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約束の大空

佳川鈴奈

29.近づく運命の足音 - 瑠花 -


山南さんが傷を負った。



ひっそりと広まっていたそんな噂の後から時間は過ぎても、
屯所内で彼の姿を見ることは殆どなくなった。



この世界に再び戻ってきた花桜は、
今は彼の療養している部屋に入り浸っている。

昔、花桜のお祖母さんに聞いたことがあるんだ。



私が新選組の沖田総司が好きだって力説していた時に、
『当家も縁が深いのよ』ってお祖父さんを見て笑ってた。



山南(さんなん)と書いてヤマナミと呼ぶ説もある。



そう知った時に……ヤマナミが山波に変化して、
身を隠したのかな?ってなんとなくだけど思った。



あの花桜が……それを勘ぐってるなんて思えないけど、
花桜が、山南さんによく懐いているのは
そう言う血の巡りあわせなんかもあるのかな?なんて少し思ってた。


隊士たちの人数も増えて屯所内が少し狭く感じる。



それでも私たち居候組がすることなんて何も変わらなくて。


屯所内の掃除に洗濯。
隊士たちの、食事作り。 



市に買い物に出かけて大量の食料を抱えて家の中に入って格闘。



毎日買うのもバカにならないから畑でもしちゃえば?

自給自足って、軽いノリで始めた小さな庭の畑も
当初の予定ほどの収穫はない。



大量の洗濯ものの、手洗いにも慣れた。


この世界に来て本当に洗濯機の有難味が身に染みるよ。




そんなこんなで、いつもの日課を終えてしまうと
鴨ちゃんとお梅さんのお墓参り。


だけどお墓参りまでし終えるとやることないんだよね。


そんなわけで、縁側に腰掛けて庭で練習している
舞たちの訓練風景を眺めてる。



舞が竹刀を握って素振りを始めると、
何処からともなく姿を見せて斎藤さんが手合せを手伝う。



総司はと言えば最初は私の隣に座ってるんだけど、
次第にウズウズしてくるのか、剣を抜くと、
峰打ちにして隊士たちの中に飛び込んで行っちゃう。


そのまま勢いが止まらなくなった総司は、
その場に居る隊士たちを峰で一撃食らわせてボコボコにしちゃうと
そのまま隊士たちを指導していた、藤堂さんたちと強制手合せ。


藤堂さん、原田さん、永倉さんたちを相手にしても勢いは留まらなくて。

リミッターが解除されちゃった総司の相手は、次は斎藤さん。


剣を振り続ける彼は、童心のようで……
生き急いでるみたいで……そして見えない何かに日々、
追われているようにも感じられて。



お互いの刀と刀が、
金属音を放ちながら交わっていく。


同時に双方の腹部に柄がめり込んだとき、
その場で倒れこむように膝を折って崩れる総司。



斎藤さんは、かろうじて立っているものの
その息は、少し上がっているように思えた。



ってか、アンタたち一体何時間、
打ち合い続けられるのよ。




そう言いたくなるほどに、
剣の稽古だけで日が暮れていく。



だけど……こんな時間がずっと続いてほしいって
今は心から思えるんだ。




この世界のことが最初は、嫌で嫌で仕方なかった。

ずっと帰りたくて帰りたくて仕方なかった。



今も現代にいる家族のことは気になる。



私は行方不明になってない?っとか心配かけてないとか?



だけど、いつの間にかこの世界も
私にとっては大切な存在になってる。






井戸に行って冷たい水をくみ上げると、
手ぬぐいを濡らして、
総司の汗をゆっくりとふき取っていく。





地面に大の字で転がってる総司は、
少し伸びをして、ゆっくりと起き上がる。





「大丈夫?
 斎藤さんに、やられちやったみたいだけど?」

「えっ?誰がやられたって?

 ご希望なら今からもう一戦してきましょうか?
 私の強さ、証明してみせますよ」



なんて、サラリ小悪魔の笑みを浮かべる。



「あっ、大丈夫。

 総司が強いのは出会った時から立派に証明されてるから」





貴方が強いのはもう十分に伝わってる。



その強さの中で、貴方が鴨ちゃんから
託されたものがあることも。




鴨ちゃんとお梅さんが居なくなって、
独りになると思ってた。


だけど……こうやって総司はこんな私に寄り添ってくれる。



今は一人じゃないって、強く思わせてくれるから。




「あぁ~沢山遊んだらお腹がすいちゃいました」




そう言いだすと、自分の胸元からお金が入っているだろう巾着を手に取って
重さで中身を探ってるような仕草をする。



「これなら少しは食べられそうですね。

 他の人には内緒ですよ。
 近藤さんがお団子代くれたんです」





そんな感じで声を潜めるあたりも
やっぱり幼さを感じられる部分で。



そう言う見たことがない一面に気づかされるたびに
心が弾んでる私。



断りを貰って、屯所を出ると二人並んで甘味処へ。
そこでお団子を注文すると美味しそうに頬張る。


私が一本食べてる間に、三本くらい食べ終わってる勢いの
総司の食べっぷりにポカンとしながら見入ってしまってる。



「瑠花さん、一本しか食べてないじゃないですか?
 はい、最後の一本になっちゃいましたがあげます」


お皿からつまんで食べかけた団子を口に入れる寸前で止めて、
にっこりと笑って私の前に差し出す。



「有難う」



そう言って、受け取った瞬間
とても悲しそうな表情をする総司。



私は、いじめっ子か?




そんな総司を玩具に楽しんだ後は、
一口だけもらって総司に返す。



「いいんですか?」



お団子を前にした途端、
またキラキラと輝きだす目。



ゲンキンだね。



これが……初対面のあの時、
『殺すよ』って冷酷な言葉を投げつけたあの総司なんだから。



全てをきれいに食べ終えた総司は、
お勘定を済ませて店の外に出た。



ゆっくりと日が高くなっている京の町も、
夕焼けに包まれようとしていた。





その帰り道、総司の手がゆっくりと伸びてきて
私の指先に絡まる。



繋がる手。





伝わる温もり。








何時だろう。




この世界で彼が労咳で倒れるのは。




私たちの世界のドラマや本の中では、
池田屋事件の日に彼は倒れる。



池田屋事件の日、山南さんはたしかそれに参加出来ていない。
それも体調を崩していたからと伝えられている。



まさに今、山南さんは負傷してる。
池田屋事件はすぐ傍にまで迫ってるの?



彼が労咳か熱中症で倒れたと伝えられているその日は近い。



歴史は変えられない。
変えちゃいけない。


だけど私は……また傍で見送るだけなの?



彼の命が消えるその時まで。



……嫌だよ……。


運命に贖えるなら私は……。



微かな決意を心に秘めながら、
総司の手を握る手にわずかな力を込める。





途端に私を見つめる総司。








この笑顔を守れるなら……私は。




その時が来たら、後悔がないように
私は私の意思を貫きたい。





自分の意思を貫く大切さを
鴨ちゃんが教えてくれたから。

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