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殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です

狭山ひびき

人生は単純ではないと言うけれど 7

 コンラード家のカントリーハウスは無駄に広い。

 それは、周りになーんにもない、ど田舎に建てたからにほかならない。

 街の喧騒から離れてのんびりゆったりできるのは確かに魅力的ではあるが、一番近くの町に行くまで馬車で一時間もかかるなんて――、日々の食材などを買いに行く使用人を泣かせたいとしか思えない。

 しかも今、護衛のための騎士たちが十何人も滞在しているから、毎日の食料も相当な量になるはず。

 わたしが聖女に選ばれたばっかりに、みんな本当にごめんなさい。

 なんて思っていたら、このカントリーハウスで働いてくれている若いメイドの女の子なんかは、護衛騎士との素敵なロマンスの妄想ができるから万々歳と言っていた。なるほど、こんなど田舎にある邸で住み込みなんかで働いていたら素敵な出会いなんてそうそうないものね。これからはメイドの皆さんのロマンスも考えてあげたほうがいいのかしら。

「お嬢様の場合、ひっかきまわす方がお得意ですから何もしない方がよろしいかと」

 セルマにだめだしされて、わたしはしょんぼりとうなだれた。

 ひっかきまわすだなんて――、まあ、わたしは結構顔に出るらしいから、わたしが余計なことをすると相手に筒抜けなんだとか。メイドさんたちがわたしに恋の相談をしてくれないのは、そういう理由らしい。くすん、ちょっと寂しいです。

 だって人の恋路って楽しいじゃない。

 セルマに言わせれば「デバガメ」らしいんだけど。というか、デバガメって何かしら。そんな亀の種類聞いたことがないわ。

 ということで、メイドさんたちの恋のお手伝いはできそうもないので、わたしはせめてものお礼にクッキーを焼くことにした。

 王妃になったら教会のバザーとかに手作りのお菓子とかも出品したりすることあるから、教養としてお菓子作りは学んだんだけど、これが意外とわたしにあっていたみたい。

 いろんなものの興味を持つわたしのその特技(?)がお菓子作りにも発揮されて、新しい味のお菓子を生み出している。たまに失敗するのはご愛敬。セルマはいつも「斬新で結構なことですね」とあきれ顔で言うけれど、そう言いながらわたしの作ったお菓子をいつも食べてくれる。

 今日は甘く煮たレモンの皮をクッキー生地に練りこんでみようと考えている。まだ春先で全然すごしやすいんだけど、夏になると暑さのせいか食欲も低下するじゃない? そんなときにレモンのさわやかな香りと酸味はいいと思うの。そのための試作品一号ってところだけど、ちゃんと心を込めて作るし味見もするから許してね!

「お嬢、レモンの甘さはこんなもんですかね?」

 わたしがキッチンへ出入りするのは昔からだから、シェフのみんなも慣れているのか、嫌な顔をしないどころかわたしのお菓子作りを手伝ってくれる。

 キッチンでみんなとわいわいお菓子作りを楽しんでいるわたしを、セルマは少し離れたところで、まるで危なっかしい妹を見るような視線で見守ってくれている。

 クッキー、たくさん焼いて教会にも持って行こうかしら。

 ファーマンってば、今日も教会に用事があるって出かけていったから、ついでにファーマンにも手作りクッキーを食べてほしい。

 好きな人に手作りのお菓子を食べてもらえると嬉しいじゃない?

 メイナードも昔からわたしの作ったお菓子を――って、あいつは過去の男。どうでもいいんだった。

 わたしがファーマン用のクッキーをハートの形に型抜きしつつ、にまにまと笑っていると、シェフたちが口をそろえてこう言った。

「お嬢、気持ち悪いです」

 うるさいよ!

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