TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね

きつね雨

TSお姉様、色々と吃驚する

 












「はい、これを持ってね」

 胸の谷間から取り出した銀色のコインを手渡す。実際には手の中にあったのをそう見せただけ、ですけどね。何となくやりたかったのだ。

「……どうしてそんなトコロから取り出すんですか?」

「ん? そんなトコロって?」

 ニヤニヤが止まらないぜ!

「いえ、何でもありません……」

 少し赤い顔、可愛いよ。

「そう? それじゃ始めよっか。そのコイン……に見えるのは魔力銀が混ざった物よ。純度は低いし特に何かが起きる訳じゃないけど、魔素や魔力を集め易いから便利なの」

 先ずは魔素を感じなければ意味が無い。かと言っていきなり感じろ!では余りにブラックだろう。撒き餌になる物質を使えば良いのだ。

「魔力銀、ですか。ありふれた物質なんですか?」

「物質としてはそうね。問題は純度や冶金で、其処に技術の差が出るかな。例えば私の剣は、ある意味で技術の結晶みたいなモノだから」

 この世界では一般的な金属の一種で、生活物資にも利用されている。見た目は銀の名の通り、艶やかな銀色だ。

「成る程……おね……先生、どうしたら?」

 小さな手でコインをこねくり回し、上目遣いで俺を見るターニャちゃん。それ、狙ってやってる?

「先ずは好きな方の指先で摘んでくれるかな? こんな感じで」

 もう一枚谷間から取り出したコインを、親指と人差し指で摘んで見せる。

 ターニャちゃんはチラリと見ると右手で同じ様にする。

「こうでしょうか?」

「うんうん。そのまま手を前に出して、ジッとしててね」

 俺はターニャちゃんの背中に回り込むと、背後から抱き締める様にピッタリとくっつく。そしてターニャちゃんの右手に俺も手を添え、左手は細い腰に巻き付けた。身長差からスッポリと俺の懐におさまり丁度良い。

「あ、あの、お姉様……」

 ムフフ……先生と呼ぶのを忘れる程に動揺してるね?

 それはそうだろう。ピッタリとくっついた事で、俺のオッパイが後頭部にグニグニと当たっているからな。まあ、当ててますけどね!

 どうよ? 至福の柔らかさでしょう!

 朝からお風呂に入ったし、良い匂いもする筈だ。

「どうしたの? 顔が真っ赤」

 くっくっく……此処で何も気付かないお姉さんの振りをすれば、ターニャちゃんも返せないだろう?

「い、いえ。この体勢は?」

「今からわたしが魔素を動かすから、ソレを感じて欲しいの。密着すれば、より感じ易いから」

 勿論嘘だ。俺なら正面から触れる事も無く、ターニャちゃんに見せる事も出来る。セクハラ? この世界にそんな言葉は無いのだ! それに同性ですから!

「……分かりました。よろしくお願いします」

 上から覗き見ても真面目な顔になったターニャちゃん。頑張るぞ!って表情に少しばかりの罪悪感を覚えたが、同時にその顔の可愛いらしさに動悸が激しくなる。うーむ、ドキドキ聞こえてないよね?

「では、始めます」

 俺に魔力銀のコインなど必要ないが、今回はちゃんと利用する。魔力銀を中心に魔素を集めて、分かり易い様に渦を巻かせた。

 グルグルと速度を上げれば、大半の人は違和感を覚えるだろう。自然界では普通、起き得ない動きだからだ。

「ターニャちゃん、何か気付く事ある?」

「はい、小さな粒々がクルクルと回ってます。 粒々と言うか、キューブ状の……」

 ん? キューブ状?

「……見えるの? 視覚的に?」

「え? はい、見えます。サイズは皆一緒で、色は……何だろう、分かりません」

 嘘だろう……? 魔素感知すら飛び越えて、魔素を見る?

「ちょっと待ってね。これならどう?」

 魔力を生成し、空間に固定する。

「綺麗……大きな立方体がゆっくりと回ってます。 キラキラと光って……少し半透明でしょうか?」

 魔力で無く、魔素として見てるのか? 属性も見えてない様だ。初めて見るタイプだな。

「ターニャちゃん、普段から見えてるの? その……キューブ状のキラキラ」

「? 普段は見えないですよ? こんなの見えたら日常生活に支障が出ます。お姉様が見せてくれてるのでは?」

 どういう事だ? 俺は特に何もしてないぞ?

「その魔力……キラキラを触ってくれるかな?」

「危なくないですか? 爆発とか……」

「ふふっ、大丈夫よ。何の指向性も持たせて無いから」

 コインを持っていない左手でターニャちゃんが言うキューブに触る。俺にも魔力の存在は分かるが、其処まで鮮明に視覚化出来ないのだ。

「うひっ! は、はあ?」

 う、嘘だーー!! 片手間とは言え、俺が生成した魔力だぞ!? 何らかの感触があるのか知りたかっただけなのに……

「お姉様? 消えちゃいました。小さな粒々に戻って見えなくなって、空間に溶けたみたいに」

 な、なんだ? なんの才能タレントなんだ!?

「……ターニャちゃん、もう一度いいかな?」

 そうして色々と試したが……全く同じ魔力も、内緒で属性を持たせた魔力すらも、爆散する様にコントロールを失った。

「あの……お姉様?」

 信じられない……前世で言うなら硬い金属を触るとサラサラの砂になり、消えちゃいました!って感じだぞ……? 崩すのはともかく、魔素まで分解されて消えるって……

 コレって、無茶苦茶にヤバイ才能タレントなのでは? 対象が何処まで広いのかによるが、下手したら国家転覆すら可能に……

 この世界は魔力に依り成り立っているのだ。ターニャちゃんの力が発揮されたら、インフラも停止する。電力などのエネルギーを全て失った日本を考えれば分かりやすい。文明は麻痺し、原始時代に逆戻りだ。

「お姉様! 怖いから返事して下さい!」

「……あっ、ゴメンね? ちょっと吃驚して……」

 どうしよう? 頭が痛くなってきた。やっぱり異世界転生の副作用か? 俺もその恩恵に授かっているのだろうから。

「あの……何かイケナイ事をしましたか……?」

 今にも泣きそうなターニャちゃんを見て俺は情け無くなった。先生が呆然としてたら、生徒は怖くなるのが当たり前だ。俺は超級冒険者、この世界最強の一角だぞ!

「ううん、違う。ターニャちゃんは何も悪くないわ。 予想外だったから驚いちゃった……ゴメンね?」

 後ろを振り向く様に俺を見上げるターニャちゃんは、まだ不安そうだ。くっついたまま動かない俺に、そりゃ不安になるだろう。

「大丈夫よ? 少し休憩しましょうか? お茶を入れて……説明する、だから安心して」

 同時にターニャちゃんにとって残念な報せになるかもしれない。魔力を魔素の塊にしか捉えられない上、触るだけで分解してしまうなら……所謂魔法は使えないだろう。そして逆に、魔法を使う者にとっては天敵以外何者でもない。勿論技術を磨き、能力を十全に発揮出来ればだが。対策を用意せず、初見なら先ず勝負にすらならないと思う。まあ、遠距離からぶちかませば何とかなるか?

 ターニャちゃん、ガッカリするだろうなぁ……使えないと決まった訳じゃないけど、ハードルは高そうだよな……

 とりあえずお茶を用意して、お話しをしよう。
























「はい、どうそ。ケーキはどれがいい?」

 ティーワゴンに並べたケーキは3種類。フルーツをたっぷり使った品達だ。

「その、タルト?をお願いします」

 お勧めのフルーツタルトを皿に盛り、静かにテーブルに置いた。お昼までまだ時間はあるが、日も高くポカポカと暖かい。ここは木漏れ日がかかり、風が吹くとサワサワと葉擦れの音が心地良く感じる。

 ガラストップの丸いテーブルはステンドグラスの様に鮮やかな色合いで、4脚ある椅子は籐の様な植物で編まれた白い物だ。

「頂きます」

 ちょこんと座るターニャちゃんは、カップを両手で持って喉を潤した。木漏れ日はテーブルの色を際立たせてキラキラと光って眩しいくらいだ。

「さっきはゴメンね。不安になったでしょう?」

 俺もターニャちゃんと一緒のタルトにフォークを刺し、小さな欠片を口にした。

「少しだけ。何があったか教えて下さい」

 お茶でタルトを流し込み、ターニャちゃんの濃紺の瞳を見る。

「うん、その前に説明したい事があるの。ターニャちゃんは聞いた事が無いと思うけど、才能タレントと呼ばれる概念があって……知らない?だよね」

 頭を横にフリフリするターニャちゃんは、真剣な眼差しを俺に向ける。

「簡単に言うと、その人が持つ特有の能力のこと。戦う力だけじゃなく、物を作ったり、頭が良かったり、色々な種類があると言われているわ」

「言われている? 曖昧なんですね」

「そうね。目に見えないし気付かない人も多いから」

 頭を傾げるターニャちゃんは、どうも不満顔だ。わかるよ? 多分アレを考えてるよね?

「その……間違えてたらすいません。誰かに調べて貰ったり、何か表示されるとか……カ、カード、とかに」

 うんうん、所謂ステータスオープン!ってヤツだよね!? 分かる!私も赤ちゃんのときに毎日やってたよ!

「えっと……自分の力を客観的に見れたら最高だけど、それは無理かな。まして他人なんて、ね?」

「そ、そうですよね!? 何言ってるんだろ、ははは……」

 うぅ……普段ならイベント消化!って喜ぶところだけど、今はやめておこう。

「ふふ……でも明らかにそうでないと説明出来ない人が何人もいるの。超級冒険者はその筆頭だし、他にも沢山いるわ」

「超級……お姉様もですか?」

「うーん……私自身はそう考えて無いけど、他の人からはそう見られてるわね。私の才能タレントは[万能]よ。魔法に関する全てを万遍なく行使出来るからそう考えられてるみたい。私は練習を沢山したし、小さな頃から頑張ったつもりだから不満なんだけどね」

 これは事実だ。赤子の頃から飽きる事も無く訓練してきた俺を、才能の一言で終わらせるのは納得出来ない部分はある。

「成る程……魔法にも得手不得手はあるんですね?」

「一般的に、例えば……炎と水は相反してどちらかが苦手になるの。作用の対象でも差が出るのが当たり前とされて、治癒と攻撃魔法だって相反するし」

 魔法使いと僧侶、みたいなもの? あの……ターニャちゃんの呟きは聞こえたがツッコミはしないから。

「つまりお姉様は攻撃魔法が全て使えるし、治癒などの魔法も使えて、更に剣士でもあるわけですか」

 反則じゃん、チートだし……いやターニャちゃん、それも聞こえてるからね? 

「でも魔法だけなら魔狂いの方がより強いし、剣なら剣聖には負けるわ。だから、私は総合力で勝負ね」

 まあ、負けないけど。アイツら能力が尖り過ぎなんだよ、全く……

「分かりました。お姉様が言いたいのは、私にもあると。その才能タレントが」

「……断言は出来ないわ。ただ凄く珍しい力なのは、間違いないと思う」

「教えて下さい。仮定で構いません」

「多分……名前を付けるなら、魔力無効、或いは魔素操作、還元分解、と言う感じかな」

「私には魔法が効かないと言う事でしょうか?」

「それは違うわ。行使した魔法によって起こる現象には作用しないと思う。岩を打ち出す事は上手く無効化出来ても、間違って先に射出された岩はあくまで岩だから」

「ああ、発生した物理現象には意味が無いと。それなら治癒魔法まで無効化するのでは?」

「才能は意志が大事なの。ターニャちゃんが迎え入れてくれたら大丈夫。さっきも魔素が見えたり見えなかったりしたでしょ?」

 才能に気付かない人が多いのもそれが理由だ。不規則に発揮されるなら、世界は大混乱だからな。

「では……私は魔法を使えますか?」

 ターニャちゃんは確信しているのだろう、期待感は感じない。ターニャちゃんは頭が良い、誤魔化しは失礼と思う。


「……残念だけど、難しいと思う。ターニャちゃんは全く新しいカタチの魔法使いなのよ、きっと」

「……お姉様、ちゃんと教えて下さってありがとうございます。大丈夫ですよ? 幾つか使い道を思いつきましたし、楽しそうです」

 嘘で無く、本当に嬉しそうだぞ? ファイヤーボール!とか森で叫んでた人と思えない……

「ターニャちゃん、あの……」

「お姉様、もう一つ教えて下さい。魔力はダメでも魔素ならどうでしょう? 操作は無理ですか?」

 ふむ、それなら可能性は十分ありますな。

「寧ろ得意になるかもしれないわ。魔素をはっきりと見れるターニャちゃんは簡単に感知出来るから」

 ターニャちゃんはニッコリと心からの笑顔を見せてくれた。本当にショックを受けてないみたいだ。

「ターニャちゃん、本当に大丈夫? 無理しなくていいよ? なんならお姉さんの胸で泣いても……」

「ふふ、大丈夫です。凄くワクワクして来ました! この力をもっと磨きたいので、教えて下さい先生!」

 あれぇ……?

 おかしいな……ターニャちゃんの笑顔見てると嫌な予感がするぞ? 何処かで見た様な……何処だっけ?

 確か……パルメさんの店で、パルメさんと内緒話をしてた時では? あの後悲惨な目に遭ったのは……?

 ま、まさか……そんな訳無いよな?

 もう一度ターニャちゃんの眼を見ると、真っ直ぐに俺を捉えてる。

 あ、あれぇ……?









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