TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね
TSお姉様、色々ヤバイと気付く
フルーツタルトを急いで口に頬張ったターニャちゃんは、ほっぺをリスの如く膨らませている。とにかく早く練習を再開したいのだろう。もぐもぐと噛み砕くとお茶で体内に流し込んだ。
「ターニャちゃん、お行儀が悪いわ。それに喉に詰まるわよ?」
ここはお姉さんらしく注意するとこだろう。
「んっ……すいません。早く練習したくて」
可愛いな、おい。22年間鍛えてきた俺を2日で上回るとは! ほっぺを膨らませる技術は磨いて無かったぜ。
「もう……仕方ないわね。今回だけよ?」
今のお姉さんっぽいかな?
「……そう言えば、今気付いたんですが……」
「なあに?」
「お家の明かりとか、シャワーとか、私操作出来るんでしょうか?」
ああ、確かに魔力操作で動かすからな。心配するのも無理はないか。
「安心して。確かに魔力操作だけど、パターンが大事って言ったでしょ? そのパターンこそ魔素の操作だから、ターニャちゃんに教える必要もなくなっちゃた。だって魔素を視覚的に見れるなら、答えを見てる様なものだもの」
実際パターンを覚える必要すらないだろう。スイッチにONOFFが書かれてるのと一緒だからな。ターニャちゃんの前では、我が家自慢の防犯システムは全く意味を成さない。
「そうなんですか?」
「うん、後で教えるね?」
「はい、良かったです」
うんうん……ん? 今何か危険な兆候に気付かなかったか? えっと……ターニャちゃんの前では、我が家自慢の……あ、あーー!! 鍵だ!あの時鍵が開いたのは才能のせいか!
つまりターニャちゃんは我が家の鍵全てを簡単に開ける事が出来るという訳だな、うん。
……それってやばくない? 俺のプライベートが危機だ! あの衣装部屋とか見られたら黒歴史どころじゃないぞ……このレディーススーツなんて可愛いものだし……
あわわわ……ど、どうする?
いや、落ち着け……ターニャちゃんだって勝手に人の部屋に入ったりしないだろう。そんな非常識な子じゃ無いさ、うん。
「それならお家の掃除とか、いつでも出来ますね。お姉様が留守の時に頑張ります」
ひぃーーーー!? ターニャちゃん、分かってて言ってない!? このままでは、大人しか見ちゃいけないサイトを開いた履歴を母親に見つかった昔の俺みたいになるぞ……
「お、お掃除なんかしなくていいよ? ほ、ほらターニャちゃんだって忙しいし」
「これだけお世話になってる以上、出来る事はやります。それに家事は好きなんで気にしないで下さい。こんなに広いお屋敷ならやり甲斐がありますね」
うおーー! 滅茶苦茶良い子じゃん……うぅ、こうなれば焼却するしか……
「そ、そう?」
「入っては駄目な部屋が有れば言って下さいね? 誰でも見られたく無いモノってありますよね」
……やっぱり、分かって言ってない? ターニャちゃんの笑顔が黒く見えるのは、俺が薄汚れているからなのか……?
「ははは、見られたくないモノなんて無いよ! お姉さんは真っ白だから!」
「そうですか、なら遠慮なく捜査……掃除させて貰いますね」
今、捜査って言った! 絶対言ったよね!?
「む、無理しなくていいからね?」
「はい、ありがとうございます」
早く練習再開しましょう……そう言って手を引くターニャちゃんの背中は可愛いのに、何故か恐ろしいモノに見えた。
「ふう、今日はこれくらいにしましょう。初日から頑張り過ぎてもいけないわ」
綺麗な顔に汗の珠を浮かべたターニャちゃんは、今も視覚に捉えているだろう魔素を見るのをやめた。
「はい、ありがとうございました。おね、先生」
忘れてたのか、最後に先生と呼ぶターニャちゃんの顔をタオルで拭いてあげる。髪も少しだけ湿り、頑張った証を見せていた。
「ふふ、先生はもういいわ。でも流石ターニャちゃんね。1日でこんなに上達するなんて、本当に凄いわ」
お世辞ではない、恐るべきは才能か。
このペースなら、変態勇者の様に魔素を操作出来るのも時間の問題だろう。いや、あんな操作しなくていいけど。
「かなり集中しないと魔素が見えないのが難点ですね。もっと上達したいです」
「いや、見えるだけでも凄いからね? 操作範囲を広げれば、打ち出そうとした魔法も消せるのよ? これがどれだけとんでもない事か」
ターニャちゃんは顎に手を当て、何かを考察し始めた。
「お姉様、お願いがあります」
「なにかしら?」
「街で急に姿を消したワザ?があると思いますが」
「ん? 魔力強化だね。正確には姿を消したんじゃなく、速く動いたのよ」
「その魔力強化は覚えられますか?」
成る程……確かに憧れるよなぁ、漫画でも良く描写される要素だからね。
「……残念だけど、ターニャちゃんには教えられないわ。出来る出来ないじゃなく危険過ぎるから」
「危険、ですか?」
魔力強化はこの世界に転生した時に、勿論思いついていた。身体を魔力で覆い、力と速度を強化するのに憧れたからね。だが、事は単純では無かったのだ。
「恥ずかしい話だけど、教えてあげる。誰にも言わないでよ?」
「はい、勿論です」
「魔力強化はもの凄く繊細で、同時に大胆な魔力行使が必要なの。ほんの少しでも間違えると……」
「間違えると?」
「服がバラバラになるわ、下着ごと」
「はい?」
「服に魔力は通らないわ。私の装備は魔力銀で編んでいるから大丈夫だけどね」
「それなら魔力銀の服を着ればよいのでは?」
うむ、当然の疑問だ。
「自慢になってしまうけど、完全に制御できるのは私だけなの。ターニャちゃんが魔素に特化してるように、私は魔力行使に特化してるのよ」
魔力操作は殆どの人が出来るが、そのレベルに大きな違いがあるのだ。
「魔力強化に耐えられる服を制御するだけで、大半の意識がそちらに取られる。魔力銀の糸一本一本を意識しないと駄目なのよ。更に肉体を制御する必要があるけど、皮膚、筋肉、骨、血、それらを同時に制御しないと大変な事になってしまう」
正確に言うなら、神経系、細胞レベルまで制御出来れば俺のレベルに到達するだろう。
「もし制御に失敗したとしたら……」
「加減を間違えれば、身体がバラバラになって血の煙になるかな」
まあ、大半は素っ裸になるだけだ。
「そうですか……クロさんもいきなり姿を見せたので、一般的な技術だと思ってました」
「あの子は変態だけど、この国……ツェツエの勇者だから……あの子も才能を持ってるわ。それを見究める事が出来たから教えたけど、それでも私の様に行使は出来ないの」
ゴメンね……そう言う俺にも辛い顔すら見せず、健気に笑った。
「お姉様? 恥ずかしいとは、まさか人前で裸に?」
健気じゃ無かった!!
「うっ! ま、まあね。昔の事よ、うん」
それは恥ずかしいですね、とニヤつくターニャちゃん。
「よく分かりました、魔力強化は諦めます。でも理屈だけでも知りたいです。もし悪者がいたら大変ですし」
「うーん……可能性は低いけど、全く居ないわけじゃないし……」
「お姉様とクロさん以外にですか?」
「うん。と言うか、私と同等かそれ以上だね。 魔王陛下その人だよ。魔族は息をするのと同じ様に魔力を使うからね」
「それは、大変な事では? クロさんは勝てるのでしょうか?」
「クロが? まさか!絶対に無理だよ。クロが100人くらい集まれば可能性はあるけど、あり得ないし」
まあ、魔王が出鱈目に強かったら不安になるよね。
「……では、どうやって国を守るのでしょうか?」
「ターニャちゃん、怖がらせて悪かったわ。でも大丈夫。魔王陛下は優しい人で、人との融和政策を進めてる。魔族に言うのも変だけど人格者だし、立派な人だから」
「それを信用するんですか? 魔族の戦略かもしれません」
頭の良いターニャちゃんらしい考察だ。まあ日本の物語のイメージだとそうなるよねー。
「ふふふ、そうね……でも、私は信用してる。 もし、魔王陛下が悪者だったら……私が倒すわ。だから安心して、ね?」
「……お姉様、もしかして会った事があるんですか?」
「ええ、何度か。戦った事もあるし、お茶した事だってある。部下の人達も癖は強いけど、みんないい人ばかりなんだから」
思わず思い出し笑いを零した俺に、ターニャちゃんは溜息と笑顔で返してくれた。
「そうだったんですか……すいません酷い事を言って」
知り合いの事に対する言葉を詫びたのだろう。本当にしっかりした子だなぁ。
「気にしないで、疑うのが当たり前だもん」
「仮の話ですけど、お姉様と魔王さんが本気で戦ったら勝負はどうなるんでしょう?」
ほほう、なかなか面白い仮定だな。
「うーん……内緒!」
恐らく俺は勝てないだろう、あの人はそれだけ強い。だが同時に彼は本気を出せない。だって、ねぇ?
「話が逸れちゃったね。魔力強化の理屈だっけ?」
「はい、是非知りたいです」
ターニャちゃんの汗も乾き、そろそろ夕ご飯の準備かな。その前にお風呂に入らないとね!
「ターニャちゃんなら、理屈より見た方が早いわ。しっかり集中して私を見て」
自慢のスタイルもじっくりどうぞ! ターニャちゃんならOKだよ! くびれや自慢のヒップラインもご覧下さい。
「はい、お願いします」
「じゃあ行くよー」
今では一瞬で終える事が出来る魔力強化を身体に行使する。今着てるレディースーツは速度に耐えられないので、動く事はしない。朝着てたのは大丈夫だったが。
音も無く、光りもしない。所謂詠唱も唱え無いから傍目には何も変化が無いはずだ。
だが……ターニャちゃんには……
「凄い……魔素が踊ってます! なんて綺麗……まるで……星空の様。それに、なんて規則正しい……」
あまり感情を表に出さないターニャちゃんも、感動に打ち震えている様だ。行使している俺にすら見えない世界だからなぁ。
ターニャちゃん曰く、身体の各所を魔素が踊り、複雑な動きをしながらも一定のパターンで動いているらしい。うん、わかんない。
「今着てる服は魔力銀を使ってないから、制御から外れてるわ。装備を揃えると、服だけで無く剣にも通すから……また違って見えるかも」
「……これ以上複雑に……確かにコレは無理ですね……とても理解出来ません」
髪の一本まで魔素が通ってるらしく、ターニャちゃんからは光輝いて見えるってさ。うん、やっぱりわかんない。
「今動いたら服はバラバラだからね、絶対動かないから! あっ、違う、フリじゃないからね!?」
しまった! 余計な事を言ってしまったじゃないか!
「……お姉様……やっぱり……いえ、なんでもありません」
なんですか!? その残念な人、みたいな目をやめて下さい!
「どう? 大体分かったかな?」
「はい。お姉様、試したい事があるので動かないでくれますか? 痛くしないので」
最後の要らないよね!?
「な、なにかな」
ターニャちゃんは無言で俺の身体をサワサワと撫でる。
「アッ、ちょっとターニャ……ちゃん。う、うひゃ! 其処は駄目だ、よ? アンッ、イヤ……」
魔力強化の所為で、ある意味敏感になった身体を撫でられるのはキツイ。てか魔力強化したらこんな、アッ……になるのかよ!? うひっ、知りませんでした!
「はい、もういいです。お姉様?」
またもや赤面プルプルを披露してしまった……魔力強化にこんな副作用があるとは……当たり前だが戦闘中に愛撫など、された事は無い。
「ハアハア……うぅ、何なのターニャちゃん」
「はい、実験は成功しました」
今のが実験!? 一体何ですか!?
「成功?」
「解除です」
「ん……何を?」
「魔力強化」
「……は?」
「お姉様は今、只の女の子ですね」
落ち着いて自分の身体を観察する……うん、綺麗、完璧……じゃなくって!
魔力強化が跡形もないのですが……腕を振っても、脚を上げても、普通です。ありがとうございました。
「お姉様、下着が丸見えです」
余りの衝撃に脚をブンブンと振り回していたら、ターニャちゃんからツッコミが入る。
「え、えーーーー!!」
ま、魔力強化を解除って……嘘でしょう……?
「一体どうやって……?」
「規則正しい動きを邪魔したんです。 お姉様の魔素は簡単に消せなかったので、直接触りました。ただ、時間が掛かりすぎるので要練習ですね」
……いやいやいや……マジで!?
「れ、練習するの?」
「はい、クロさんと争う可能性もゼロでは無いですし。お姉様に悪さをしたら叱らなければいけません。それに他にも変な人か居るかもしれませんから」
「そ、そう? 練習って、今のを繰り返すの?」
「はい、お願いします。痛くしませんから」
「……はい」
気付いたんだけど、魔力強化を無効化されたら俺もヤバイのでは無いだろうか?
予め分かっていれば対策も打てるし、真剣勝負なら負ける要素は無い。だけど俺がターニャちゃんを傷つける訳ないし、絶対に暴力なんて振いたく無い。
考えてみよう。
未だ残るTSイベント消化の為に、幾つかの悪戯を用意していた。何かあっても魔力強化で脱出すれば良いと思っていたが、これからは危険性を伴うだろう。
ターニャちゃんは頭が非常によろしい様だ。先手を打たれたら逆襲されるかもしれないぞ。
……俺も頑張って鍛え直そう。
ターニャちゃんを見ると、此方をニコニコと眺めている。
「ターニャちゃん、どうしたの?」
「お姉様が真剣に考え事をする姿も綺麗だなって見てました。その考え事、解決すると良いですね?」
……頑張ろう、本気で。
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