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約束の大空

佳川鈴奈

53. 二人の絆 -瑠花-

花桜が山南さんを大切にしたいと思ってる気持ちが
傍にいれば居るほど痛いほどわかる。

総司の近くで何時、労咳を発症するかわからない恐怖を
押し殺しながら寄り添い続ける時間。

花桜が傍にいる時間はある意味それに近い。


『山南さん、花桜の為に今すぐ明里さんと出掛けてください。

 今日の夜にも近藤さんが帰ってくる。

 彼が帰ってきたら、山南さんの居場所がなくなる。
 未来の歴史はそうなってるんです』



花桜の為に逃げて欲しい。


心から歴史を変えて欲しいと願う時間。
そんな願いと希望を塗りこめて告げた私の言葉。


だけどそれは……山南さんには届かなかった。


ううん、私の気持ちを山南さんは受け止めたうえで
あの歴史通りに時間を動かそうとしてる。


そんな風に思えた。



鴨ちゃんの時と同じ匂いがする。




その覚悟がわかるからこそ、これから起こる出来事に、
花桜が立ち向かえるように今は少しでも長く、
彼の傍に居させてあげたい。


そんな風に思いながら時間を過ごしてる。


屯所内の家事も、花桜の負担を極力少なくする。


私には……親友の為に、それくらいの事しか出来ないから。


そしてそれと同時に思うのは総司の事。


総司自身が新選組の一員として、
実際にどんな仕事をしてるかなんて、
一番近くに居るのに私にはわからない。


私が知ってるのはドラマの中の沖田総司がして来た殺人の数々だけ。


ただ仕事をやりおえた総司は何も言わず、
私が居る部屋を訪ねて来て無言で抱きしめてくれるだけ。


そんな繊細な総司がこの次にやることになるのは、
山南さんの切腹の介助。



花桜の事も、総司の事も思えば思うほど胸が痛くなるばかりだった。





「瑠花、どうしよう」



そんなことを考えている私のところに、
泣きそうな顔をして、飛び込んできたのは花桜。



「花桜、どうしようって?
 山南さんのところにいったんじゃ」



そこまで言いかけて、
私はドラマのシーンを思い出した。


そう……ある朝、山南さんの部屋を訪ねた時には、
その部屋は空っぽで布団も綺麗に畳まれてた。



「瑠花……山南さんが見つからないの」


そうやって肩を落とす花桜。



「ほらっ、山南さんは明里さんのところかも知れない。
 私もついていくから、ほらっ」


花桜の手をひいて、屯所の中庭を通り抜けると
京の町へと飛びだした。


決して治安がいいとは言えない
その町の怖さを知らないわけじゃない。


だけど……今は私がしっかりしなきゃ。




「山波、岩倉、こんなところで何をしてる」


二人、手を繋いで駆け抜ける背中に、
聞きなれた声がかかる。



「さっ、斎藤さん。

 すいません、急いでるんです。
 見逃してください」


口早に告げると、逃げるように立ち去ろうとする私を
斎藤さんは掴んで告げた。


「女二人の京の町は危険だ。
 俺が警護する」


そう言って無言で、行けと言うように視線を向ける。


「ほらっ、花桜。

 斎藤さんが警護してくれるから安心だよ。
 次はどっち?」


花桜を促すように告げると、キョロキョロと視線を向けて
また明里さんの住む長屋を目指して走り出す。


「明里さん、明里さん」


長屋の障子の前で花桜は、
明里さんの名前を呼び続ける。



だけど、中から人が出てくる気配はない。



「明里?

 そうか……山南さんの女か……」



斎藤さんが独り言を紡ぐように吐き出すと、
私と花桜を残して、長屋の他の家を訪ねてくれる。



「岩倉くん、山波くん。

 その部屋の女だが、今朝方旅支度を整えて
 出掛けるのを見たらしい」



斎藤さんの言葉を受けて花桜は黙って、私を見つめる。



「何があった?」



体を震わせる花桜をそっと抱き寄せながら
私は斎藤さんに今朝から山南さんの行方が
わからなくなっていることを告げた。


「岩倉くん、山波くん、屯所に戻る」


力が抜けてしまったのか震え続けて、
思うように走れない花桜を斎藤さんは軽々と背負って、
私を気遣いながら屯所へと急ぐ。


屯所に戻った時には旅支度を整えた、
総司が中庭から馬を連れて姿を見せたところだった。



「総司?」


「その様子だと瑠花も山波も知ったみたいだね。

 一くん、山南さんが居なくなった。
 近藤さんと土方さんのところに顔を出してくるといいよ。

 僕は山南さんの後を追いかけるよ」



そう言うと総司は騎乗する。



斎藤さんは花桜を連れて屯所の中に入っていく。


少しだけ、花桜……ごめんね。





「総司……行くの?」


馬に乗って、高くなった総司を見上げて呟く。



「あぁ、今から出掛けて来るよ。
 
 近藤さんと土方さんには暫く帰ってくるなって言われたから、
 数日は帰れないかなぁー」



そう言って総司は、空を見つめる。



そんな総司の顔色はやっぱり少し青白く見えて、
そんな顔色に労咳を発症してしまったのかと私は不安になる。


本当なら、総司に山南さんを追いかけに行ってほしくない。



「総司……絶対に自分を殺さないで。

 酷いよ……鴨ちゃんも山南さんも、
 総司にばっか辛いことを押し付ける。

 総司だって苦しいのに……」



本音を吐き出しながら、
自然と涙が溢れだしてしまう。


そんな滴を総司は、馬から降りて
指先で拭うと静かに自らの唇を重ねて来た。


総司の暖かな唇の感触を噛みしめる。



ゆっくりとその温もりが離れた時、
総司は、真っ直ぐに見据えて私に告げた。




「有難う。
 瑠花の気持ちは嬉しいです。

 でも心配は無用です。
 瑠花、僕は思うんですよ。

 僕がその役目を担えるのは信頼の証だと思うんです。

 僕を僕として認めてくれている。
 だからこそ、その最期を託し思いを委ねられる。

 そうやって僕を信じてくれた絆が僕を歩ませてくれる。
 だからこそ、僕は裏切りたくないんですよ」


総司は自身の心を優しい声色で私に伝えながら
にっこりと微笑みかけた。




……絆……。





そうやって言い切られてしまったら、
私はもう、それ以上総司を引き留める言葉が
見つけられない。





信じあってるから、思いあってるから、
相手の望みを叶えてあげたい。


私や花桜や舞。


今はただの仲良し組の私たちも
何時かは、そんな時間が訪れるの?




「瑠花、行ってくるよ。
 屯所と山波を頼んだよ。

 山南さんは、山波のことも僕たちに託して行ったんだから」


そう告げると、総司は馬を駆って屯所を後にして行った。


町の中を馬の駆ける音。


総司の背中が見えなくなるまで私はただじっと見つめてた。






二人の絆……。






絆って言えば聞こえはいいけど
やっぱり……私は思うよ。




どうして……
自分を傷つける生き方しか出来ないの?







その後、屯所の中に駆け戻った私は
花桜の部屋へと直行する。



布団に眠らされて休まされていた
その部屋に静かに入ると、何度も泣いたのか、
花桜の涙で枕が濡れてた。





「花桜……、傍に居るよ」






そんな花桜に少しでも一人じゃないことを伝えたくて
花桜の手を握りしめながら何度も何度も声をかけ続けた。







それぞれの絆が試される時間。








見えない絆だけが全ての時間と出来事を
繋げているように思えた。

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