霊能者、異世界を征く!

るう

踏んだり蹴ったり3

 マジか、信じられない……!
 二対一というハンデがあるので、圧倒的有利というわけではないが、それでもさっきまで手も足も出なかった相手に何とか渡り合っているのだ。
 なにより、あれほど重かった身体が嘘みたいに軽い。まるで力が湧いてくるようだ。
 今まさに掴みかかろうとしてきた骸骨顔のスキンヘッドの攻撃を躱し、あまつさえその足を払って後ろへと飛び退り、再び剣を構えなおす。
 身体が動きを覚えてるようだった。
 次に何をしたらいいか、頭ではなく身体が教えてくれている。動きだけではない、明らかに脚力腕力の手ごたえが、さっきまでとまるで違い過ぎる。
 
「ちっ! 一体どうなってるんだ!? コイツ、さっきまでと様子が違うぜ」
「いいから、契約しちまえばこっちのもんだ。押さえ込め!」

 先ほどまでグズグズしていた相手が、いきなり手ごたえが変わって反撃を始めたのだから、驚き戸惑うのも無理はない。

『おい、いいか? 首輪はまだ機能していない。とにかく適当にあしらって、さっさと逃げちまえ』

 耳元で聞こえるこの声の詮索は、とりあえず後回しにすることにした。

「そうしたいのはやまやまなんだけどな。こう二人で交互に来られると……」

 とりあえず味方っぽいし、今は目の前の脅威から逃げることの方が先決だ。そう思いつつも、さすがに二人を相手にしていると、逃げるだけの隙を作るのはなかなか難しかった。冷静に判断するなら、この二人の実力は、動けるようになった俺よりもちょっとだけ強い。
 兄貴分の太っちょは、ナイフで傷をつけた親指をこちらに向けて迫って来きた。なんだかわからないが、あれに触られたらダメなことはわかる。相手は明らかに俺を傷つけるのを躊躇っているし、そのおかげでなんとかかんとか逃げおおせてはいるけど、このままでは時間の問題である。

「オオォー…! グガァァ」

 そんな攻防戦の最中、草むらをかき分けるような音と、悲鳴に近い不気味な叫び声のようなものが聞こえた。
 考える間もなく、俺の数倍はあろうかという肌色の巨体が、デコボココンビの真後ろに登場した。背後を取られた二人の驚きはさることながら、俺もその場に縫い付けられたように硬直した。
 目の前は、巨体の肌色一色に染まった。
 顔はそのまま豚のようで、筋肉だるまの巨体にたった一枚の腰布といういで立ちだ。なにより、持ってる棍棒デカすぎっ! あんなものを振り回されたら、一瞬にしてミンチだ。
 足元に現れた俺たちを邪魔だと思ったのか、そいつは棍棒を振り上げてめちゃくちゃに振り回して突進してきた。ミンチ決定の瞬間である。
 あ、コレ終わった……。
 目を瞑ることさえできず、凝視する俺の目の前で、けれど肌色は一瞬で真っ赤に染まった。

「……っ!?」

 突っ立ったままの巨体はぱっくり真ん中から裂け、内容物を辺り一面にぶちまけた。びちゃびちゃとえげつない音を立てて色んなものが零れ落ちる。
 テレビなら放送事故間違いなしの映像に、俺は声も出せずにその場にへたり込みそうになった。
 ほぼ真下に居たデコボココンビはもちろん、その前方にいた俺も、遠慮なく飛び散る血の洗礼を浴びた。

 ――ホントに勘弁してくれよ……、次から次へなんなんだ異世界、そんなに俺が嫌いなのかよ?!

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