旦那様は魔王様

狭山ひびき

ミリアムのドキドキ大作戦! 1

ルンルンルン、と。

夫婦の寝室で、ベッドにうつぶせになり、鼻歌を歌いながらカタログをめくっている妻に、アスヴィルはもの言いたげな視線を送った。

アスヴィルが愛してやまない妻は、かれこれ一時間ほどそうしている。

その間アスヴィルは完全に放置されているのだが、さすがに淋しくなって、そろそろかまってくれないだろうか、という期待を込めて視線を送ったのだ。

だが――

「やぁん、これも可愛い~」

妻はまったく気づかない。

アスヴィルの妻はすごい美人だ。

夫の欲目を抜きにしても、誰もが認める美女だと思う。

癖のない、腰までの真っ赤な艶やかな髪、小さな顔。長いまつ毛に縁どられた、大きいが聡明な瞳。豊かな胸に細い腰。すらりとのびた手足。

そんなミリアムと結婚出来て、冗談ではなく、アスヴィルは世界一の幸せ者だと思っている。

だが、その幸せも最近、少しばかり揺らいできた。

なぜなら、最近、妻は実の兄であるシヴァの新妻がお気に入りで、暇さえあれば彼女のことを考えているのだ。

もちろん、その間アスヴィルは放置される。

「ミリアム――」

女性同士の友情に口を挟む気はないが、さすがに放置され続けていると鬱憤もたまる。

アスヴィルは強硬手段に出ることにして、ミリアムの細い腰に手を伸ばした。

腕の中に抱き込んで、ほっそりとした頬に手を添える。

ゆっくりと顔を近づけて、そのまま唇を奪おうとしたのだが――

がばっと目の前に開いたカタログが突きつけられて、アスヴィルは動きを止めた。

「ねえねえ、どれがいいと思う~?」

ご機嫌のミリアムは、アスヴィルの気持ちにこれっぽっちも気がつかない。

アスヴィルはため息をついた。

カタログには、女性用の夜着が載っている。

だが、妻は自分が着る夜着を選んでいるわけではないのだ。

妻が身に着けるのであれば嬉々として選ぶのだが、そうでないのならばアスヴィルに興味はない。

けれど、アスヴィルが答えないとミリアムは納得しないだろう。

アスヴィルはちらりとカタログに視線をやって、眉を寄せると、もの言いたげな視線を妻に送った。

「……こういうものを着せるのか?」

「そうよ」

あっけらかんと、妻は答える。

アスヴィルはシヴァの新妻の幼さの残る顔を思い浮かべて、心の中で同情した。

ミリアムはキラキラした瞳でこちらを見ている。

アスヴィルが答えなければ、いつまでたっても夫婦の時間は訪れないだろう。

(それは困る……)

アスヴィルはミリアムとイチャイチャしたい。

そのため、アスヴィルは心を鬼にして答えた。

「――この、紫」

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