旦那様は魔王様
5
額にひんやりとした感触を覚えて、沙良はゆっくりと瞼を開けた。
視界にまず飛び込んできたのは高い天井だ。沙良は視線を巡らせて、どうやら自分は部屋でベッドに横になっているらしいと判断した。
「気がついたか?」
すぐ近くで話しかけられて、沙良は横を向く。広いベッドの端に腰掛けたシヴァが心配そうに沙良の顔を覗き込んでいた。
「シヴァ様……?」
状況がよく呑み込めずに、沙良は首を傾げる。
「急に悲鳴を上げて気を失ったんだ。覚えていないのか?」
シヴァから説明を受けて、沙良はハッとした。
そうだ。温泉に入っていた時、ガラス張りの壁に白い影を見たのだ。それは、人影のように見えた。
(お化け……)
沙良の目には、真っ白なワンピースを着た女性の幽霊のように映ったのだ。何かが出そうだと思っていたから見た幻なのかもしれないが――
「シヴァ様、温泉に入っていた時、ガラスの壁の向こうに、何か見えました……?」
「何か?」
「例えば人影とか……」
「外は少し行けば崖だぞ。そんなところを誰かがうろつくはずないだろう」
つまり、シヴァは何も見ていないということだ。
(やっぱり、お化け……!)
沙良の顔から血の気が引いた。
シヴァはぷるぷると震えはじめた沙良を見て怪訝そうな顔をする。
「どうかしたのか?」
「シヴァ様、ここ、ここにはお化けが出るんでしょうか?」
「出るはずないだろう」
「だって……」
「気絶した時、頭でも打ったのか……?」
シヴァは手を伸ばすと、たんこぶを探すように沙良の頭をぐるりと撫でた。
「こぶは、ないな」
「頭なんて打ってません。……たぶん」
気絶していたから定かではないが、痛みはないからおそらく打ってはいないはずだ。
沙良はゆっくり上半身を起こすと、真剣な顔でシヴァに言った。
「わたし、お化けを見たんです!」
「……」
シヴァは無言でもう一度沙良の頭を撫でた。
「いくら探しても、たんこぶなんてありませんってば!」
「では、夢でも見たのか?」
「夢……」
夢、と言われて沙良は考えた。夢ではないと思うが、言われると自信はない。
温泉からこの部屋までの記憶もないし、気絶しているときに見た夢だと言われればそれまでだ。
(確かに、あと少しでのぼせそうだったし……)
そこまで考えて、沙良はあることに気がついた。
自分の格好を見下ろして、きちんと服を着ていることを改めて確かめる。
(わたし、裸だったのに……)
湯に入っていたのだから、当然裸だった。
沙良はごくりと唾を飲み込み、今にも消え入りそうなほどの小声で訊ねた。
「……シヴァ様。わたしが温泉で気絶した後、ここまで、シヴァ様が運んでくれたんですか?」
「そうだが」
あっさりと首肯されて、沙良は息を呑んだ。
青かった沙良の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まる。
裸の沙良をシヴァがここまで運んだということは――
(見られた……! 全部、見られた……!)
沙良は泣きそうになった。
シヴァは、青くなったり赤くなったり、怯えてみたり、瞳を潤ませてみたりと、百面相をしている沙良を見て、やはりどこか打ったのではないかと心配になったらしい。
そのあと、沙良は念入りにシヴァに頭を撫でられ、たんこぶがないかの再検査をされるはめになったのだった。
視界にまず飛び込んできたのは高い天井だ。沙良は視線を巡らせて、どうやら自分は部屋でベッドに横になっているらしいと判断した。
「気がついたか?」
すぐ近くで話しかけられて、沙良は横を向く。広いベッドの端に腰掛けたシヴァが心配そうに沙良の顔を覗き込んでいた。
「シヴァ様……?」
状況がよく呑み込めずに、沙良は首を傾げる。
「急に悲鳴を上げて気を失ったんだ。覚えていないのか?」
シヴァから説明を受けて、沙良はハッとした。
そうだ。温泉に入っていた時、ガラス張りの壁に白い影を見たのだ。それは、人影のように見えた。
(お化け……)
沙良の目には、真っ白なワンピースを着た女性の幽霊のように映ったのだ。何かが出そうだと思っていたから見た幻なのかもしれないが――
「シヴァ様、温泉に入っていた時、ガラスの壁の向こうに、何か見えました……?」
「何か?」
「例えば人影とか……」
「外は少し行けば崖だぞ。そんなところを誰かがうろつくはずないだろう」
つまり、シヴァは何も見ていないということだ。
(やっぱり、お化け……!)
沙良の顔から血の気が引いた。
シヴァはぷるぷると震えはじめた沙良を見て怪訝そうな顔をする。
「どうかしたのか?」
「シヴァ様、ここ、ここにはお化けが出るんでしょうか?」
「出るはずないだろう」
「だって……」
「気絶した時、頭でも打ったのか……?」
シヴァは手を伸ばすと、たんこぶを探すように沙良の頭をぐるりと撫でた。
「こぶは、ないな」
「頭なんて打ってません。……たぶん」
気絶していたから定かではないが、痛みはないからおそらく打ってはいないはずだ。
沙良はゆっくり上半身を起こすと、真剣な顔でシヴァに言った。
「わたし、お化けを見たんです!」
「……」
シヴァは無言でもう一度沙良の頭を撫でた。
「いくら探しても、たんこぶなんてありませんってば!」
「では、夢でも見たのか?」
「夢……」
夢、と言われて沙良は考えた。夢ではないと思うが、言われると自信はない。
温泉からこの部屋までの記憶もないし、気絶しているときに見た夢だと言われればそれまでだ。
(確かに、あと少しでのぼせそうだったし……)
そこまで考えて、沙良はあることに気がついた。
自分の格好を見下ろして、きちんと服を着ていることを改めて確かめる。
(わたし、裸だったのに……)
湯に入っていたのだから、当然裸だった。
沙良はごくりと唾を飲み込み、今にも消え入りそうなほどの小声で訊ねた。
「……シヴァ様。わたしが温泉で気絶した後、ここまで、シヴァ様が運んでくれたんですか?」
「そうだが」
あっさりと首肯されて、沙良は息を呑んだ。
青かった沙良の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まる。
裸の沙良をシヴァがここまで運んだということは――
(見られた……! 全部、見られた……!)
沙良は泣きそうになった。
シヴァは、青くなったり赤くなったり、怯えてみたり、瞳を潤ませてみたりと、百面相をしている沙良を見て、やはりどこか打ったのではないかと心配になったらしい。
そのあと、沙良は念入りにシヴァに頭を撫でられ、たんこぶがないかの再検査をされるはめになったのだった。
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