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殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です

狭山ひびき

人生は単純ではないと言うけれど 11

 そのあとメイナードは、まるで耳をペタンとさせた子犬のような落ち込みようで帰って行った。

 夕方になって戻ってきたファーマンは、夕食を食べながら、わたしに今日一日のことを聞いてくる。

 彼は教会から帰ってきたら、必ずわたしに一日のことを訊ねるの。

 ちなみにファーマンはわたしの恋人だから一緒にメインダイニングで食事を取っている。セルマは渋い顔をするけど、わたしが無理やり押し通した。

 今日は本を読んでいたよーとか、お菓子を作っていたよーとか、まあたいしたことはしていないんだけど、そんな話を微笑んで聞いてくれるファーマンを見ていると、「わたし、愛されてる!」って思えて嬉しくなっちゃう。

 でも、今日のファーマンはちょっと違った。

 メイナードが来たことを告げると、途端に難しい顔をしちゃったの。

 もしかしなくてもヤキモチかしら? そうだったら嬉しいな! でも、メイナードは草むしりして帰っただけだから、ヤキモチ要素なんてどこにもなさそうだけど。

 ちなみにメイナードから薔薇の花束をもらったことは言っていない。セルマが黙っておいた方がいいって言うから。確かに、恋人が別の男から花束をもらったって聞いたら心中穏やかじゃないはずよね。

 ファーマンはそのあとも難しい顔をしたまま食事を終えて、早々に部屋に下がってしまった。

 あーあー、結局今日もあまーい雰囲気とはほど遠かった。

 しょんぼりしていると、セルマが厳しい表情を浮かべて、ファーマンが出ていった扉に視線を投げる。

「お嬢様とファーマン様は、本当に恋人関係でいらっしゃるのですよね?」

「え? それはそうよ。キスだってしたし、殿下の目の前で恋人宣言だってされたし、恋人じゃなかったら何なのよ」

「……だといいんですけどね」

 なんか含みがあるなぁ、セルマ。

 そんなに恋人同士に見えないのかなぁ。

 ファーマンいつも教会に行っちゃうから、デートだってしてないし。

 ぎゅって抱きしめてもらえるだけで満足なんだけど、それもない。

 でも、ファーマンが恋人同士だって言ったんだから、信じていいはずでしょ?

「十個も年が違うからかなぁ。わたしってそんなに子供っぽい? 魅力ないかしら?」

 だから恋人らしい触れ合いがないのかと落ち込みかけるわたしに、セルマはきっぱりと告げた。

「子供っぽいところもおありですが、お嬢様は充分にお可愛らしいですから大丈夫です」

「本当? キスしたくなるくらい?」

「それは知りません。同性目線でお答えしても仕方がないでしょう?」

「それもそうね」

 でも本当に、どうやったらファーマンともっと仲良くなれるのかしら。

(恋って難しいのね……)

 どうしていいのかわからないわたしは、薔薇色だと思っていた人生が、ちょっと遠くなったような気がしていた。

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