ストレート〜僕が大好きな幼馴染みの夢を叶える物語〜

ノベルバユーザー445911

04 久しぶり

「おい、お前!」

「え。」

 先程まで、驚きのあまり動かなかった谷津が勢いよく駆け寄ってくる。とても距離が近いせいか、葵にはいつもより彼の顔が大きく見えた。


「お前、ふざけてるのか?」

「え?」

「……こんな球投げられんのに、なぜ俺らが頼んでも野球部に入らない。」

「何故って、特にやる理由が無いからだよ。」

「やる理由が無いだと……?舐めてるのか?答えになってないぞ。それ。」

「おい、2人ともやめろって!なあ、教室戻ろうぜ。」

 危うく一触即発だった2人を、宗佑が慌てて引き離す。


 教室に戻ると、既に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴っていた。


(絶対に、お前を入部させるまで諦めないからな。)

 授業が始まっても、葵の頭には、帰り際谷津に繰り返し言われた言葉がしぶとく残っていた。

「諦めない。か。」

「ん?なんだ西川。言いたいことがあるなら手をあげて──」

「あ、すみません……。」



 学校が終わり、宗佑と谷津は部活へ、葵は自宅へと向かっていった。


「おかえり……なんか元気ないわね。」

 母の言葉に返事をする余裕もなく、聞き流してしまった。心配する母を素通りし、部屋に戻ろうとするが──


「あんた、なんかあったの?」

 母には全てお見通しだった。特に期待はしていなかったが、葵は少しだけ母に自分の気持ちを話してみることにした。

「母さん、沙月はさ、もし俺がまた野球やったら、喜ぶと思う?」

「そんなの、喜ぶに決まってるわよ。あんたが野球してる姿、隣でいつもすごい嬉しそうに見てたんだから。」

「……ちょっと、外出てくる。」


「あら……暗くなる前に帰ってくるのよ!」

 葵は考え事をするときに、いつも家の外に出る。開放感があるところで考え事をすると、よく頭の中がまとまるからだ。そして向かう先はいつも、同じ。



「久しぶり。沙月。」

 向かった先は、一ノ瀬家の墓だった。掃除と挨拶を済ませ、その場にしゃがみ込む。

「……俺さ、高校生になったよ。不思議だよな。俺の中の沙月はまだ中学生なのに、俺はもう高校生だぜ。歳とるのって、意外と早いよなあ。」


「…………。」


「……俺、まだ野球……できないんだ。お前がいた時は頑張れたのに、今はもう全然。本当だったら、今頃甲子園目指して練習してたのかな。」



「げっ」

 葵が心の中に留めておいた言葉を口にしていると、背後から、何やら聞き覚えのある声がした。その方向に目をやると、そこには制服姿の渚の姿があった。

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