掌の小説

Lily24

靴紐

 ここがどこなのか、初めはまったく理解ができなかった。
 こんな場所にくるはずがない、およそ縁のない場所だ、という思い込みと、現実とのずれ。今僕はその隙間の中で、自分の置かれている状況を必死で考えていた。
 しかしそもそも、と自由のきかない、暗い、息苦しい中で、何とか居場所を探していた。しかしそもそも、きっかけは何だったのか、と。

 またみつめられている。昨日も、その前も、今日も、そして明日も。
 じっと食い入るような、それでいて真摯な、決して不躾でない、深い眼差し。それを臆することもなく、出し惜しみせず、余すことなく向けてくる。

 彼と、視線の先の僕。
 この構図が俯瞰できたなら、どんなに素敵なことだろう。
 きっと左側からみた方が栄えるはずだ。僕はもうすっかり、あの視線に絡めとられていた。

 そして結ばれた。いつでも、どこへでも、どこへ行くのでも僕らは一緒だった。
 互いが納まるべき場所に、すっぽりと隙間なく納まったようなあの感覚。
 過不足のない、それでいて、ほかの何者も入り込む余地のない、充足感。

 それなのに。

 僕はひどくあっさり捨てられた。
 そもそもあれは事故みたいなものだったのに。僕の一部が切れてしまった。何の前触れもなく、突然に。僕自身、もちろん彼も、いつ切れたのかわからない。
 それなのに切れたとわかった途端、まるで過去の過ちを葬り去るかのように、ゴミ袋に放り投げた。

 自由のきかない、暗い、息苦しいゴミ袋の中。
 ここには居場所などなかった。
 あるのは記憶の残骸。
 かつては白かった僕も薄汚れてしまい、彼の足元には真新しい黒い靴が輝いていた。

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