約束の大空

佳川鈴奈

9.京の出会い  - 舞 -



御殿場から山を越えて辿りついた京。



京で寝泊まりする宿に入ってすぐ、
義助さんと、晋作さんは長州藩の藩邸へと
出掛けて行った。




大事な話があるから、
私にはここに居なさいっと言葉を残して。



最初は……言われるままに、
おとなしく、宿に居たんだけど
一人でいる時間は退屈で。




ふと……布袋に納めてある
御殿場の宿で働かせて貰った時の
収入を見つめる。


このお金で何が変えるかなんて
わからないけど……二人に何か、
プレゼントを送れるのは今しかなくて。



私は着替えを済ませると
一人で、初めての京へと飛び出した。



京では……不逞浪士が
大和屋を焼き払う物騒な事件が起きたばかりらしく
空気がピリピリと張りつめていた。


義助さんと晋作さんに
何をあげたら喜んでもらえるかな?




叶うなら、
ずっと長く使ってもらえる
物が嬉しいんだけどなー。




行き交う人々を見送りながら
一軒一軒、気になるお店を覗いていく。





私が着物を仕立てることが
出来たら……いいのに……。




そんな夢みたいなことを
思いながら、手に取っていく反物。






だけど私の手持ちで足りるはずもなくて、
それぞれに、一つずつ風呂敷を手に取って購入する。




風呂敷だったら使い道はあるよね。



二人がびっくりして喜んでくれる姿を想像しながら、
そのお店を後にして急ぎ、
宿へと帰っていたとき急ぎ走る私の体は、
衝撃と共に跳ね飛ばされた。





「おいっ。

 貴様、俺たちにぶつかっておいて
 いうことはねぇのか」




三人ほどいる男たちはゆっくりと詰め寄ってきて
私の着物の胸ぐらを掴んで立ち上がらせるみ。




怖くて力の入らない体。





相手から目を逸らすことしか
出来なくて、心の中……
義助さんと晋作さんの名前を唱える。






……助けて……。




殺される……。





そんな怖さが、
押し寄せて目を閉じたとき、
背後で音が聞こえて私の体は空を泳ぐ。








えっ?







「よっと。

 ちょっとしがみついてろよ」




そんな声が聞こえて、
必死にしがみついた時間の後、
私は地面へと自分の足で立たされた。





「舞っ!!」





女の子が私の名前を叫んでしがみつく。





誰?
この人?







どうして、
この人は私を舞と呼ぶの?






舞という名は晋兄さんが
付けてくれた名前のはずなのに。







「おいっ、瑠花。

 本当に、コイツがお前の友達なのかよ?」





助けてくれた男の人が
女の子に問いかける。




「芹沢さん信じてよ。

 この子も私と同じ月の住人。
 花桜と私の大親友なんだって」





えっ?



月の住人?






何?





女の子が言う、
その言葉に私は頭を抱える。




相変わらず靄がかかった頭の中は
何かを思い出そうとしたら
ズキズキと痛みはじめる。





両手で頭を抱え込んで呻く私に、
私を舞と呼んだ女の子が背中をさすって、
介抱しようとしてくれる。








「舞?

 もしかして……
 何も覚えてないの?

 私や花桜のこと?」





そう言いながら、
私の体を揺さぶり始める。




「おっ、おいっ。
 瑠花、やめてやれって」

「だって……。

 芹沢さん……舞は私のこと……」




今度は女の子の方が泣き崩れてしまう。





何故?





どうして……この人は泣くの?







「悪いが、
 ちょっと付き合って貰おうか」




助けてくれた男の人が
私の腕を強引に掴み取る。




力強く掴まれた腕は、
逃げようとしても振りほどくことが出来ない。





「俺は壬生浪士組局長。
 
 芹沢鴨。

 こいつは、瑠花。

 お前さんのこと知ってるらしいぞ。

 ずっと探してたんだ。

 必死にな」





芹沢さんと名乗った
その人は、瑠花と紹介した
女の子を宥めながらそう言った。




「ほらっ、瑠花。
 再会したんだろ。

 月から舞い降りた衝撃で、
 記憶をなくしちまったのかもしれねぇな」



そう言って……瑠花さんに
言い聞かせるように告げて立ち上がらせた。




「舞、一緒に行こう。

 花桜も絶対、喜ぶから。
 私たち……絶対に三人揃って帰るんだから」





帰るんだからって……。





何処へ?










私は……何者?









義助さんと晋作さんのことは
凄く気になったけど、この人は私の過去を知ってる。




そう思ったら……少しでも失ったらしい
自分の記憶を取り戻したくて一緒に居たくなった。






「私、連れがいるんです。
 宿に置手紙だけ残してきます」




そう言って、その場を離れると
紙に私を知る人が見つかった旨を伝えて
暫く、その人の場所へ行ってきます。



そう綴って宿の主人へと文を託した。





ごめんなさい。
義助さん、晋作さん。



凄く凄く今までお世話になったのに
勝手なことをして。




だれど……少しでも手がかりが
見つけられるなら、それにかけたいの。




記憶がないのは、
あまりにも怖いから。




心の中、何度も謝罪しながら、
私の過去を知っているらしい
瑠花と呼ばれた子が待つ場所へと向かう。




二人と合流して、
ゆっくりとその場所へと向かった。






少しでもいい。






ほんの少しでもいいの。



私は……
私自身のことが
知りたい……。




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