいよ!? ほらぁ……みんなが見てるじゃん!

「誰だ? 何処かの貴族様か?」
「すげえ美人だな」
「お姫様?」
「知らないのか? 魔剣だよ」
「マケン?」
「冒険者だよ、超級の」
「……あれが……噂なんて当てにならないと思ってたが……」
「魔剣のジルか……」
「やべぇ……」
「惚れた……」
「いい尻だ」

「ターニャちゃん……?」

 何やってるのかな? 思わずジト目をターニャちゃんに向ける。

「お姉様、ごめんなさい。大事になっちゃいましたね……」

 流石にターニャちゃんもビビったのか、馬車の中へ消えて行く……に、逃げた!?

「お師匠様、この国の勇者より有名なんて笑えますね」

「それ褒めてるの?」

「勿論です。夫として誇らしいです」

 そのネタ続ける気か?

「アンタねぇ……」

「「うおーーー!!」」

「うひゃっ……」

 何だよもう……!?

 どうやらクロの頭に手を乗せて、流し目をしたのが駄目だったらしい。その内クシャミだけでも歓声が上がるんじゃないか?

「クロ、貴方も手を振るなりして……ほら!」

「誰も僕なんて知りませんよ。お師匠様のお供くらいにしか見えてないでしょうから」

「……貴方、ツェツエの勇者でしょう?」

 流石に恥ずかしいから! 顔が赤くなるのが自分でも分かって、少しだけ涙目に……うぅ。

「おかしいですね……? 確かお師匠様は毎日の様に男達に言い寄られ、こんな事は慣れていると聞きました。その真っ赤な顔も演技なのでしょう? お見事です、お師匠様」

「くっ……そうだけど……」

「男達を千切っては投げ千切っては投げ……」

「うぅ……分かった! 謝るから! 少しだけ大袈裟に言いました! もう、いいでしょ!?」

「仕方ないですね。借り一つですよ?」

 クロは混雑する門を巧みに抜けて、漸くツェルセンへと到着した……ゆっくりと。

 クロ……もっと早くお願い出来ないかな!?


















 クロに見えない様にハンカチで目を拭うと、ツェルセンの町並みがハッキリと見えた。

 歴史がある町だからか、全体的に古ぼけている。だけど、それが調和する姿はやはり心を打つものがあるのだ。前世で憧れながらも行くことが出来なかった欧州の町並み、まるで御伽噺やグリム童話を思い出させてくれる。

 チェコ共和国のチェスキー・クルムロフを知っているだろうか? オレンジ色で尖った屋根、白壁の建物たち。石畳を歩けば、メルヘンの世界へと誘われる。半日も歩けば回れる程の小さな町だが、あの有名なプラハに次ぐ二番目に観光客が多い町。写真を偶然見てからは、いつか町中を歩いてみたいと思っていたのだ。

 ツェルセンはあくまでイメージだけど、それを感じさせてくれる町だ。まあ、ツェツエ全体に言える事だけどね。

「素敵な町ですね……お姉様の言う通り、お散歩したくなります」

「ホントにね。宿で休んだら、町を歩こうか……一緒に」

「はい……」

 やったぜ!

「そんな特別な町とは思えませんが……小さな町ですし、古臭くないですか?」

 生粋の異世界人には当たり前の風景なんだろうけど……クロ、空気読めよ……

「なら、クロはお留守番ね。ゆっくりと寝てたらいいじゃない。ね?ターニャちゃん」

 頷くターニャちゃんは、クロを気にすることもなく流れる風景に釘付けだ。

「僕は護衛ですから、お供しますよ。多少の買い出しもしたいですし」

「チッ……」

「へぇ、そういう態度に出るんですね……お師匠様、涙の跡が残ってますよ? いつから泣いてました?」

「な、泣いてなんかないし。目に埃が入っただけ!」

「……そんなありきたりな言い訳を、本当にする人がいるなんて。可愛いですよ、お師匠様」

「クロ、貴方いつからそんな生意気になったのよ!? 好きだった昔の、可愛いクロに戻って!」

「やっぱり僕の事が好きなんですね?」

「違うわよ!?」

「ふふふ……そうですか?」

 むぅ……おかしいぞ。クロにまで馬鹿にされるなんて、俺のプライドが許さない。ターニャちゃんに癒して貰おう! ね、ターニャちゃん!

「くくく……目に埃が……泣いちゃいましたか、ふふふ……さすがお姉様、最高です」

 ターニャちゃん……さっきまで景色見てましたよね!?

 あれぇ……?















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