悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
背水の陣の計画 1
――半年前。
フリーデリックはコルネール地方に向かっていた。
コルネール地方はアリシアの父、リュベウス・フォンターニア・コルネール公爵が治める領地だ。
領主である公爵もその妻も、娘をおいて国外逃亡しており、実際にはこの地を治める領主は誰もいない。
誰もいないが、いなくなったからと言って簡単に領主を変えることができないし、リュベウスには息子がいない。唯一の子供であるアリシアはまだ成人と認められる十八になる前で、結婚もしていない。代わりの領主としては認められないのだ。
そのアリシアだが、今はほとんど王都の公爵邸には戻らず、領地にあるカントリーハウスですごしているらしい。
ユミリーナの身辺はここ数か月落ち着いていたが、だからこそアリシアを見張れと国王に言われ、フリーデリックはこの地へやってきた。
恒例行事となっている、隣国との交流試合も終わり、フリーデリックは今が一番暇な時期だ。それをわかっているから、国王もしばらくアリシアを見張っていろと言ったのだろう。
(面倒だな……)
馬車に揺られながら、フリーデリックは嘆息する。
本当は馬の方が早いのに、馬車でのんびりと向かっているのは、馬で向かうと目立つからだ。
アリシアに気づかれず、彼女に不審な行動がないか見張れと言われた手前、目立つわけにはいかない。
フリーデリックは甲冑を脱ぎ、黒いシャツにトラウザースという目立たない格好をしていた。
素手でも充分に腕の立つフリーデリックは、剣は目立つからもって行くなと言われて――、正直、落ち着かない。
フリーデリックは腕を組むと、馬車の背もたれに体重をかけて目を閉じた。
アリシア・フォンターニア公爵令嬢。
彼女は三年前まで、ユミリーナ王女と仲がよかったはずだった。
フォンターニア家は、四代前の国王の弟が臣下に下った際に名乗りはじめた公爵家だ。そのためアリシアも王族の血を引いており――、だからだろうか、内気なユミリーナだが、昔からアリシアには心を開いているようだった。
アリシアをよく城に招いていたし、逆にユミリーナもアリシアの公爵邸に遊びに出かけることが多かった。
だからこそ、アリシアがユミリーナに毒を盛ったという話を聞いたとき、フリーデリックは耳を疑ったことを覚えている。
三年前――、思えば隣国の王子ラジアンが来てから、二人の関係はおかしくなった。
ラジアンがこの国に来てからすぐに、アリシアと王子の関係が噂された。アリシアは王家の血を引く公爵令嬢。王子の結婚相手として、身分違いということはない。王子もアリシアを気にかけているようだったし、もしかしたら――、そう言われていた時期もあった。
しかし、そのころからアリシアは公にはあまり顔を出さなくなっており、二人が一緒にいるところを見たものは誰もいない。
このまま婚約か――と噂が広まりはじめたそのとき、突然、ラジアンとユミリーナの婚約が発表された。
どうなっているんだと驚いたフリーデリックの耳に、さらに信じられない噂が飛び込んできた。
アリシアがラジアンを愛していて――、ラジアンの婚約者に選ばれたユミリーナを、ひどく妬み恨んでいる、と。
まさかと思ったが、どうやらその噂の出所はラジアン自身で、アリシアがユミリーナに危害を加えるのではないかと心配していたため、噂の信憑性はぐんと上がった。
あっという間に、その噂は尾ひれ背びれをつけて王都に広まった。
そんな矢先だった。アリシアが、ユミリーナの飲み物に毒を盛ったのは。
もちろんアリシアは否定した。しかしあの日、アリシアはユミリーナに招かれて登城しており、ユミリーナが倒れたときには、王女の部屋にはユミリーナのほかにアリシアしかいなかった。
しかし、そのまま投獄されかけたアリシアをかばったのは、幸い毒が軽く、すぐに意識を取り戻したユミリーナ自身だった。
――アリシアは、わたくしの飲み物には一切触れませんでした。ただ、お喋りしていただけです。
その言葉に、アリシアを疑うものたちは納得していないようだったが、渋々アリシアを無罪放免とした。
しかし、そのあともユミリーナの食事に毒が盛られたり、城の池に突き落とされたりと――、王女は何度も狙われて、王子を取られた恨みでアリシアがユミリーナに危害を加えているのだと広まった。
(……恨みというのは怖いな)
女の恋愛がらみの感情は、本当に怖いと思う。
仲の良かった友人の命を狙うほどに、心を蝕んでしまうらしい。
(だからと言って……、許せることではない)
フリーデリックは、毒を盛られて真っ青な顔をして苦しむユミリーナの姿を思い出す。
騎士団に入ってから、フリーデリックは何度もユミリーナの身辺の警護をした。小さく微笑んで、ありがとうと言う愛らしい彼女のことは、おこがましいかもしれないが、妹のように思っている。
そんなユミリーナを何度も傷つけたアリシアを――、フリーデリックは許せない。
(もう絶対に、ユミリーナに危害は加えさせない)
フリーデリックは、瞼の裏に、悪徳令嬢と呼ばれるアリシアの豊かな金髪を思い出して、ぎりっと奥歯をかみしめた。
フリーデリックはコルネール地方に向かっていた。
コルネール地方はアリシアの父、リュベウス・フォンターニア・コルネール公爵が治める領地だ。
領主である公爵もその妻も、娘をおいて国外逃亡しており、実際にはこの地を治める領主は誰もいない。
誰もいないが、いなくなったからと言って簡単に領主を変えることができないし、リュベウスには息子がいない。唯一の子供であるアリシアはまだ成人と認められる十八になる前で、結婚もしていない。代わりの領主としては認められないのだ。
そのアリシアだが、今はほとんど王都の公爵邸には戻らず、領地にあるカントリーハウスですごしているらしい。
ユミリーナの身辺はここ数か月落ち着いていたが、だからこそアリシアを見張れと国王に言われ、フリーデリックはこの地へやってきた。
恒例行事となっている、隣国との交流試合も終わり、フリーデリックは今が一番暇な時期だ。それをわかっているから、国王もしばらくアリシアを見張っていろと言ったのだろう。
(面倒だな……)
馬車に揺られながら、フリーデリックは嘆息する。
本当は馬の方が早いのに、馬車でのんびりと向かっているのは、馬で向かうと目立つからだ。
アリシアに気づかれず、彼女に不審な行動がないか見張れと言われた手前、目立つわけにはいかない。
フリーデリックは甲冑を脱ぎ、黒いシャツにトラウザースという目立たない格好をしていた。
素手でも充分に腕の立つフリーデリックは、剣は目立つからもって行くなと言われて――、正直、落ち着かない。
フリーデリックは腕を組むと、馬車の背もたれに体重をかけて目を閉じた。
アリシア・フォンターニア公爵令嬢。
彼女は三年前まで、ユミリーナ王女と仲がよかったはずだった。
フォンターニア家は、四代前の国王の弟が臣下に下った際に名乗りはじめた公爵家だ。そのためアリシアも王族の血を引いており――、だからだろうか、内気なユミリーナだが、昔からアリシアには心を開いているようだった。
アリシアをよく城に招いていたし、逆にユミリーナもアリシアの公爵邸に遊びに出かけることが多かった。
だからこそ、アリシアがユミリーナに毒を盛ったという話を聞いたとき、フリーデリックは耳を疑ったことを覚えている。
三年前――、思えば隣国の王子ラジアンが来てから、二人の関係はおかしくなった。
ラジアンがこの国に来てからすぐに、アリシアと王子の関係が噂された。アリシアは王家の血を引く公爵令嬢。王子の結婚相手として、身分違いということはない。王子もアリシアを気にかけているようだったし、もしかしたら――、そう言われていた時期もあった。
しかし、そのころからアリシアは公にはあまり顔を出さなくなっており、二人が一緒にいるところを見たものは誰もいない。
このまま婚約か――と噂が広まりはじめたそのとき、突然、ラジアンとユミリーナの婚約が発表された。
どうなっているんだと驚いたフリーデリックの耳に、さらに信じられない噂が飛び込んできた。
アリシアがラジアンを愛していて――、ラジアンの婚約者に選ばれたユミリーナを、ひどく妬み恨んでいる、と。
まさかと思ったが、どうやらその噂の出所はラジアン自身で、アリシアがユミリーナに危害を加えるのではないかと心配していたため、噂の信憑性はぐんと上がった。
あっという間に、その噂は尾ひれ背びれをつけて王都に広まった。
そんな矢先だった。アリシアが、ユミリーナの飲み物に毒を盛ったのは。
もちろんアリシアは否定した。しかしあの日、アリシアはユミリーナに招かれて登城しており、ユミリーナが倒れたときには、王女の部屋にはユミリーナのほかにアリシアしかいなかった。
しかし、そのまま投獄されかけたアリシアをかばったのは、幸い毒が軽く、すぐに意識を取り戻したユミリーナ自身だった。
――アリシアは、わたくしの飲み物には一切触れませんでした。ただ、お喋りしていただけです。
その言葉に、アリシアを疑うものたちは納得していないようだったが、渋々アリシアを無罪放免とした。
しかし、そのあともユミリーナの食事に毒が盛られたり、城の池に突き落とされたりと――、王女は何度も狙われて、王子を取られた恨みでアリシアがユミリーナに危害を加えているのだと広まった。
(……恨みというのは怖いな)
女の恋愛がらみの感情は、本当に怖いと思う。
仲の良かった友人の命を狙うほどに、心を蝕んでしまうらしい。
(だからと言って……、許せることではない)
フリーデリックは、毒を盛られて真っ青な顔をして苦しむユミリーナの姿を思い出す。
騎士団に入ってから、フリーデリックは何度もユミリーナの身辺の警護をした。小さく微笑んで、ありがとうと言う愛らしい彼女のことは、おこがましいかもしれないが、妹のように思っている。
そんなユミリーナを何度も傷つけたアリシアを――、フリーデリックは許せない。
(もう絶対に、ユミリーナに危害は加えさせない)
フリーデリックは、瞼の裏に、悪徳令嬢と呼ばれるアリシアの豊かな金髪を思い出して、ぎりっと奥歯をかみしめた。
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