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約束の大空

佳川鈴奈

17.つぼみの頃 2 - 瑠花 -

「梅、酒だ。酒」



そう言う、鴨ちゃんはちょっと窮屈そうな装いで腰掛ける。



近藤さんが、会津さまに呼び出されて帰って来た後から、
前川邸も八木邸も騒々しくなった。


会津藩から借りた、戦装束。
鎧一式。


ちょっぴり黴(かび)臭い、装束に身を包んだ
鴨ちゃんをはじめとする隊士たちには何処か緊張が走っていた。



会津藩の要請。


ここでも確か鴨ちゃんたちは嫌な思いをするんだ。



前川邸を出て、八木邸へと鴨ちゃんと移動した
私は、この場所で花桜と一緒に雑用を手伝ってた。



鴨ちゃんは、しなくていいって言ってくれたけど、
花桜にだけさせるわけに行かないじゃん。



忙しくなく動き回る花桜。



炊き出し。
おにぎりを作って、振る舞っていく花桜。


そんな戦前でも鴨ちゃんはマイペース。


酒だ。
酒っ……って。



「ねぇ、鴨ちゃん。
 戦前くらい、お酒やめなよ」



堪り兼ねて、紡いだ言葉。



私にとっては自然な一言なのに、
途端に、隊士たちの視線が私に集中する。



あっ、そうか。

隊士たちにとっての鴨ちゃんは、
厄介者の怖い人なんだっけ。


鴨ちゃんが貫きたい礎の為の誠。



……バカ……。



思わず唇を噛みしめる。




「おいっ、瑠花。
 お前もつげ。

 酒だ、酒。

 勝利の祝い酒くらい、前祝にしたところで
 問題ないだろう」



横柄な態度で、ぐいっと怒鳴って、
お酒をあおるように飲む。




ったく……。




悲しいのに、
何も出来ない自分が悔しくて。



でも……私は、
見守るって決めた。



鴨ちゃんの覚悟、受け止めるって決めた。



だから……ちゃんと笑って、
この時間も歩いて行かないと。



お揃いのだんだら羽織を身に着けて、
藩からの命令を待ち続けるその間も、
邸内の不穏な空気はおさまる気配がない。



近藤さんラブリーの鬼の誰かさん。


その人の射すような視線が、
鴨ちゃんを突き刺しているのがわかる。



そんな視線すら、
鴨ちゃんは気づかぬふりで。




その殺気の視線の意味は、
私が一番わかってるから。




でもね……土方さん。


新選組の為の礎になるために、
わざと嫌われ役をかってでてる鴨ちゃんの本性を知って、
それでも斬りたいと思う?


見つめる先には、
鴨ちゃんが無心に酒を飲み続ける。


鴨ちゃんの周囲には、
近藤さん、土方さん、山南さんが
難しい顔をしながら共に同じ部屋で座って。





……何でそこまで出来るのよっ!!……。






それでもその場所に居続ける
鴨ちゃんの未来。



鴨ちゃんの姿を見続けることが出来なくて、
最後のお酌を終えると、その場所を離れる。





……ごめん……鴨ちゃん……。



その場所を離れて、炊事場まで一気に走っていくと、
炊事場の壁に握りこぶしを何度かぶつけながら涙を流す。


声をあげて泣く私に
花桜が背中をさすってくれた。




「瑠花……。
 無理しなくていいんだよ。

 瑠花のことは私が守るから。
 
 瑠花だけでも、
 私が現在に帰して見せるから」




黙って私を抱き寄せる。




「……花桜……」



必死に涙を堪えて、
声にならない声で紡ぐ親友の名前。



「少し休んでおいでよ。
 皆には疲れて休んでるって伝えておくから。

 ほらっ、泣いたままで芹沢さんの前にいられないでしょ」


花桜に促されて八木邸の炊事場から、
前川邸の方へと移動していく。



その道すがら、
視線の隅に捉えたもの。




沖田さんとお梅さんの姿。




「瑠花はん?」



慌てて通り過ぎようとした私に、
気が付いたお梅さんが声をかける。


ヤバっ。


こんなところ見られたくなかったんだけどな……。



しかも……お梅さんと一緒にいるのは、
あの沖田総司。



大好きな総司のはずなのに今は……ただ怖い……。




彼の心が見えないから……。




「ほなっ、沖田はんも気をつけて」



お梅さんはそう話しかけると、
私の方へと近づいてきた。



「芹沢せんせは?」

「あっ……鴨ちゃんは相変わらず、
 お酒飲んでます。

 黙々と……」

「……そうかぁ……」


一度軽く目を伏せて視線を遠くにうつしながら
愛おしそうに紡ぐお梅さん。



「あっ、あの……。
 お梅さん、沖田さんと?」



沖田さんと何話してたんですか?


「あぁ~、総司の恋相談」


はい?


沖田さんの恋愛相談?



嘘でしょ。


お梅さん……。


あの……沖田さんが誰かに恋してるなんて。


冗談でしょ。



「えっ?沖田さん。
 お梅さんのことが好きなんですか?

 お梅さんには、鴨ちゃんがいるのに」



真剣にそう切り返す私に、
お梅さんは、クスクスと笑いだして。



もう……お腹抱えてまで笑うことないじゃない。




「もう」っと頬を膨らませて睨む私を見て
体制を立て直したお梅さんは「かんにんなぁ~」っと
言葉を続けた。





「だったら……どうして?」




気が付いたら
言葉にしてた本音。




呟いたその言葉に、
満足な返答を得られぬまま
無情な時間は過ぎていく。




会津藩からの命令が届かない
状況下の中、出陣を決めた壬生浪士組。





慌てて八木邸へと戻って、
鴨ちゃんに近寄る。





「瑠花、お前はここで俺の帰りを待ってろ。

 うまい酒を頼む」



大きな手で、頭を子供に接するように
撫でつけると隊士たちをつれて出て行った。



その後を追うように、
近藤さんたちを後を追いかける。



「瑠花っ。
 私も出掛けてくる。

 まだ戦えるかどうかなんて自信ないけど
 誰だって、初めてはあるでしょ。

 私、この世界で生きるって決めたんだから。

 舞とも会えるかも知れないし」



急ぎ早にそう告げると、
その隊列に加わって邸を出て行った。





八月十八日の政変かぁ。






大好きな歴史を思い出して一人戻った前川邸の自室で
心の中、呟く。



目を閉じて思い出す歴史。



ドラマやら、何やらいろんな情報が入り混じった
出来事ではあるけれど確か……こうだっはず。


隊列を組んで出向いた蛤御門。


蛤御門で、壬生浪士組は邪険にされるんだ。
部外者扱いされて。


それで鴨ちゃんが大暴れして、
中に入れて貰うんだっけ。






ちゃんと無事に帰ってくる。





歴史上も、鴨ちゃんたちは
無事に帰ってくるのはわかってる。




わかってるけど……
不安で締め付けられそうになる
この心は拭えないよ。






自室にこもり、
一人、手をあわせる。




柄でもないのに両手を合わせて、
神様に必死に祈り続ける。






鴨ちゃんたちが花桜が無事に、
帰って来てくれますように……と……。






ただ待つだけの時間が
こんなに長くて苦しい時間だなんて
思いもしなかった。









日々を必死に足掻き続ける
私たちのうえに、時は無常を刻み続ける。






止まることのない幕末の歴史は、
何者に邪魔されることなく
運命(さだめ)を描き続けていた。



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