TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね

きつね雨

TSお姉様、お食事を楽しむ

















 冒険者ギルドには食事を取れる場所が5つある。

 ほぼ酒しか提供しないバーが一軒あるが、其処も食事は無理ではない。因みに酒は嗜む程度で、好んで呑んだりはしない。大盛りが当たり前の定食屋らしき店もあるが、まだ朝だし軽くで良いだろう。候補の店は二つあるが、女の子二人ならあっちかな。いやいや、ターニャちゃんの好みも聞かないと。

「ターニャちゃん、軽くで良い?」

「はい。あの……ボ、私お金が無いんです……」

「ふふ……気にしなくていいの。さっきも言ったけど、責任を持って保護する以上当たり前だからね?」

「……ありがとうございます」

 少し不安そうなターニャちゃんを見て、調子に乗りすぎたかもと考える。現代日本人からしたら極端な無償の保護に不信感を持つかもしれないな。それに、このままだと余りにお人好し過ぎるだろう。設定を盛るか。

「実はね……妹がいるんだけど、ターニャちゃんと同じ位の年齢だし……代わりでは無いけど、ついつい構ってしまうみたい。今はなかなか会えなくて寂しかったし、駄目かな?」

 実際に妹はいる、我が父親には俺を含めて合計14人の子供がいるのだ。腹違いの妹は間違いなくいるし、嘘ではない。まあ、殆ど会った事はないが。

 遠い場所に居る俺の一族の事など、どうでもいい。

 ターニャちゃんの前に立ち、再び必殺のスマイルをぶつけてみた。ついでに前屈みでチラリもオマケだ。

「い、いえ……助かります。よろしくお願いします」

「はい、任されました」

 間違いなく胸元を見たターニャちゃんに、俺は気づかない振りをしてニッコリ笑顔を送る。内心はムフフとほくそ笑んでいるが、当然表には出したりしない。男心を弄ぶの楽しいなぁ、掌で転がしてるのが堪らないんだよなー。

「ターニャちゃんは好き嫌いはある?」

 アレルギーあったら大変だもんね。

「特には無いと思います。強いて言うならでしょうか」

「ふーん……ならあの店かな」

 ターニャちゃんが此方を伺う様にジッと見ていたのが気になったが、取り敢えずは店まで案内しよう。

 再び手を握って歩き出した俺を上目遣いで眺めるターニャちゃんはやっぱり可愛い。




















 アートリスの街には沢山の飲食店がある。

 現代日本には遠く及ばないが、他国の郷土料理すら口に出来たりもする。過去に遺恨があったり、敵対的な国は流石に難しいが、かなりバリエーションに富んでいると言えるだろう。

 そして冒険者ギルド内の店も例外でなく、俺から見てもレベルは高い。

 ターニャちゃんと一緒に席に着いたこの店は、お茶と軽食が豊富で賑わうところだ。クラシックな装いが有り難がれた日本と違い、こちらは天然で落ち着いた雰囲気だ。勿論ジャズが流れたりはしないが、アルコールランプの灯りは趣きがある。

「ターニャちゃんは何にする? 此処はお茶が美味しいから、それに合うものがいいかも」

 メニュー……と言っても冊子状の物など無く、木の板に乱暴に書かれた幾つかの文字を追うしかない。水は有料で匂い消しにレモンらしき柑橘類が絞られている事が多い。

「文字まで読める……言葉も日本語じゃないのに……」

 周りの食器や声が奏でる音で聞こえないと思っているのか、ボソボソと呟くターニャちゃん。でも残念、お姉さんは耳まで良いのだ。異世界転移の御約束をクリアしていくターニャちゃんに、俺は慄くばかりだよ。 

「ターニャちゃん?」

「……すいません。では、彩り野菜のパン包みと今日のスープにします」

 ターニャちゃんが選んだのは一番安い料理だ。君は何処ぞやのサラリーマンか!? 子供が遠慮するんじゃないよ……可愛いけどさー。ちなみにパン包みとは所謂サンドイッチ擬きだ。

「他には? あの黒肉のスパイス焼きとか、腸詰とか美味しいよ? スープだって沢山種類あるし」

「いえ、野菜が好きなので。お茶は分からないのでお願いしていいですか?」

 おぅ……遠慮しながらも此方をたてるとは、この娘やるな。

「うーん……分かった。ターニャちゃん、先に言えば良かったけど遠慮とかしなくていいからね」

「はい、有難うございます」

 僅かに微笑みを浮かべて此方を見たターニャちゃん。可愛いけど、可愛いくない……

 手を上げて店員を呼びながら、まだ他人行儀なターニャちゃんを何とかしようと決意する。先ずはコミュニケーションからだ!

「ジルさん、決まりました?」

 さっきから此方をジロジロと見ていた店員は、嬉しそうに近寄って来た。お前視線隠せてないからな……バレバレ過ぎて男心的に悲しくなるよ……

「はい、お願いします。卵と揚げ魚のパン包み、彩り野菜のパン包みがひとつずつ……今日のスープは二つで、雪鳴茶をミルクで二人分……あと茹でた腸詰も」

「……腸詰、と。ジルさん、朝からギルドで食事って珍しいですね?」

「……えっと、ギルド長から頼まれ事があってその帰りなんです」

 慣れ慣れしい上に余計なお世話だよ……って言うか誰だよお前は!? 有名なのは自覚してるが、最近は皆距離を置いてるのに……。

「帰りなんですか? 俺も仕事は朝で終わりなんです。偶然だなぁ、帰り一緒にどうですか?」

「ごめんなさい、寄らないといけない場所や用事があるので……」

「なら、その後でも……」

「こら!! いつまで注文聞いてるつもりだ! 他の客もいるんだぞ!」

 厨房の方から怒鳴り声が聞こえたと思うと、店員はびくりと肩を揺らして姿を消す。見ると料理長の親父さんが此方にウインクして、厨房に消えていった。溜息をつく俺に何故か嬉しそうな顔のターニャちゃん。あの……ターニャちゃん?

 まったく……あの店員はターニャちゃんが目に入ってないのだろうか? 同席者がいる女性に声を掛けるとか、馬鹿としか思えない。男にチヤホヤされるのは良いが、常識が無い奴は気に入らないな。

「もう、なんで嬉しそうなの?」

「そんな事ないですよ。そういえば、雪鳴茶ってどんなお茶なんですか?」

 いや、絶対嬉しそうにしてたよね! あからさまに話題逸らしてるじゃん!

「……雪が沢山降る地域特産の茶葉を使ったお茶だね。踏み締める雪の音が鳴き止まない場所でも枯れない茶葉って意味だった筈。優しい味だし、ミルクに合うのよ。何より疲れに良く効くから」

「なるほど、楽しみです」

 にっこり笑顔のターニャちゃんに、疑問はどうでも良くなってしまった。ま、いっか。

「それで、これからの予定なんだけど」

「はい」


























 客足が途絶えた店内は、静けさが増してきた。

 殆どの客は仕事に出て行ったのだろう。オーソクレーズやクオーツなど低いランクの連中は、朝から出て夕方には帰って来る依頼が多い。逆にトパーズ以上の高位冒険者は護衛や長期の依頼も多く、時間も不規則だ。絶対数の違いから当然の状況だろう。

「先ずは服を揃えましょう。その不思議な服はサイズが合ってないみたいだし、代えもいるからね」

 学ランは袖も裾も折り曲げているが、合ってないのは一目瞭然だ。何より俺的TSイベントTOP3のひとつ、お着替えは外せないですから!

 彩り野菜のパン包みを齧りながら、ターニャちゃんは真剣に聞いている。ふふふ……まだ気付いてないのか、フェミニン全開の服を厳選しますからね。その時恥ずかしがっても遅いのだ!

 ちなみに彩り野菜がマジで彩りだったのはビビった。青やピンク、蛍光色の黄色とか厳選して、どうなってんだこの店は。しかも何も反応せずに食べるターニャちゃんヤベェだろ、これじゃ思わず驚いた俺が馬鹿みたいじゃないか。誤魔化す為にも元々あげる予定だった腸詰をプレゼントしよう。美味しいよ?


「その後は生活雑貨を揃えましょうか。私のを貸しても良いけど、気疲れするでしょう?」

「あの、貸すって一緒に住むんですか?」

「そうよ? ああ、心配しないで。私一人だし、部屋も余ってるから」

「そこまでして貰う訳には……住込みで働く場所とかないでしょうか?」

「うーん……あるけど、怒らないで聞いてね? まずターニャちゃんは小さいから、中々良い働き口が無い事、可愛い女の子だから危ない目に合うかもしれない事、それと……」

「それと?」

「さっきオジサンと話したでしょう? ターニャちゃんは少し特殊な状況だから、私が近くで見てるって建前がいるの」

 何か信用してないみたいでごめんね……そう言う俺に納得がいったらしい。

「いえ、よく分かりました。お世話になります」

「はい、任されました。あれ? さっきも言ったかなコレ」

 思わず吹き出すターニャちゃんに、俺も下心の無い笑顔が溢れたのが分かった。まあ、理由は嘘では無いからね、半分は!

「ふふふ……それにね」

 お茶に手を伸ばしたターニャちゃんは、再び俺に濃紺の瞳を向けた。

「色々聞いたでしょう? 超級やら魔剣やら、アレって私の事なんだけど……凄く簡単に言うと、冒険者の中で等級が上位の人がそう呼ばれるわ。私は一人だし、お金が余って使い途が無いし、困ってたところだから丁度いいの」

「お気遣いありがとうございます。そうだ、ギルドや等級について教えて貰っていいですか?」

「えっと……お気遣いなんかじゃないんだけど……」

「ええ、分かります。甘えさせていただきます」

 あれぇ?

「そう? じゃあ質問に答えましょうか」

 ふふふ……お姉さんが教えて上げよう!

「冒険者ギルドは通称で、正式には冒険者総合管理組合……一般にはギルドで通じるわ。主に魔物対策や護衛依頼、偶に特殊な素材採取が依頼に出るの。殆どは常時依頼が掛かっているから、魔物退治とかは勝手にやっても良いかな。証明部位の持込が必要だけどね?」

「それでは、例えばジルさんが倒した魔物を後から拾い集めてもいい事になりませんか?」

「その通りよ。実際スカベンジャーと言われる連中もいて、まあゴミ漁りね」

「それはルール違反じゃないんですか?」

「勿論ルール違反よ? でもそんな事を繰り返しても実力が付かないし、頭打ちになるだけ。トパーズに……ゴメン、等級の真ん中ね? それに上がるには特殊な試験があるんだけど、突破は絶対無理。それにバレたら仲間からは軽蔑されてギルドに居られなくなるし」

 まあ普通は選ばない職種ですな、うん。

「等級が上がると指定、或いは指名の依頼が出始めるの。受付や査定の係から声が掛かり始めたら一人前になった証かな。あと等級に関わらず、受付に行けば自分に合った仕事も紹介してくれます」

「紙が貼り出されるのかと思ってました」

 分かる!! 私も最初はそう思ってましたよ!

「貼り出しとかしたら取り合って喧嘩になるよ。干された依頼が偶に出る位かな」

 残念ながら、この世界ではギルドの新人イビリイベントは起きないのだよ。おう姉ちゃん、俺が一緒に依頼行ってやるぜ、とか。お前にはその依頼は早過ぎないか?とか。あったら笑えるのにね。

 スープも飲み干し、後はお茶を楽しむだけだ。食後はミルクを注ぎ足して味変するのが定番なのだ。因みにお茶はカップで無く、ガラス製のティーサーバーで纏めてくる。大体二杯分あるからね。

「等級は下からオーソクレーズ、クオーツ、トパー ズ、コランダム、ダイヤモンドの5等級。超級は例外扱い。超級になると二つ名が正式に貰えるのよ、凄いでしょ?」

 ちょっとだけ恥ずかしいが、一応ドヤ顔しておく。

「わあ、凄いですね! それが魔剣ですか?」

 あれぇ? 何故か生暖かい目で見られてる気がするんですが……最近の中学生ってこう言うの好きじゃないのか? まさかチュウニビョウは死語なのか!?

 滅茶苦茶恥ずかしくなった俺は、思わず赤面したのが分かってしまう。

「そ、そうかな……」

「その魔剣の由来聞きたいです!」

 いやいや、俺が恥ずかしがってるの分かって聞いてるよね!?

「いや、それはまた今度……」

 ところがターニャちゃんはカップを脇に寄せ、さも聞く態勢になりました!って目をキラキラさせて此方を見てくるのだ。可愛い……じゃなくって!

「魔剣って、やっぱり魔法と剣の両方が使えるからですか?」

 やめてくれー! 二つ名を自分で説明するなんて恥ずかし過ぎるって!

「そ、そうです。剣に魔力を纏わせて戦うから……かな? あと魔法もそこそこ使えるから……」

態々二つ名が付くと言う事は、余程鍛えられた技術なんですね!」

 キミさっきまで感嘆詞なんて使わない感じだったじゃん! キャラ変わってない!? 生暖かい視線から逃げる為にも、思わずお茶に手を伸ばすしかない。何か探る様な感じもしたけど気のせいかな。

「うん、小さな頃から少しずつね」

「小さな頃? 失礼ですがジルさんは御幾つなんですか?」

「22歳だけど、どうかした?」

「ご出身は?」

「ん? この国じゃないよ。バンバルボアって言う国で随分遠いかな?」

「そうですか」

 ターニャちゃんは何かを考える様に目を伏せたが、何だろう?

「気になる事でもあった?」

「いえ、ジルさん綺麗だから気になって」

 ふむ? ま、いっか。綺麗なの事実だし!

「あら、ありがとう。じゃあそろそろ行こっか?」

「はい」

 代金とチップをティーサーバーの下に挟んだ俺は、お着替えに意識を向ける。行くならあの店からだな。俺自身にされるのは辟易するが、あの人ならターニャちゃんの可愛いさに黙っている筈はない。今のところTSに戸惑いが少ないこの子も困り果てるだろう、ククク。

 帰り際、厨房の片隅で先程の店員が怒られてるのが見えた。まあ、頑張りたまえよ。

 俺はターニャちゃんの柔らかい手を握りしめ、街に繰り出すのに忙しいからね!








  

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