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約束の大空

佳川鈴奈

14.月を聴かせて- 瑠花 -


食事をとらなくなって
どれくらいの時間が過ぎただろう。


この世界に私の居場所はない。


ううん……自業自得。



私が自分で、この世界から遠のいて行ってる。


あの日を境に、
この部屋には花桜以外近寄らなくなった。



後どれくらい、この場所で
自分を追い込めば私の世界に戻れるの?




誰か……誰か教えてよ。




毎日願い続ける元の世界への帰り方。



どれだけ祈り続けても
決して、その道が開くことがない。



枯れるまで流し続けた涙。





時折、部屋の障子をあけて空を見上げる。




あの空が開けば、
私は……帰ることが出来るのに……。



今日もボーっと空を見上げる。





「入るぞ」



ふと……声が聞こえて、
私の向かい側にドシっと腰を下ろす。



「……鴨ちゃん……」




思わず呟いてしまったその言葉に
両手で自分の口に手を添える。



「瑠花、その鴨ちゃんってのはなんだよ?

 月の呼び方か?」



怒ってる風でもなく、
砕けたように豪快に笑いながら
話しかけて来る鴨ちゃん。


「本当は……芹沢さんって
 呼ばないといけないのにね……」

「いやっ。
 瑠花の好きなように呼んでいいぞ。

 お前、最近食ってねぇんだろ。
 ただでさえ、食が細いのにしっかり食えよ。

 梅が粥作ったんだ。
 ほらよっ」


そう言いながら、粥を蓮華にすくって
私の口元へと運ぶ。


「おぉ、食えるじゃねぇか。
 ほらっ」


そう言いながら、鴨ちゃんは
次から次へと私の口元へ粥を運び続け、
食べ終えたのを見届けて静かに椀を置いた。



「瑠花、月ってのはどんなことなんだ?」



月には住んでないんだけど……。


そう心の中で突っ込みながらも
私は、私の世界の話を鴨ちゃんに話していく。



携帯電話のこと。

学校のこと。

カラオケのこと。

私の家族のこと。

大好きなファッションのこと。




そして鴨ちゃんたちの名前が
語り継がれていること。




私が話す言葉を鴨ちゃんは、
畳にゴロリと横になりながら楽しそうに聞いてた。



どうしてだろう。


この世界に来てから私はずっと鴨ちゃんに
救われてばかりだよ。





こんなにも守られているのに
鴨ちゃんの為に、私は何もしてあげられない。





「瑠花……俺はもうすぐ逝くのか……」




暫くの沈黙の後、
鴨ちゃんが重い口を開く。




そう……。



こんなにも優しい貴方は
もうすぐ……近藤さんを慕う、
土方さんたちの手によってその命を奪われる。




もう……隠せないよ。




その歴史が変わろうとも。





もう……歴史は変わってる。






私がこの世界に来てしまったから。






「大丈夫……。

 私の存在がこの世界を狂わせたの。

 私の存在は、
 真っ赤な地に染まっちゃった。

 鴨ちゃんたちは私を助けてくれた。

 それは知ってるよ。

 だけど……服を着替えても
 血の匂いが消えないの。

 何を着ても私の目には、
 真っ赤にしみついたその血が……映る」





そう……。




着物を脱いで着替えても、
制服に袖を通しても。




私の体に着いた赤い血は
消えることがない。




「だから……私、決めたよ。

 私の存在はもう歴史を変えてしまった。

 だったら私が鬼になって、
 鴨ちゃんを……鴨ちゃんを助けて見せるから」 




そう。




鴨ちゃんを助けて見せる。


今、この世界で
私が一番大切なのは鴨ちゃんだから。



それは……恋とは程遠い感情かもしれないけど
鴨ちゃんが居てくれたから今日まで私は守られてきた。


花桜のように一日中、屯所内の仕事を
押し付けられるでもなくのうのうと過ごしていられた。



だから……。




鴨ちゃんに仇なす者は
私が……葬る……。







「おいおい。
 気負うなってお前に鬼は似合わねぇよ。
 
 笑ってろ。

 アイツらの夢の為に。

 それに……その未来がわかっただけで
 俺は十分だ」




えっ?



「鴨ちゃん?

 充分だって……まさか……」

「あぁ。

 今の壬生浪士組に俺たちは害をす存在以外の何物でもない。
 もともとは寄せ集めの俺らだ。

 時が来るまで、多少暴挙に出ようが
 あいつらを守るやつらが必要だったんだ。

 あいつらは近藤を軸にして、まとまり始めた。

 俺が暴れることによって、
 あいつらは……今以上に結束を固めるだろうよ。

 俺を殺るように自らで仕掛け、煽ってきた。
 それが成就することを瑠花は俺に教えてくれた。

 この場所に来た時から、この命の幕引きは決めていた。

 だから……泣くなっ。

 瑠花は……お前は、俺の夢が叶う時笑って見送れ。

 俺は壬生浪士組の礎として祈願を成就させる」
 
 


語られる鴨ちゃんの思い。




それはドラマで語られるどれとも違っていて、
温もりに溢れた言葉。





そして……不器用な鴨ちゃんらしい
目指す場所。



「……馬鹿っ……。

 笑ってなんて……
 笑ってなんて見送ってあげないんだから」





そう。


笑ってなんて見送ってあげない。






その言葉の裏には私の決意を止めさせる
優しさもうかがえる。







「……瑠花……。

 月を聴かせろ」





涙を必死に隠そうとする
私に……鴨ちゃんは『月を聴かせろ』と一言。





その月が……
空に浮かぶ月ではなくて
遠い未来のことだと
なんとなく感じているような気すらした。






「じゃあ、次は
 何の話しようか……」




両手で涙をぬぐって鼻水をすすり上げると、
鴨ちゃんに、笑いかけて明るく話しかける。



全てを受け入れて望む未来の為に
動き続けてる。




そうまで言われたら私は……
それを自分のエゴでとめることなんて出来ない。




だから……
その瞬間まで。




私はお梅さんと、鴨ちゃんと
精一杯、この世界で生きるよ。




そして……その先の未来も
二人の優しさを忘れずに歩いてく。




後世の他の誰かが、
鴨ちゃんをどれだけ悪役に書き綴っても
私だけは……鴨ちゃんの本当の優しさを知ったから。







だから……その日まで。
貴方の望むままに月を語り続けるよ。








それが……私が鴨ちゃんに出来る
唯一だもの。





……月を聴かせて……




何度でも、
声を聴かせて。







その声が続く限り、
貴方の命がこの世界に留まっている証だから。



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