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殿下、あなたが捨てた女が本物の聖女です

狭山ひびき

人生は単純ではないと言うけれど 6

 アイリーンがセルマからお説教されていたころのこと。

「……うざい」

 第二騎士団副隊長であり、ジェネール公爵家の次男であるバーランド・ジェネールは読んでいた本から顔をあげて、ひどく落ち込んでいる友人に容赦ない一言を浴びせかけた。

 落ち込んでいる友人ことランバース国第一王子メイナードは、突っ伏していたテーブルから顔をあげた。

「ひどいぞバーランド! ここは慰めるべきじゃないのか!」

 メイナードは昨日に引き続きさきほども元婚約者のアイリーン・コンラード侯爵令嬢の気を引きくためにいそいそと会いに行っていたのだが、本日もあえなく撃沈してすごすごと戻ってきた。

 メイナードは今、コンラード侯爵の領地内にある王家の別邸に滞在している。

 アイリーンが生まれたときから婚約関係にあったメイナードは、アイリーンが領地ですごすオフシーズンに一緒にこちらへ滞在したいと言う理由から、十年前にこの別邸を建てた。

 少なくとも、このアホ王子がアイリーンとの婚約を解消するまでは、バーランドの目には二人は仲睦まじい恋人同士――というよりは、友人関係に近かったのかもしれないが、とにかく仲が良さそうに映っていた。

「慰めるわけないだろう。オルフェも相当怒っていたし、僕もあきれている」

 バーランドが冷ややかにそう返せば、メイナードはまたテーブルに突っ伏してしまった。

 オルフェことオルフェウスは、アイリーンの次兄である。オルフェウスとバーランド、そしてメイナードの三人はともに二十二歳で同年齢ということもあり、昔から何かと仲がよかった。よかった、と過去形なのは、今回のメイナードのやり方にオルフェウスが本気で怒ってしまったからだ。

 メイナードの言い訳も弁解も何もかも一切聞かず、「顔を見たら殴りそうだからしばらく近寄るな」と告げたオルフェウスの気持ちもわかる。バーランドの妹がもしも同じ目に遭ったら、バーランドは容赦なく相手の男を殴り飛ばすだろう。それをしなかったオルフェウスは、相当我慢したのだと思う。

「だって仕方なかったんだ……」

 拗ねたように言うメイナードに、さすがにバーランドも同情した。

 今回、メイナードがアイリーンと婚約を解消したのにはわけがある。

「サーニャ様が亡くなられるのが、結婚あとならよかったな」

 サーニャとは前国王の弟の妻で先日亡くなられた聖女の名だ。彼女の死がもう少し遅ければ――、メイナードも巻き込まれずにすんだものを。

「どうしてアイリーンに本当のことを言わなかったんだ?」

 メイナードはのそのそと顔をあげた。

「……私が悪者になって恨まれた方がいいと思ったんだ。本当のことを言ったら、アイリーンのことだ『仕方ありませんね』と言うだろう。仕方ないと言われたくなかったんだ。仕方ないと言われるくらいなら、恨まれた方がいい」

「残念ながら僕には理解できない」

 だが、メイナードの性格ならそう考えるのも無理はない。

 この友人は恐ろしく不器用だ。

「今からでも遅くない。本当のことを言ったらどうなんだ?」

「……いやだ」

「どうして?」

「理由を言えば、それはまた『仕方がない』になるだろう。……仕方がない、で選ばれたくない」

「馬鹿かお前」

「うるさい。それでも嫌なものは嫌なんだ」

 バーランドは大きく息を吐きだした。

「そんなことを言って、真正面からどうにかなるとでも? すでにお前はどん底まで落ちているんだからな、なりふりなんてかまっていたら、それこそ横からかっさらわれるぞ」

「……もうかっさらわれた」

「はあ 」

「ファーマン・アードラーとか言う聖騎士がアイリーンの新しい恋人だそうだ」

「聖騎士  ……最悪だ」

 バーランドは額をおさえて天井を仰いだ。

「私は認めない」

「お前が認めなくても、アイリーンなら好きにするだろう」

「……ちょっと前まで、アイリーンは私のものだったのに」

「今はもう無関係だな」

「……お前なんて嫌いだ」

 メイナードは完全に不貞腐れて、テーブルと仲良くしはじめてしまった。

 バーランドはうじうじしはじめた友人にもう一度「お前ウザい」と言ってから、席を立つ。

「僕はアイリーンがお前と復縁しようとどうしようとどちらでもいいけどな、相手が聖騎士なら話は別だ」

 よりにもよってどうして面倒くさい方へ話が転がるんだと肩を落として、バーランドはいじけている友人をおいて部屋を出て行った。

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