殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です
人生は単純ではないと言うけれど 10
半径三歩以内に近寄るなってわたしに言われてショックを受けていたメイナードだったが、逆を言えば三歩以内に近寄らなければそばにいても大丈夫だと曲解したらしい。
なんというポジティブシンキング……。
そしてなぜかわたしは、メイナードと半径三歩の距離を保ちながら、並んで庭の草むしりなんてしている。
だって、メイナード帰らないんだもん!
わたしが草むしりするっていったら、一緒にするって言うんだもん!
元婚約者同士が並んで草むしりとか――、しかも相手は王子とか、ほんっと意味わかんない。
てゆーか、草むしりしたがる王子ってどうよ?
庭師のおじちゃんは恐縮しきって泡を吹きそうだし、使用人たちも心配そうにやってきて、やれ殿下が日焼けしたら大変だとかで日傘をさすわ、近くにテーブルをセッティングしてすぐに冷たい飲み物が飲めるようにしたりするわ、護衛に来ている兵士さんたちなんて、「殿下ばかりに働かせるなー!」と総出で草むしりをはじめるわで、大騒動。精神衛生的によろしくないから、やめた方がいいと思うんだけど、黙々と草を引っこ抜いていく作業が面白いのか、メイナードはすっかりはまってしまったみたい。
「草むしりも意外と面白いものだな。城の庭には草一本生えていないが……」
それはそうだ。王家お抱えの庭師さんたちが必死に草むしりしてるに決まっている。うちは庭師のおじちゃん一人で広大な庭を管理しているから、草一本生えていない状態なんてとても無理。おじちゃん、過労でぶっ倒れるよ。
だから、庭の草むしりは、使用人たちが手伝ったりしているの。わたしもお兄様たちも、お母様だって、カントリーハウスに来たら草むしりをする。え? 人を雇えばいいじゃないかって? そうなんだけど、なんかみんなこの地味な作業を気に入っているから、むしろ率先してやりたがると言うか……。
お父様だけは芋虫が苦手で見たら大騒ぎするので参加しないんだけど、お母様なんかは芋虫を見つけたら枝の先でつついて「あらかわいい」なんていうツワモノだから、虫なんてどんと来いの人。
そんなこんなで、草むしりは我がカントリーハウスの一大イベント(?)なんだけど、まさかそこにメイナードが加わるとは思わなかった。
「なかなか面白かった。また来ていいか?」
さすがに汗だくになってきたので草むしりを中断してメイナードと一緒に冷たい飲み物を飲んでいると、彼はキラキラ笑顔でそんなことを言う。
元婚約者の家に来て草むしりをする王子……。
別に来てもいいけどさ。こんなところに野次馬なんて来ないけどさ。変な噂が立つことだってないだろうけど。第一王子がそれでいいのか。
「殿下、王都に帰らなくていいんですか?」
「うん」
うん、ってあなた。
即答ですか!
「リーナはどうするんですか」
「……たぶん、バーランドがうまくやる」
「は?」
「バーランドが無理なら、父上が……」
「はい?」
「そもそも父上のせいなんだからそれくらいしてもいいはずだ」
「よくわからないんですけど……」
「とにかく、戻らなくて大丈夫だ」
ごくごくとアイスティーを飲みながらメイナードは自信満々に言うんだけど、もしもさ、メイナードがわたしのところにいるってリーナに知られたら、それこそ大騒動になるんじゃないの? いやだよー、わたし、巻き添え食ってリーナにチクチク言われるのなんて。
「殿下、わたしがこんなことを言うのもなんですけどね」
「うん?」
「わたしは殿下と十八年間も婚約関係にあって、この前のことはそれなりに頭に来ましたけども、一応多少なりとも大切に思っているわけですよ」
「アイリーン!」
メイナードがぱあっと顔を輝かせて立ち上がったが「三歩!」と言うとこちらに来るのを諦めてすごすごと席に戻る。
こういうところ、変に素直なんだよね。
「リーナが聖女に選ばれなかったときの殿下の顔を見たときは『ざまあみろー』とか思っちゃいましたけど、今はもう過去のことは水に流そうと思うわけですよ」
「……そんなこと思ってたのか……」
「思われるようなことをしたのは殿下です」
「……ハイ」
「だから、ですね。この前のことはすぎたことだし、わたしはファーマンがいて幸せだし、心が潤っているから殿下の幸せだって祈ってあげられるわけですよ」
「う、うん……?」
「いいじゃないですか、聖女にこだわらなくたって。なんか聖女って言ってもなぁーんにも役に立ちそうもないし。聖女になったからってわたしにすごい力なんてないんだし。そんなものは気にしないで、殿下は殿下で幸せになったらいいんですよ。リーナとこのまま結婚するのかほかの人をお選びになるのか知りませんけど、どうか殿下もお幸せに――」
あれ、言っているうちにメイナードの目がうるうるしはじめちゃったんだけどどうして?
「で、殿下? どうしました?」
メイナードはそのまま、テーブルに突っ伏して動かなくなっちゃった。
おろおろするわたしのそばで、セルマがこめかみをおさえて、
「さすがに今のは、殿下に同情します」
って言うんだけど、何かわたし、失礼なこと言いました?
なんというポジティブシンキング……。
そしてなぜかわたしは、メイナードと半径三歩の距離を保ちながら、並んで庭の草むしりなんてしている。
だって、メイナード帰らないんだもん!
わたしが草むしりするっていったら、一緒にするって言うんだもん!
元婚約者同士が並んで草むしりとか――、しかも相手は王子とか、ほんっと意味わかんない。
てゆーか、草むしりしたがる王子ってどうよ?
庭師のおじちゃんは恐縮しきって泡を吹きそうだし、使用人たちも心配そうにやってきて、やれ殿下が日焼けしたら大変だとかで日傘をさすわ、近くにテーブルをセッティングしてすぐに冷たい飲み物が飲めるようにしたりするわ、護衛に来ている兵士さんたちなんて、「殿下ばかりに働かせるなー!」と総出で草むしりをはじめるわで、大騒動。精神衛生的によろしくないから、やめた方がいいと思うんだけど、黙々と草を引っこ抜いていく作業が面白いのか、メイナードはすっかりはまってしまったみたい。
「草むしりも意外と面白いものだな。城の庭には草一本生えていないが……」
それはそうだ。王家お抱えの庭師さんたちが必死に草むしりしてるに決まっている。うちは庭師のおじちゃん一人で広大な庭を管理しているから、草一本生えていない状態なんてとても無理。おじちゃん、過労でぶっ倒れるよ。
だから、庭の草むしりは、使用人たちが手伝ったりしているの。わたしもお兄様たちも、お母様だって、カントリーハウスに来たら草むしりをする。え? 人を雇えばいいじゃないかって? そうなんだけど、なんかみんなこの地味な作業を気に入っているから、むしろ率先してやりたがると言うか……。
お父様だけは芋虫が苦手で見たら大騒ぎするので参加しないんだけど、お母様なんかは芋虫を見つけたら枝の先でつついて「あらかわいい」なんていうツワモノだから、虫なんてどんと来いの人。
そんなこんなで、草むしりは我がカントリーハウスの一大イベント(?)なんだけど、まさかそこにメイナードが加わるとは思わなかった。
「なかなか面白かった。また来ていいか?」
さすがに汗だくになってきたので草むしりを中断してメイナードと一緒に冷たい飲み物を飲んでいると、彼はキラキラ笑顔でそんなことを言う。
元婚約者の家に来て草むしりをする王子……。
別に来てもいいけどさ。こんなところに野次馬なんて来ないけどさ。変な噂が立つことだってないだろうけど。第一王子がそれでいいのか。
「殿下、王都に帰らなくていいんですか?」
「うん」
うん、ってあなた。
即答ですか!
「リーナはどうするんですか」
「……たぶん、バーランドがうまくやる」
「は?」
「バーランドが無理なら、父上が……」
「はい?」
「そもそも父上のせいなんだからそれくらいしてもいいはずだ」
「よくわからないんですけど……」
「とにかく、戻らなくて大丈夫だ」
ごくごくとアイスティーを飲みながらメイナードは自信満々に言うんだけど、もしもさ、メイナードがわたしのところにいるってリーナに知られたら、それこそ大騒動になるんじゃないの? いやだよー、わたし、巻き添え食ってリーナにチクチク言われるのなんて。
「殿下、わたしがこんなことを言うのもなんですけどね」
「うん?」
「わたしは殿下と十八年間も婚約関係にあって、この前のことはそれなりに頭に来ましたけども、一応多少なりとも大切に思っているわけですよ」
「アイリーン!」
メイナードがぱあっと顔を輝かせて立ち上がったが「三歩!」と言うとこちらに来るのを諦めてすごすごと席に戻る。
こういうところ、変に素直なんだよね。
「リーナが聖女に選ばれなかったときの殿下の顔を見たときは『ざまあみろー』とか思っちゃいましたけど、今はもう過去のことは水に流そうと思うわけですよ」
「……そんなこと思ってたのか……」
「思われるようなことをしたのは殿下です」
「……ハイ」
「だから、ですね。この前のことはすぎたことだし、わたしはファーマンがいて幸せだし、心が潤っているから殿下の幸せだって祈ってあげられるわけですよ」
「う、うん……?」
「いいじゃないですか、聖女にこだわらなくたって。なんか聖女って言ってもなぁーんにも役に立ちそうもないし。聖女になったからってわたしにすごい力なんてないんだし。そんなものは気にしないで、殿下は殿下で幸せになったらいいんですよ。リーナとこのまま結婚するのかほかの人をお選びになるのか知りませんけど、どうか殿下もお幸せに――」
あれ、言っているうちにメイナードの目がうるうるしはじめちゃったんだけどどうして?
「で、殿下? どうしました?」
メイナードはそのまま、テーブルに突っ伏して動かなくなっちゃった。
おろおろするわたしのそばで、セルマがこめかみをおさえて、
「さすがに今のは、殿下に同情します」
って言うんだけど、何かわたし、失礼なこと言いました?
「殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
-
16
-
-
婚約破棄されたので帰国して遊びますね
-
25
-
-
ループしますか、不老長寿になりますか?
-
12
-
-
悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
-
32
-
-
我が道を行く悪役令嬢は精霊に愛される
-
39
-
-
「悪役令嬢」は「その他大勢」になりたい
-
25
-
-
深窓の悪役令嬢
-
25
-
-
冬薔薇姫
-
14
-
-
王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました
-
46
-
-
聖女(笑)だそうですよ
-
11
-
-
乙女ゲームに転生したけど、推しキャラカプ観察に忙しいので勝手に恋愛ゲームしていてください
-
14
-
-
婚約者が浮気したので、私も浮気しますね♪
-
19
-
-
悪役令嬢、職務放棄
-
18
-
-
恋に恋する侯爵令嬢のこじらせ恋愛
-
34
-
-
全力で逃げて何が悪い!
-
15
-
-
転生ヒロインに告ぐ!この世界はゲームじゃない!
-
34
-
-
悪役令嬢と書いてラスボスと読む
-
24
-
-
私は妹とは違うのですわ
-
29
-
-
婚約者を寝取られたけど割とどうでもいいです
-
23
-
-
真実の愛に生きたいのが自分だけと思うなよ
-
38
-
コメント