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悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~

狭山ひびき

騎士団長代理、来る 2

 長年副官を務めていた男の顔を見た瞬間、フリーデリックは嫌な予感がした。

 ジョシュアは表情の読みにくい男であるが、同じ年の彼は、フリーデリックが騎士団に所属した十六のころから一緒にいる親しい友人の一人である。つき合いが長いだけあって、フリーデリックは、ジョシュアの無表情の中の感情を読み取ることができた。

 フリーデリックは、ジョシュアがアリシアを見たときに、少し長めに瞬きをしていたのを見たのだ。

(……何かあったな)

 ジョシュアはアリシアにいい感情を持っていないが、逆にそれほど悪い感情も持っていない。ほとんど無関心に近いだろう。冷静な彼は、アリシアを捕えるときも感情に左右されず、ただ淡々と任務を遂行していたにすぎない。

(俺が、アリシアと結婚したいと言ったときも止めなかった。……一生好かれない覚悟はしろと言われたが……)

 そのジョシュアが、アリシアを見たときに、一瞬憐れんだようにフリーデリックには見えたのだ。

 心臓が嫌な音を立てる。

 国王はフリーデリックとの取引に乗じたが、今でもアリシアを疑っている。

 フリーデリックは、執務室のソファに座ってジョシュアに向きなおった。

「なにがあった?」

 訊ねれば、ジョシュアは銀縁の眼鏡の奥のはしばみ色の瞳を細めた。

「ユミリーナ様に――、毒が盛られた」

 フリーデリックは目を見開いた。

「またか?」

 また――、そう言うほどユミリーナは何度も毒を盛られていた。フリーデリックが知る限り、これで八度目だ。

 ごくりとフリーデリックは唾を飲み込む。

 ユミリーナに毒が盛られるたびに、フリーデリックはアリシアを捕えた。それだけではない。王女が何者かに城の池に突き落とされたり、――果ては、風邪を引いただけでも、王に命じられてフリーデリックはアリシアを捕えに行った。

 苦い記憶に、フリーデリックの眉間に深い皺が寄る。

 ジョシュアに、アリシアに一生好かれない覚悟をしろと言われた。わかっている。どれだけ好きだと告げたところで、アリシアはきっと一生フリーデリックを許さないだろう。

 でも――

「アリシアはずっとここにいた。ステビアーナ地方と王都は馬車で何時間もかかるほど距離がある。もし陛下がアリシアを疑っているのなら、おかど違いだ」

「そんな理屈が通じるなら、アリシア嬢ははじめから疑われてなどいない。魔女だ呪いだと言われるはずがないだろう」

「魔女に呪いか……。アリシアを疑う言葉はいつもそれだ」

 証拠がないと言っても呪いで片付けられる。ユミリーナのそばにいなかっただろうと言ったところで、魔女には常識は通じないと言われて、聞く耳を持たれなかった。

 最初は言われるまま、国王の言い分を疑いもせずにアリシアを追いかけて捕えていたフリーデリックには怒る資格はないのかもしれない。

 それでも悔しくて奥歯をかみしめていると、ジョシュアが一通の手紙を差し出した。

「陛下からだ」

 見れば、封蝋ふうろうは間違いなく国王の紋様。薄っぺらいその手紙を、フリーデリックは読む気にもなれなかったが、無視するわけにはいかないだろう。

「……陛下から内容は聞いているのか?」

「いや。ただ、それをお前に渡して来いとだけ」

 どうせろくでもない内容だとわかっているのか、ジョシュアが小さく嘆息した。

 フリーデリックは一度立ち上がり、机の上からペーパーナイフを取ると、国王の手紙の封を切る。

 中に入っていた手紙は、一枚。

 その短い手紙にさっと視線を走らせたフリーデリックは、読み終えるや否や、ぐしゃりと手紙を握りつぶした。

「――ふざけるな……!」

 怒りを押し殺したような元上司の声に、ジョシュアがそっと瞑目する。

 フリーデリックは、ダン! と目の前のローテーブルに拳をぶつけた。

「アリシアを今すぐ処刑してその遺体を差し出せだと!? ふざけるにもほどがあるッ!」

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