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約束の大空

佳川鈴奈

12. 敵対関係 - 舞 -

義助さんと晋作さんに置手紙を置いて
この場所で生活をするようになって数日。

私の親友だと名乗る瑠花さんと花桜さんは、
毎日のように訪ねてくる。


まだ記憶を取り戻すヒントも何もないけど、
その親友の証を繋ぐものとして、
二人はお揃いの不可思議なものを見せてくれた。


瑠花さんがお世話になっている
芹沢さんが言うには、瑠花さんと花桜さん
そして私は空に浮かんでる月から来たらしい。


長州の屋敷で見た不可思議な
布袋に入っていた物に似ている、異国のモノ。


それを二人も手にしていて、
それが私の過去を知る証なのだと説明された。


共に過ごす時間の中でも、
記憶が戻っていく様子は何処にも感じられない。




そろそろ帰らないと……。




義助さんと晋作さんが心配するよ。



そう思って、お世話になっている
前川屋敷をそろそろお暇しようかなって
思っていた頃、事件は起こった。


お茶の席で突然、まくしたてた
瑠花さんは崩れ落ちて屋敷を飛び出した。


その後を追うように飛び出した
花桜さんと芹沢さん。


そして……もう一人。
ガラガラになった屋敷。


私はゆっくりと屋敷を抜け出した。


今なら……抜け出せるよね。
後ろを、時折振り返りながら
町中に抜け出た私の前に一人の男が立ちふさがる。





「何処へ行く?」




落ち着いた声色で囁くように言う男。




「えっと……、宿に戻るんです。
 私、お世話になってる人がいて。
 置手紙だけで来たので心配していると思うから」



この世界で私が一番安心していられる場所は
やっぱり……義助さんや、晋作さんの近く。


どんなに瑠花さんと花桜さんが友達だって
迎え入れてくれても私はあの二人のことを知らない。




あの二人が、懐かしそうに話す
月の世界の話も私には何もわからない。




記憶がなくなったことに、
もし理由があるとするなら、
神様はこの世界で、この世界の人間として
生きていきなさい。



そう言ってるのかも知れない。


生まれてきた赤子が全く何も知らないように。
知識に貪欲に全てを吸収していくように。


私も……それを求められてるのかも知れない。



だったら……ここに私の場所はない。



「そうか。
 ならば送って行こう」




男はそう言うと、
無言で私の後をついてくる。



走ろうとも、歩こうとも、
着かず離れず、私の後をついてくる男。


歩く速さを一気に緩めて立ち止まると
相手の歩みも、ゆっくりと止まる。



「あの……。

 お名前教えて頂けますか?」

「…… 斎藤 一 ……」



短く、それだけ言うと今度は、
斎藤と名乗ったその人が私の前を歩きだす。


時折、後ろを気にしながら。


大した会話もないままに、
ひたすら、数日前に入ったばかりの宿へと向かう。


そこに辿りついた時、
斎藤さんは何かを考えるようにその宿を見つめ続けた。



「あの?
 どうかしたました?」

「ここに
 友はいるのか?」



彼の質問に、笑い返して頷いた時、
突然、宿の中から飛び出してきた人が、
斎藤さんに向かって切りつける。



「壬生浪が、 もうこの場所を
 嗅ぎ付けたか」




捨て台詞にも似た
言葉を冷静な口調で吐き捨てながら
剣を放ち続ける人。



その人の剣を斎藤さんは、
一定の距離を保ちながら自らの剣で受け止め続ける。


私の周囲で刀と刀の交わりの音が
何度も何度も繰り返されていく。




「栄太郎。
 やめろ」



突如、天に向かって放たれた銃声。

二人の間には銃を両手に持った
晋作さんが、険しい顔をして双方に目を光らせている。


「気がそれた」


短く言い放つと、
栄太郎と呼ばれたその人は
刀をおさめて静かにその場から立ち去った。



追いかけようとした斎藤さんに再度、
銃を向けて威嚇する。



「舞、こっちに来い」



晋作さんに言われるがままに、
私は二人がいる方へと歩いていく。


「今日のところは引き上げましょう。
 
 斎藤くんだったね。

 舞を送り届けてくれて感謝しますよ。
 次に会うときは、遠慮はしません」




えっ?


義助さん……さっき、
なんて言ったの?


次に会うときは遠慮はしないって。

それって……どういう意味?



そのまま……、二人に連れられながら
その宿を離れる。


次に会うときは遠慮はしない。


確かに義助さんがそう言ってた。




って言うことは、瑠花さんと花桜さんとは
敵同士だと言うの?


義助さんと晋作さんの他に、
この世界で仲良くなれた存在なのに……。



新しい宿に入った後、晋作さんは、
また何処かへと出かけていく。



残された部屋には仕事中の義助さんと私の二人。


暗闇の中、ほのかに揺らめく蝋燭【ろうそく】の明かり。



「あの……教えてください」


思い切って質問する。

義助さんたちは、
今……何をしようとしているのですか?

それを知ったら最後、私も後戻りは出来ない。

何も知らなかった私には戻れない。


だけど……それじゃダメだと思うから。


私はこの世界を、
自分の足で歩いて行かないといけない。



何時までも義助さんと晋作さんに
助けられてばかりだといけない気がするから。


義助さんは暫く考え事をした後、
今、義助さんたちが何をしようとしているのかを
教えてくれた。



孝明天皇の大和行幸を機に討幕の兵を
あげようとしているのだと……。



難しすぎて私には良くわからなかったけど、
義助さんと晋作さんたちが必死になって、
この国の未来を変えようとしているのだけは
なんとなく理解できた。


そして……二人が突き進む道は
討幕を意識したもの。



その日……はじめて、
仲間に入れて貰えた気がした。

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