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約束の大空

佳川鈴奈

8.梅の香る場所 - 瑠花 -


『コイツは俺の小姓にする』

後世に新選組の問題児として
その名を連ねる名前しか知らない、
芹沢鴨に連れられて、
私は壬生浪士組の誠忠側って言うのかな。

芹沢信者の多い前川邸へと連れてこられた。

前川邸で、小姓として働かせるのかなーっと
覚悟の上で来たものの拍子抜け。


ねぇー、鴨ちゃん
アンタ、
何がしたいわけ?


態度は横柄で乱暴なんだけど、
どこか憎めない。


TVで綴られてる芹沢さんって、
もっと短気で、喧嘩っぱやくて
乱暴者っほかったんだけど。


私の目の前に居る、
芹沢さんは……芹沢さんって言うよりは
私の中では、もう鴨ちゃん。



流石に本人の前で
まだ言ったことはないけどね。


小姓として連れてこられたはずなのに
私がこの場所で最初に与えられたのは自分の部屋。


部屋って言えるほど大層な空間でもないけれど、
限りある部屋の中で、
私だけの居場所をきっちりと作ってくれる。


そして、そんな私の京での生活を
手助けてしてくれてる人が、お梅さん。


歴史の中では芹沢さんの愛人的存在。


だけど……ここで私が見る二人は
なんか仲睦まじい夫婦にも近い関係で。



「おぉ、瑠花。
 起きてたか?」


いきなり声が聞こえて障子が開く。


声の主で……鴨ちゃんだってことは
わかってる。



「はいっ」

「出掛けるぞ。
 梅に支度して貰え。
 早くしろよ」」




そう言って部屋をすぐに
出て行ってしまう。




「おはよう、瑠花ちゃん。

 芹沢さんも、
 せっかちなお人やねー」



笑いながら屏風を畳んで、
両手に着物を持って姿を見せるお梅さん。



「お梅さん、
 おはようございます」



花桜と違って和の心得なんてない私は、
この時代に来るまで着物とは縁がなかった。


当初、着物を着ることすら出来なかった
私を見て大笑いした二人だったけど、
今では、不恰好ながらも一人の時は
着つけられるようになった。

だけど……今度は髪結いが出来ない。



何せ、この時代に来て最初に袖を通した和服は、
着物は死に装束。

髪型は夜会巻。

帯はどうしていいかわからなくて、
ウエストにグルグル巻きにして、
リボン結びに前でしただけ。

見よう見まねで着物を着て
二人の前に出れたと思ったら大笑い。


そんな服装で接待する遊女も知らんなんて
言われる始末。


そんなこんなで、お梅さんに
一応、着付けと帯結びの入門分だけ教えて貰って
今に至る。



とりあえず今日も今から出掛けるみたい。

だけど着物って、
歩きにくいんだよね。


だからこの家の中で過ごす間は、
わざと丈を短めにして、
気合の生足をさらして着つけてみる。


そんな破天荒な私の着方が鴨ちゃんは
よっぽと面白かったのか、
時折、簪やお菓子を貢いでくれる。



お酒の席で聞いてくるのは、
鴨ちゃんが月と呼ぶ、私が過ごした現代の話ばかり。


あのめちゃくちゃな着方が月の着付けって
わけでもないんだけど、
いいような悪いような、鴨ちゃんは勝手に勘違いしてくれてる。



「はいっ。
 おしまい」




いつの間にか着替えが終わって、
簪をさしてもらうとお梅さんが優しくそう言った。



「瑠花ちゃんの最初の着付け方は面白いものやったけど、
 この現世の着方も板についてきたわね」

「お梅さんが毎日、教えてくれるから」




こんな風に……ここに来て数か月の間に
私にとっては、お梅さんはお姉さんみたいな
存在になりつつある。



たけど……私は知ってる……。






こんなに私に優しくしてくれる二人も、
土方さんたちに殺される運命にあるってことを。





鴨が鍋になるなんて
バカみたい。



鍋になって良いダシ出して
美味しくなりましたって言っても……
そこに……生きてる貴方はいないじゃい?




鴨ちゃん。






ねぇ、私どうしたらいい?





「瑠花ちゃん
 芹沢はん、待ってるよ」



優しく声をかけてくれた
お梅さんに連れられて鴨ちゃんたちと
京の町を歩いていく。



決してマナーがいいとは言えない
鴨ちゃん。



金策に明け暮れて、
押し入っては暴れて。



鴨ちゃんたちが歩いて行った後には、
ずっと何かの騒動が付いて回る。



京の町の人は、私たちの姿を見ると、
こそこそこと壁に隠れて、ひそひそと陰口を叩く。



それでも鴨ちゃんはお構いなしに
今日も大暴れ。



こんな横暴な振る舞いが
続きだした後だったよね。



大和屋放火事件。



何時起きるんだろう。






なまじ、歴史が好きでいろいろと覚えてるだけに
こういう時は、どうやっていいのかわからなくなる。



私が本当に鴨ちゃんが思ってるみたいに
月から来ていて、今、ここで何をしても
現代の歴史が変わらない保証があるなら
私は何をしてでも鴨ちゃんを生き延びさせてあげたい。


ドラマの中の鴨ちゃんは悪者な感じが多かったけど
本当は……そんなんじゃなかったから。


そんな危惧を抱きながら
さらに過ごし続けた数日後。


覚悟していたその日は突然やってきた。





その日……お金を借りるために
向かった大和屋。




だけど店主は渋って鴨ちゃんに
お金は貸さない。





隣に居たはずの鴨ちゃんは、
途端に店内で大暴れ。



足が届く範囲のものは蹴り飛ばして……
そのお店に居る人たちに八つ当たりする。



その場で震えあがる
私を背中に守りながら。





鉄扇で舞うように戦う、
その流れるような戦い方に、
思わず見惚れそうになる。



暴れるだけ暴れ終わった鴨ちゃんが、
私や友のものを連れて大和屋を出たとき、
何処からか火矢が放たれて大和屋に炎が上がっていく。


次々と弧を描いて突き刺さって火を広げていく
それを見て、鴨ちゃんは面白そうに不敵な笑みを向ける。






えっ?




何するの?






「おいっ、お前ら。
 
 もっと火を持って来い」



お供の隊士たちに命じたかと思うと、
鴨ちゃんは、着物を翻して大和屋の前に居並ぶ。


騒ぎを聞きつけて、
駆け寄ってくる野次馬たちを前に大きく言い放った。



「壬生浪士組局長、芹沢鴨。

 大和屋庄兵衛、この者は不当な交易において、
 財をなし市場においての生糸高騰の原因を担いしもの。
 国外と手を結び、民の生活を脅かす大和屋を成敗するものなり」




大声で宣言して、その炎に包まれた
屋敷の前で腕を組んで仁王立ちし続けた。



騒ぎを受けて、駆けつけてきた
久しぶりに姿を見た土方さんたちを制して。




ちょっと……鴨ちゃん、
アンタ馬鹿でしょ。





大馬鹿ものじゃない。





大和屋が燃えて行くのを感じながら、
私は崩れ落ちて声を殺して泣いた……。





歴史を知ってても、
未来を知ってても、
私は……今を知らない……。





「瑠花、帰るぞ」





どれほどの時間が過ぎた後だろう。



今も大和屋の炎が燃え盛る中、
鴨ちゃんに声をかけられるままに
フラフラとその体を立ち上がらせる。


鴨ちゃんの腕の中に包まれるように、
守られるように、
その場所をゆっくりと後にした。





私……どうしたらいい?





この不器用な大馬鹿ものを。



ねぇ……神様。

神様がいるなら教えてよ。





歴史を変えてもいいですか?

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