旦那様は魔王様
10
「シヴァ様ぁ!」
部屋の扉をあけるなり、沙良は半べそでシヴァに駆け寄った。
つい先ほど上機嫌で部屋を出て行った沙良が泣きそうな顔で戻ってきて、シヴァは目を丸くした。
「どうしたんだ?」
読んでいた本を閉ざし、シヴァが問う。
沙良は廊下を指さした。
「で、出ました!」
「なにが?」
「白い、白い影です!」
「影?」
「温泉で見た影です! きっとそうですっ」
またそれか――シヴァはそう思ったが、怯えた様子の沙良を見て声には出さなかった。
シヴァは立ち上がると、扉が開いたままの部屋の入口から、沙良が指さす廊下の方を見やる。
「それで、その影はどこにいるんだ?」
「わかりません……。廊下、曲がって行ったみたいで」
もちろん、怖かったから白い影を追跡するようなことはしていない。ちらっと目にしただけだ。
「白い影、ね……」
シヴァはふと考え込むように顎に手を当てた。
沙良が二回も言うくらいだ。本当に白い人影のようなものを見たのかもしれない。
沙良が言う「お化け」ではないであろうが、こんなにも怯えられると、いつ帰りたいと言い出すかわかったものではない。
セリウスが戻ってきて、城がうるさくなったので一時避難で離宮を訪れることにしたが、もう一つ、沙良とセリウスを引き離すつもりでもあった。
あの自分勝手で脳のネジが数本抜けていそうな弟は、なぜか沙良に興味を示していた。
これ以上、沙良の周りをちょろちょろされたくはないし、それによってイライラさせられるのも勘弁してほしかった。
せめてもう少し、この離宮で平穏な時をすごしたい。そのためには、沙良を怯えさせている元凶をなんとかする必要がある。
シヴァは安心させるように沙良の頭を撫でた。
「わかった。その白い影というのを探してどうにかしてやるから、しばらくはおとなしくしていなさい」
沙良はすがるようにシヴァを見た。
「本当ですか?」
「ああ」
「お化け退治してくれるですね」
「あ、ああ」
それが「お化け」かどうかもわからないというのに、沙良は決めてかかっているようだ。
だが、「お化け」ではないと否定したところで、沙良は納得しないだろう。
沙良はシヴァがお化け退治を請け負ったことに安心したのか、ホッと息を吐きだした。
そのあと、少し残念そうな顔をして、
「温泉、入れなかったです……」
お化けが怖くて一人で入れないと、ぼそりとつぶやく。
しかし沙良は、うっかりと心の声が口から駄々洩れになったことを、このあと激しく後悔した。
なぜなら、シヴァが沙良をひょいと抱え上げて、
「そんなことか。なら、今からもう一度行けばいいだろう」
「え?」
「一人で入るのが怖いのならつき合ってやる」
「ええっ?」
沙良が愕然としているうちに、シヴァは沙良を抱えたまま、温泉の入口まで一瞬で移動した。
こうして、「一緒は恥ずかしいですー!」という訴えも聞き入れられず、沙良は昨日に引き続き、今日もシヴァと混浴する羽目になったのだった。
部屋の扉をあけるなり、沙良は半べそでシヴァに駆け寄った。
つい先ほど上機嫌で部屋を出て行った沙良が泣きそうな顔で戻ってきて、シヴァは目を丸くした。
「どうしたんだ?」
読んでいた本を閉ざし、シヴァが問う。
沙良は廊下を指さした。
「で、出ました!」
「なにが?」
「白い、白い影です!」
「影?」
「温泉で見た影です! きっとそうですっ」
またそれか――シヴァはそう思ったが、怯えた様子の沙良を見て声には出さなかった。
シヴァは立ち上がると、扉が開いたままの部屋の入口から、沙良が指さす廊下の方を見やる。
「それで、その影はどこにいるんだ?」
「わかりません……。廊下、曲がって行ったみたいで」
もちろん、怖かったから白い影を追跡するようなことはしていない。ちらっと目にしただけだ。
「白い影、ね……」
シヴァはふと考え込むように顎に手を当てた。
沙良が二回も言うくらいだ。本当に白い人影のようなものを見たのかもしれない。
沙良が言う「お化け」ではないであろうが、こんなにも怯えられると、いつ帰りたいと言い出すかわかったものではない。
セリウスが戻ってきて、城がうるさくなったので一時避難で離宮を訪れることにしたが、もう一つ、沙良とセリウスを引き離すつもりでもあった。
あの自分勝手で脳のネジが数本抜けていそうな弟は、なぜか沙良に興味を示していた。
これ以上、沙良の周りをちょろちょろされたくはないし、それによってイライラさせられるのも勘弁してほしかった。
せめてもう少し、この離宮で平穏な時をすごしたい。そのためには、沙良を怯えさせている元凶をなんとかする必要がある。
シヴァは安心させるように沙良の頭を撫でた。
「わかった。その白い影というのを探してどうにかしてやるから、しばらくはおとなしくしていなさい」
沙良はすがるようにシヴァを見た。
「本当ですか?」
「ああ」
「お化け退治してくれるですね」
「あ、ああ」
それが「お化け」かどうかもわからないというのに、沙良は決めてかかっているようだ。
だが、「お化け」ではないと否定したところで、沙良は納得しないだろう。
沙良はシヴァがお化け退治を請け負ったことに安心したのか、ホッと息を吐きだした。
そのあと、少し残念そうな顔をして、
「温泉、入れなかったです……」
お化けが怖くて一人で入れないと、ぼそりとつぶやく。
しかし沙良は、うっかりと心の声が口から駄々洩れになったことを、このあと激しく後悔した。
なぜなら、シヴァが沙良をひょいと抱え上げて、
「そんなことか。なら、今からもう一度行けばいいだろう」
「え?」
「一人で入るのが怖いのならつき合ってやる」
「ええっ?」
沙良が愕然としているうちに、シヴァは沙良を抱えたまま、温泉の入口まで一瞬で移動した。
こうして、「一緒は恥ずかしいですー!」という訴えも聞き入れられず、沙良は昨日に引き続き、今日もシヴァと混浴する羽目になったのだった。
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