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約束の大空

佳川鈴奈

7.京の生活 - 花桜 -


瑠花と再会して、
京で暮らし始めて数か月。


芹沢とか言うどっかの誰かさんが
小姓にしろなんて言ったもんだから
私の一日はもうめちゃくちゃ。


私はあんたたちの小間使いじゃないんだからね。



そう思いながらも私が今、
生きてられるのはここでご飯を食べさせて貰ってるから
ってのは紛れもない事実。



だけど何でこんなに仕事があんのよ。




朝、まだ日が昇る前に布団を抜け出して、
隊士たちのご飯を作るお手伝いをする。



その後、屯所の中の大掃除。
庭の手入れをして屯所中の雑巾がけ。



その後は盥【たらい】の中に隊士たちの汗臭い
着物たちをいれて、ざふざふと豪快に洗う。


井戸水を何度も何度もくみなおしながら。


それら全部を竿に干し終えたら一息つく間もなく、
それぞれに仕事や訓練をしてる隊士たちに、
飲み物を振る舞っていく。




ったく、どれだけ人使いが荒いのよ。
この場所は。




しかも私の自由はほとんどきかない。



今でさえ、まともになってきたけど
どいつもこいつも刀に手を添えて、
睨みを利かせたら全部解決すると思ってる。




どんだけ、バカの集まり集団なのよ。



最初の数日間の刀チラ見せの嵐を思い出す。


「失礼します。
 飲み物お持ちしました」

「あぁ。
 
 山波くん、
 そこにおいといてくれ」


指定されたところに飲み物を置くと、
次の場所へ順番に移動していく。



次は山南さん。




「山南さん。
 山波です。

 お邪魔しても
 宜しいですか?」



飲み物を近くに置いて頭をさげたまま、
声をかける。



「山波くん。
 どうぞ、お入りなさい」



許可が出てゆっくりと、
一歩ずつ踏み出して部屋の中へと入っていく。



沢山の書物に囲まれた狭い部屋は、
今にも雪崩が起きそうなほどで。




「あの、お飲み物は?」

「あぁ、こちらに頂きます」



手を伸ばした山南さんの手に確実に手渡すと、
ぐるりと、部屋中の本を眺める。



「あの……。

 この本に潰されるっとか思ったことないですか?」



こんなの地震がきたら一発だよ。


地震じゃなくても、下から本を引っこ抜いたら、
全部、倒れて崩壊するよ。



よくこの人……こんなところで、
生活できるよね。



「珍しいですか?

 この書物の下敷きになるなどしませんよ」



山南さんが紡いだ、
その言葉を聞きながらさらに部屋の中を
見つめていく。



TVでよく見る新選組の羽織。




「あれっ、あの刀」


思わず指をさして、
その刀を見つける。


「赤心沖光【せきしんおきみつ】が
 どうかいたしましたか?」



聞きなれない名前に戸惑う。




「えっと…… それと同じ様な
 刀が我が家の家宝にあって」



そこまで言うと慌てて、
口を紡ぐ。



「山波くん、そうでしたか……。
 ここでの暮らしには慣れましたか?」

「あっ、はい。

 まだ土方さんの怒鳴り声とかは
 怖いですけど」

「彼は一本気なところがありますから。

 さっ、次は土方くんのところですね。
 早く持っていかないと、また怒られてしまいますよ」 



山南さんと一緒に居る時間は
何故か心が落ち着いて
ついつい長居してしまいたくなる。



「それでは、
 失礼いたします」



丁寧に一礼すると、
次は土方さんの部屋へと移動した。



「失礼いたします。
 遅くなりました。お飲み物をお持ちしました」



同じように一礼して、
部屋の主人に許しを請う。



「おいっ、山波。
 おせーよ。

 山南さんのとこで何、てめぇは
 油うってんだよ」



ドアが開いたと思えば
耳元で怒鳴りつける。



思わずお盆を持つ手を放して、
両耳を手で塞ぐ。




あっ、ヤバイっ。




飲み物こぼしちゃう。






ひっくり返しそうになった
飲み物を音もなく天井から舞い降りた
山崎さんがナイスキャッチで受け止めてくれた。




「ほいっ。
 
 花桜ちゃん、いくら土方さんが
 嫌いやいうても落としたらあかんで」




はいっ?




誰が、
嫌いって言った?






ギロっと睨む、
その視線が痛い。






「おいっ、山波。
 俺は忙しいんだ。

 飲み物おいたら目障りだ。

 とっとと出ていけ。

 山崎、報告してもらおうか」




追い出される形で、体を押されると、
拒絶されたかのように障子はパシ-ンっと
締め切られてしまった。





あぁ、
またやっちゃった。





その後は、
道場へと飲み物を運んでいく。





「お疲れ様です。

 お飲み物、
 お持ちしました」




訓練に疲れた隊士たちが
のどを潤すために近づいてくる。



順番に配り終えると、
隊士たちに組長と慕われる人たちの方へと
順番に飲み物を運んだ。




「お疲れ様です。
 藤堂さん、永倉さん、原田さん」



三人は、差し出した飲み物を
受け取ると一気に喉元を通過させていく。





「これが酒だったら
 もっといいんだけどなー」

「左之さん
 それしかないの?」

「うるせぇー」



そんな漫才コンビを
横目で見ながら次は、
斎藤さんのもとへ差し出す。 



「斎藤さん。
 どうぞ、飲み物です」

「すまない」



一言、そう言うと彼もまた受け取って
喉を潤していく。



「あっ、あの。
 沖田さん、お飲み物を」

「僕はいらないよ。
 少し出掛けてくるよ」




沖田さんは、相変わらず
掴みどころがなくて。





それでも……ここ道場に来ると、
自然と気が引き締まる。






……お祖父ちゃん、
  今頃どうしてるかな?……






転がっていた木刀を
拾い上げるとゆっくりと両手で握りしめて、
構えの形から一気に振り下ろす。




木刀が勢いよく空を斬る風圧が
広がっていく。






うわぁ、
その感覚久しぶり。






竹刀で稽古をしていた
時間が懐かしくて何も考えず、
無心に素振りを続ける。






素振りをしている時間は
精神を統一できる。




集中力を一気に増幅させて
頭の中が一気に冴えわたっていく。  





いざとなったら、
私が舞と瑠花を守るんだから。






三人で帰るって
決めたんだから。





一日だって訓練を
さぼるわけにはいかないんだから。




無心に降り続ける私の前に、
いきなり、素振りを遮る音がした。



木刀と木刀がぶつかり合い、
その衝撃が腕へと伝わってくる。



木刀から伝わってくる
振動に、少し腕が痺れる。


その痺れを感じながら
木刀を握る力をさらに強める。




「たぁーっ」





声をあげて、その木刀の方へと
向かっていく。





何度か打ち合った後、
私の首筋で、相手の木刀の切っ先が
ピタリと止まる。






「参りました」




体制を立て直して、
一礼すると、ゆっくりとその人顔を見あげた。





「なぁ、お前。
 剣するの?
 
 お前のって、何流?」




犬の耳としっぽがついてそうな
様子で、私の近くに駆け寄ってくる藤堂さん。



「おぉ、すげぇーな。
 
 生意気なだけだとおもってけど、
 違ったんだな」



隊士たちが、好き勝手に
感想を述べながら私を取り囲んでくる。



「何流って言われても
 わかりません。
 
 お祖父ちゃんから教えて貰ったものだから。

 えっと、斎藤さん。
 手合せ、有難うございました」



お礼を述べると飲み物の一切を引いて、
次の仕事へと手を付けていく。





楽しかったー。




やっぱり木刀を振ってる時が
一番楽しいかも。




ちゃんと練習しなきゃ。
私自身を守るために。



瑠花と舞を助けるために。



舞、ちゃんと
見つけ出すから。



今はまだ屯所の中から出られない。



隣にいるはずの瑠花にすら、
あの日から会えてない。



ここで朝から晩まで、
一日中、働きっぱなしの毎日だけど
ちゃんと信頼を勝ち取って屯所の出入りを
自由にできるようになるから。



そしたら……
ちゃんと迎えに行くから。



見つけ出すから。




だから今は……待ってて……。


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