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殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です

狭山ひびき

人生は単純ではないと言うけれど 12

 それから一週間ほどたったある日のことだった。

 メイナードはあれから毎日のように我が家の草むしりにやってくる。

 メイナードってば、よっぽど草むしりが気に入ったのね。飽きもせずにやって来てはわたしと半径三歩の距離を保って黙々と草を抜く彼に感心しちゃう。

 メイナードのおかげで我が家の広大な庭の草はほとんどなくなった。

 庭師のおじちゃんは草むしりが終わったら花の植え替えをするって言うから、もちろんわたしもお手伝いするつもりでいる。

 メイナードも手伝うと言って、嬉しそうにニコニコしている。

 逆にファーマンはこの一週間、難しい顔をしていることが多くなった。

 一緒に夕食を食べているときも、あんまり笑わないし、ここ数日は今日何をしていたのかって訊ねてもくれなくなった。

 メイナードと一緒にいるのが面白くないんだろうなって思うんだけど、メイナード、勝手に来ちゃうし、草むしりしていくだけだからまあいいかーなんて思っちゃってたわけで――、うう、これはわたしが全面的に悪いです。

「明日のご予定はいかがですか?」

 メイナードと一緒に草むしりしてごめんなさいと謝ろうかと悩んでいた時だった。

 ナイフとフォークをおいたファーマンに訊かれて、わたしは少し慌ててしまった。

「あ、明日? 明日は特には――」

 いつも通りなら、庭の草むしりをしながらメイナードとおしゃべりするだけ。特にすることはない。

「明日、教会でバザーがあるんです。よろしかったら行きませんか?」

 バザー? バザーに行かないかですって?

「そ、それはファーマンと一緒に?」

「お嫌ですか?」

「お嫌じゃないです!」

 打てば響くように答えたわたしは、ぱあっと顔を輝かせた。

 もしかしなくても、これはデートのお誘いではございませんか?

 恋人関係になって約二週間!

 セルマー! わたし、やったわー!

 くるっとセルマを振り返れば、なまぬるーい視線を向けられた。え? 興奮しすぎて鼻血を出さないように注意しろって? わかってますとも!

「それでは明日、一緒に向かいましょう」

 わたしがご機嫌で「うんうん」と頷くと、ファーマンはちょっと笑ってくれた。ここのところ難しい顔ばかりだったから、「くすっ」くらいの笑い方でもとっても嬉しいです!

 ああ、明日の初デート! 何を着て行こうかしら?





 せっかくのデートだからファーマンを悩殺するぞー! おー! と意気込んだわたしだったけど、その作戦はあえなく撃沈した。

 セルマに「教会のバザーに行くのにどうして襟ぐりの大きく開いたドレスを着ていくんですか!」と一張羅を没収されて、襟の詰まった若草色のドレスを着させられた。

 このドレスも可愛いけど、全然色っぽくない……。

 男性が思わず抱きしめたくなっちゃうようなドレスがよかったのに、残念です。

 セルマの手によって蜂蜜色の髪の毛がハーフアップにされて、瞳の色と同じアメジストの髪飾りでとめられる。

 バザーだから歩き回れるように、靴はローヒール。背が低めだから、ヒールが低いと余計に小さく見えるけど、仕方がない。

 メイナードには今日はバザーに行くから草むしりはしないと連絡してもらった。

 支度を終えて玄関に降りると、ファーマンが待っていた。

 今日は騎士の格好をしていなくて、シンプルな黒いシャツにダークグレーのトラウザースをはいている。はー、カッコいいです。シャツの上からわかる盛り上がった胸筋がたまりません。

「いいですかお嬢様、調子に乗ってはしゃぎすぎてはいけませんからね。聞いています?」

「うんうん」

 今日はお留守番のセルマ、心配そうです。

 大丈夫よ、だってわたし、やればできる子です! 猫かぶりなんてお手の物! だてに十八年間第一王子の婚約者やっていません。まかせなさい!

「いってきまーす!」

 ファーマンにエスコートされて馬車に乗り込んだわたしは、馬車の窓からセルマにぶんぶん手を振って、楽しいデートにお出かけです。

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