悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
騎士団長代理、来る 4
ユミリーナが誰に狙われているのか。
アリシアは今まで、そのことを考えたことがなかった。
自分の冤罪を晴らすことだけを考えて――何とか身を守る方法はないかとだけを考え続けて、ユミリーナのことにまで気が回っていなかった。
(確かに……、ユミリーナは誰に狙われているの?)
アリシアの知る小説の舞台では、ユミリーナを狙うのはアリシアだった。でも、この現実でアリシアは何もしていない。それなのに、どうしてユミリーナは狙われ続けるのだろう。
ジョシュアがたくさん喋って喉が渇いたと言い出して、使用人にお茶を用意してもらうまで話が中断されたため、アリシアは一人考える。
城の池に落ちたのは事故かもしれない。風邪を引いたのだって、生きていればおそらく誰でも引くだろう。でも、さすがに毒は――、誰かに盛られない限り、狙われていない限り、ありえない。
アリシアも馬鹿だった。
自分が逃げることばかり考えていて、どうしてそのことを考えなかったのだろう。
ユミリーナが狙われ体質だから――、そんなことは理由にならない。
いつまでも前世で読んだ小説の世界のストーリーにとらわれすぎていて、現実が見えていなかった。
ここは小説と同じ世界かもしれないが、明らかに小説とは違うストーリーが展開されているのだと、今更ながらに気づかされた。
(城にいて毒が盛られるということは……、城の中に、ユミリーナを狙う人がいるってことよね)
このままでは延々とユミリーナは狙われ続けるだろう。
ジョシュアは目の前に紅茶が用意されると、満足そうにそれを口に運んだ。
使用人たちが出て行くと、中途半端なところで話を止められてイライラしていたのか、フリーデリックが口を開く。
「王女は誰に狙われているんだ!」
「知らないよ、そんなこと。知っていたらさっさと捕えているに決まっているだろう。だけど、まさか王女が自分で毒を飲むはずもない。誰かに狙われない限り、ありえないだろう」
「……お前、気がついていたならなぜ言わなかった」
「言ったところで何になると? 聞き入れられないだけならましだが、妙な言いがかりをつけられて罪にでも問われたら最悪だからね。……アリシア嬢には悪いが、俺は、君を愛しているわけではない。君の命と自分の命、どちらが大切かと言われれば、自分の命を取る」
ジョシュアの突き放したような物言いに、フリーデリックは眉を顰めるが、アリシアは確かにそうだと納得する。人と自分の命、どちらが大切かなんて、わかりきっていることだ。
だから、アリシアのことをかばう人は――「あの人」を除いて、誰もいなかった。
率先して王の怒りを買いに行く人などいるはずがない。
唯一、アリシアをかばってくれた「あの人」も、今は遠いところにいる。
アリシアはジョシュアを見る。
ジョシュアがここに来たのは、アリシアのためではなく、友人で元上司のフリーデリックのためだろう。それでも、自ら来てくれことに、こうして思っていることを話してくれたことに、アリシアは感謝する。
彼が言わなければ、アリシアも気がつかないままだった。
「考えたところで、答えは簡単に出ないかもしれないだろうけどね――、この問題を解決しない限り、アリシア嬢に安らぎは訪れないよ。それこそ、死なない限りね」
ジョシュアは、しわくちゃの国王の手紙をフリーデリックに向かって投げた。
「それからこれも無視できない。無視したらどうなるか、わかっているだろう? 俺は別にアリシア嬢を本当に処刑しろとは言わない。でも、無視はできない。冷静になれと言ったのはそういうことだ。突っぱねるのは簡単だ。だが、そのあとどうなるかを考えろ。お前が反逆者にされた場合、いったい誰がアリシア嬢を守ると?」
頭に血が上ったままなら、いっそ海にでも飛び込んで頭を冷やしてこい――、ジョシュアは辛辣なことを言う。
ジョシュアはそれからアリシアに視線を向ける。
「君も、人生を諦めているのかもしれないけど、ここに一人、命を懸けても君を守りたいと思っている男がいることを忘れないでくれ。フリーデリックを許せと言っているわけじゃない。君にも思うところがたくさんあるだろう。それでも、安易に毒を飲むとか言うな。君たちは少し頭を使うべきだ」
アリシアはフリーデリックを見上げた。難しい顔をして唸っている、元騎士団長。
(……守ろうとして、くれているの?)
意地になって、フリーデリックのことを信じられないと突っぱねていた。でも、この人は本当にアリシアを守ろうとしてくれているのだろうか。
アリシアが毒を飲むと言ったときに――怒ってくれたように。
(どうしてそこまでするの……?)
どうして、アリシアをかばおうとするのだろうか。
どうして、アリシアを好きだと言ったのだろうか。
守ろうとするのは――どうして。
今まで演技だ、ユミリーナのためなのだと、言い訳して目を背けてきたフリーデリックの心が、今はじめてアリシアは気になった。
アリシアを好きだと言った心は本心だろうか。それならば、いったいいつ、アリシアを好きになってくれたのだろう。
「今すぐ答えを出せとは言わないよ。これからどうするのか、考える時間は必要だ。今すぐと陛下は言うが、別に明日明後日にアリシア嬢の遺体を持って登城しなかったからと言って、軍を率いて襲いかかるような愚かなことは、さすがにしないだろう」
俺もしばらくここにいるから、とりあえず今回の件をどう回避するか、作戦を練ろうか――、ジョシュアはそう言って立ち上がる。
「おなかすいた。実は昼飯を食べていないんだよね。何か食べさせて」
マイペースなことを言うジョシュアに、アリシアはフリーデリックと顔を見合わせて――、あれだけ緊張していたというのに、思わず吹き出してしまったのだった。
アリシアは今まで、そのことを考えたことがなかった。
自分の冤罪を晴らすことだけを考えて――何とか身を守る方法はないかとだけを考え続けて、ユミリーナのことにまで気が回っていなかった。
(確かに……、ユミリーナは誰に狙われているの?)
アリシアの知る小説の舞台では、ユミリーナを狙うのはアリシアだった。でも、この現実でアリシアは何もしていない。それなのに、どうしてユミリーナは狙われ続けるのだろう。
ジョシュアがたくさん喋って喉が渇いたと言い出して、使用人にお茶を用意してもらうまで話が中断されたため、アリシアは一人考える。
城の池に落ちたのは事故かもしれない。風邪を引いたのだって、生きていればおそらく誰でも引くだろう。でも、さすがに毒は――、誰かに盛られない限り、狙われていない限り、ありえない。
アリシアも馬鹿だった。
自分が逃げることばかり考えていて、どうしてそのことを考えなかったのだろう。
ユミリーナが狙われ体質だから――、そんなことは理由にならない。
いつまでも前世で読んだ小説の世界のストーリーにとらわれすぎていて、現実が見えていなかった。
ここは小説と同じ世界かもしれないが、明らかに小説とは違うストーリーが展開されているのだと、今更ながらに気づかされた。
(城にいて毒が盛られるということは……、城の中に、ユミリーナを狙う人がいるってことよね)
このままでは延々とユミリーナは狙われ続けるだろう。
ジョシュアは目の前に紅茶が用意されると、満足そうにそれを口に運んだ。
使用人たちが出て行くと、中途半端なところで話を止められてイライラしていたのか、フリーデリックが口を開く。
「王女は誰に狙われているんだ!」
「知らないよ、そんなこと。知っていたらさっさと捕えているに決まっているだろう。だけど、まさか王女が自分で毒を飲むはずもない。誰かに狙われない限り、ありえないだろう」
「……お前、気がついていたならなぜ言わなかった」
「言ったところで何になると? 聞き入れられないだけならましだが、妙な言いがかりをつけられて罪にでも問われたら最悪だからね。……アリシア嬢には悪いが、俺は、君を愛しているわけではない。君の命と自分の命、どちらが大切かと言われれば、自分の命を取る」
ジョシュアの突き放したような物言いに、フリーデリックは眉を顰めるが、アリシアは確かにそうだと納得する。人と自分の命、どちらが大切かなんて、わかりきっていることだ。
だから、アリシアのことをかばう人は――「あの人」を除いて、誰もいなかった。
率先して王の怒りを買いに行く人などいるはずがない。
唯一、アリシアをかばってくれた「あの人」も、今は遠いところにいる。
アリシアはジョシュアを見る。
ジョシュアがここに来たのは、アリシアのためではなく、友人で元上司のフリーデリックのためだろう。それでも、自ら来てくれことに、こうして思っていることを話してくれたことに、アリシアは感謝する。
彼が言わなければ、アリシアも気がつかないままだった。
「考えたところで、答えは簡単に出ないかもしれないだろうけどね――、この問題を解決しない限り、アリシア嬢に安らぎは訪れないよ。それこそ、死なない限りね」
ジョシュアは、しわくちゃの国王の手紙をフリーデリックに向かって投げた。
「それからこれも無視できない。無視したらどうなるか、わかっているだろう? 俺は別にアリシア嬢を本当に処刑しろとは言わない。でも、無視はできない。冷静になれと言ったのはそういうことだ。突っぱねるのは簡単だ。だが、そのあとどうなるかを考えろ。お前が反逆者にされた場合、いったい誰がアリシア嬢を守ると?」
頭に血が上ったままなら、いっそ海にでも飛び込んで頭を冷やしてこい――、ジョシュアは辛辣なことを言う。
ジョシュアはそれからアリシアに視線を向ける。
「君も、人生を諦めているのかもしれないけど、ここに一人、命を懸けても君を守りたいと思っている男がいることを忘れないでくれ。フリーデリックを許せと言っているわけじゃない。君にも思うところがたくさんあるだろう。それでも、安易に毒を飲むとか言うな。君たちは少し頭を使うべきだ」
アリシアはフリーデリックを見上げた。難しい顔をして唸っている、元騎士団長。
(……守ろうとして、くれているの?)
意地になって、フリーデリックのことを信じられないと突っぱねていた。でも、この人は本当にアリシアを守ろうとしてくれているのだろうか。
アリシアが毒を飲むと言ったときに――怒ってくれたように。
(どうしてそこまでするの……?)
どうして、アリシアをかばおうとするのだろうか。
どうして、アリシアを好きだと言ったのだろうか。
守ろうとするのは――どうして。
今まで演技だ、ユミリーナのためなのだと、言い訳して目を背けてきたフリーデリックの心が、今はじめてアリシアは気になった。
アリシアを好きだと言った心は本心だろうか。それならば、いったいいつ、アリシアを好きになってくれたのだろう。
「今すぐ答えを出せとは言わないよ。これからどうするのか、考える時間は必要だ。今すぐと陛下は言うが、別に明日明後日にアリシア嬢の遺体を持って登城しなかったからと言って、軍を率いて襲いかかるような愚かなことは、さすがにしないだろう」
俺もしばらくここにいるから、とりあえず今回の件をどう回避するか、作戦を練ろうか――、ジョシュアはそう言って立ち上がる。
「おなかすいた。実は昼飯を食べていないんだよね。何か食べさせて」
マイペースなことを言うジョシュアに、アリシアはフリーデリックと顔を見合わせて――、あれだけ緊張していたというのに、思わず吹き出してしまったのだった。
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