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約束の大空

佳川鈴奈

11.秘めた葛藤 - 瑠花 -


大和屋の一件があってからも、
鴨ちゃんの態度は変わらない。

そんなある日……とうとう完成しちゃった。


その立札に綴られた、

『士道ニ背キ間敷事』


この一文を見た途端に私の脳裏に浮かんだのは
その全文。



その立札の正体は新選組史上もっとも極悪な、
局中法度書(きょくちゅうはっとがき)。


漢字とカタカナで綴られた古典的な文が
立札に綴られている。


隊員たちは……その立札を見つめて
ざわついていた。


浪士組も人数が増えて浪人の寄せ集めを
まとめるには厳しい規律が必要だって。


確か、そんな考えのもとで土方だったが、
ドラマの中では作ってた。


中身は確かこんな内容。


一、
士道に背くまじき事

一、
局を脱するを許さず

一、
勝手に金策致すべからず

一、
勝手に訴訟取扱うべからず

一、
私の闘争を許さず




そして、その法度に触れて
闇に葬られるのは鴨ちゃん一派。



ヤバイっ。


もう……、歴史は
ここまで来てるんじゃン。



前髪をかきあげた指で頭を掻き毟ると
屋敷の中へと戻っていく。



前川邸での私は……自由そのもの。


舞は今も記憶が戻らないけど
私の隣で、少し笑顔を見せてくれるようになった。


そして舞が帰って来てから
変わったことが一つ。


八木邸から一歩も出ることが許されなかった
花桜が、今は顔を出してくれるようになった。


必ず……八木邸側からは、
監視役の誰かがついてくるけど。


そして……今日も、
そろそろ花桜が訪ねてくる時間。



かまどで、お湯を沸かすと
お茶を入れる。



私、舞、花桜。
そして鴨ちゃんと、お梅さん。


あと一人、花桜の監視についてきた誰かのお茶。



「お邪魔しまーす」


お茶が入れ終わったと同時に、
花桜の元気な声が前川邸に響きわたる。


「いらっしゃい」


って、私もここが自分の家みたいに出迎えて、
花桜の後ろにたたずむその人を見て、
体が反射的に後ずさりする。


冷酷な瞳に美しい横顔。
流れるような黒髪。


『殺すよ』



この世界に来たばかりの頃
囁かれた声が記憶の底から一瞬にして湧き上がる。



思わず逃げ出しそうになるその足を
必死に踏ん張りながらぎこちない、笑顔を見せる。



この人が……あんなにも
歴史のドラマの中で大好きだった、
沖田総司だなんて……信じたくなかった。


夢と理想は……現実とは遠すぎるんだ。


必死に自分の中に言い聞かせる。




「おぉ、沖田。
 今日も来たか?」


震える私に気が付いたのか
鴨ちゃんが自室から重い腰をあげて顔を見せた。



「お邪魔してます」

鴨ちゃんに礼儀正しくお辞儀をする沖田。


新選組の中で大好きだった沖田総司。


この人は……こんなにも優しい、
鴨ちゃんをお梅さんを殺すんだよ。



その歴史を知ってるのは私だけ。




私が一人で……目の前の沖田総司を葬れば
鴨ちゃんは助けられるのかな?



鴨ちゃんがくれた……簪?



ううん、スクールバッグに入ってる
筆箱に忍ばせてあったはずのカッターナイフを使ったら?


脳裏では良からぬことばかり考えてしまう。



「瑠花さん、大丈夫?
 顔色、悪いけど……」



他人行儀に舞が私を心配する。


その正面には、花桜が私を覗き込む。



「ううん。
 大丈夫」


二人には、そうやって笑いかけながら
私は凍りついた表情のままの沖田総司を
キツク睨み据えていた。



「って、瑠花っ」



ふいに、鴨ちゃんの大きな手が頭に触れる。


「何?」

「そんな顔、
 似合わねぇぞ。

 お前らも、中に入れ。
 茶が冷める。

 梅……酒、持って来い」



何時までもマイペースな、
鴨ちゃんにまで私のイライラは募っていくばかり。




「馬鹿っ!!
 
 鴨ちゃん、アンタそんなんだから
 殺されちゃうんだよ。

 そこに居るアンタ。

 アンタだって労咳で死ぬの。

 鴨ちゃん殺すのアンタなんだもん。
 労咳で死んだって当然なんだから」



気が付いたら絶対に言っちゃいけないって思ってた
秘密を勢いに任せて吐き出していた。



涙を流しながら……。



涙を流しながら、
崩れ落ちた……私を花桜が
慌てて支えて包み込んでくれる。



そんな花桜の手を
払って前川邸を飛び出していく。


いつもは鴨ちゃんと一緒に歩く京の町。
だけど今は一人。


下だけ向いて、
ひたすら走り続ける町の中。




やがて雨が降り始める。




降り出した雨は、
私の体を容赦なく打ち付けていく。


もう……嫌だよ……。


鴨ちゃんが……殺されるのを知りながら
この世界に……居るなんて、私には絶えられないよ。


ねぇ……。

雨と雷が私をこの世界に連れてきた。



ならもう一度……
もう一度……扉を開いてよ。



私をこの世界からして帰して。




崩れ落ちた体をかろうじて支えて、
その指先で、ドロドロになった土を握りしめる。



雨なのか、涙なのか……涎なのか
全てが混ざってぐちゃくぢゃになったものが
地面へと吸い込まれていく。




「おいっ。

 兄貴、こいつ……上玉ですぜ」






不意に降ってきた声。



硬くなる体。



突然、抱え上げられた
体は視界を奪われ縄で手首を後ろ手に結ばれる。



なんで……っ。







なんで、私ばっかりこんな目に合うのよ。








私は……こんなところで、
こうやってとらわれるはずもない人間なんだよ。



この世界は私の世界じゃないんだから。


どれぼどに叫ぼうとも……
布を咥えさせられて声も発することが出来ない。




恐怖だけが襲い掛かり……
後悔が膨れ上がる。




私が、感情に任せてあんなことを
言わなきゃ……良かった。






ずっと秘めたままにして
前川邸から、勝手に出なければよかった。



鴨ちゃんが今日まで、
どれだけ守ってくれてたか……思い知った。





……馬鹿なことしちゃった……。





どれだけ足掻こうとしても、
全てを封じられた私は、
もう何も出来ず、ただこの後に来るものを
覚悟して待つしかなかった。






涙すら……出ないじゃん。






花桜ごめんね。
舞のこと頼んだよ。


私……もうあの世界に帰れない……。



心の中で静かに覚悟した時、
風の音が何かを断ち切るのを感じた。


生暖かい何かが視界を遮られた、
頬に触れる。






「瑠花っ!!」





聞こえた声は……花桜。






「ひでぇこと、しやがるな。
 沖田、瑠花を辱めたヤツを生かすな」」






えっ?


鴨ちゃん?







何?



「言われなくてもやりますよ」



そんな声が聞こえた後、
何処かへ駆けていく音だけが
聴覚を刺激した。



「瑠花大丈夫か?」



鴨ちゃんの声を聞いてたら
凄く心が落ち着いていく。



何時の間にか……こんなにも、
鴨ちゃんの声に安心してる私がいる。



やがて手が自由になり、
視界がクリアになっていく。



生ぬるいものがか、
触れた頬に指先をあてると……
赤い血が指先を染めた。


……血……。




そのまま視線を向けた先には、
切り殺された数人の体が転がっていた。







「…………」





私が……捕まったから、
私に関わったからあの人たちは殺されたの?



私がこの世界に来て勝手に動いて、
歴史を変えてしまったから?





目の前の惨状に、
震えはじめた体は
止まることを知らない。






「後、始末しとけ。
 瑠花帰るぞ」




動かすことが出来ない体は
鴨ちゃんが、ひょいと抱きかかえる。







こんなはずじゃなかった。




誰かを犠牲にしたいんじゃないの。





鴨ちゃんを助けたかっただけ。
助けたかっただけなんだよ。



なのに……それすら神様は許してくれない。






ねぇ……だったら、
どうして……私たちをこの場所へ
連れて来たの?






平凡なあの日々に帰らせて。


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