悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
町の人と交流します! 10
必要ないと言ったのに、フリーデリックはアリシアについて行くと言ってきかなかった。
アリシアも、力仕事はフリーデリックがいた方が助かるので無理に拒絶せず、彼とともに町に向かう。
城の前に来ていた人は、一足先に町に戻ってもらった。
(先にクララの診療所ね!)
ハーブや薬草をもらいたいし、できれば彼女にも手伝ってもらいたい。
前世で看護師としての経験があるとはいえ、この世界の勝手はまったく違う。そもそも氷もなければ調合された薬もない。どの程度役に立てるかわからなかったが、それでもアリシアは、自分を頼って来てくれた人にできる限りのことをしてあげたかった。
アリシアが町につくと、クララはすでに診療所の前に立って彼女を待っていた。
「アリシア様! ごめんなさい、まさか、みんながアリシア様のところに行くとは思わなくて……」
ついうっかり、昨日アリシアが処理をしたことを、みんなに話してしまったらしい。クラゲに刺された男自身も「アリシア様に助けられた!」と言い、その話が瞬く間に町の中に広まったのだという。
「マリーさんのところの男の子――ダナンくんは昨日から熱が高くて、なかなか下がらないんです。ペーニャさんのところのおじいちゃんは畑を耕していて腰を痛めたらしくて、イヴァンカさんのところの旦那さんは――」
診療所の中に入りながら、クララが順番に状況を説明してくれる。
薬草は好きに使っていいと言われたので、診療所の中から必要なものを選び、所在なさげに立ち尽くしているフリーデリックに持たせた。
「騎士団長、これと、これも。それから井戸で水を汲んできてくださいな。終わったらお湯を沸かしてほしいんですの」
「あ、お湯ならあたしが用意します!」
「ありがとうクララ。それではダナンくんだったかしら? 彼のところに先に向かいますわ。お家はどこですの!」
「あ、マリーさんの家は――」
アリシアはまず、五歳の男の子のダナンのもとへ向かった。母親であるマリーによると、熱は高いが、寒がる様子はないという。これ以上熱は上がらないだろうと判断したアリシアは、井戸の水で濡らして硬く絞った布をダナンの額にのせる。鼻が詰まって息苦しそうなので、すりつぶしたミントを胸に塗って、城から持って来た蜂蜜とシナモンを混ぜて食べさせた。
「これを、朝昼晩と木匙一杯程度ずつ食べさせてあげてくださいな。のどの痛みも落ち着きますし、じきによくなるはずですわ。それから、ミントには解熱作用がありますから、子供は少し苦手かもしれませんけど、できればお茶にして飲ませてあげてほしいんですの。熱が続くようなら、また教えてくださいな」
アリシアはマリーに蜂蜜とシナモンを混ぜたものを渡して、ダナンの頭を撫でて「すぐによくなるから、大丈夫ですわ」とにっこりと微笑み、マリーの家を出た。
「……詳しいんだな」
次にペーニャの家に向かっていると、フリーデリックが感心したように言った。
「たまたまですわ」
フリーデリックに褒められると気恥ずかしくなって、それを知られたくなくて、ツンと取り澄ましてしまうのはなぜだろう。
ペーニャの家に行く途中で井戸に寄って、フリーデリックが新しい水をくみ上げるのを待つ。
太い腕は、軽々と深い井戸の底から水をくみ上げて、木桶を水で満たしていく。
大きな手は、剣を使うせいか、皮が厚いことをアリシアは知っていた。
彼の手に、何度捕えられたことだろう。
そのたびにアリシアは数えきれないほど絶望し――、そのうちその気持ちすら失っていた。
フリーデリックのあの手が怖かったな――、ぼんやりとさほど昔でもない昔を思い出していたアリシアは、ふとあることに気がついた。
いつも容赦なくアリシアを捕えに来たフリーデリック。しかし、そういえば半年前ほどから、彼の様子が少し変だった。
アリシアは、フリーデリックに手首をつかまれるのが嫌だった。痛いからだ。だが、半年ほど前からだろうか、そう言えばフリーデリックに手首を掴まれた時に、痛みを感じなくなっていた。
アリシアは自分の細い手首を見下ろす。
もともと細かったアリシアだが、使用人がいなくなってろくなものを食べていなかったせいか、もっと細くなっていた。
(……痛くないどころか、なんだか、手をつなぐように優しかった気がするわ)
それは、気のせいだろうか?
アリシアはフリーデリックの顔を見るたびに緊張で体が強張っていたので、今まで全く気にも留めていなかったが、改めて思い出してみると妙だった。
アリシアが逃げないとわかったから手加減してくれたのだろうか。よくわからない。
「どうした? まさか、腕が痛いのか?」
水を汲み終えたフリーデリックが、手首を見つめるアリシアに気がついて、さっと顔色を変えた。
「見せてみろ! ひねったか? だから荷物は俺が全部持つと言ったのに。そんな細い腕で重たいものを持っては駄目だ。その蜂蜜の瓶もかしてみろ」
残った蜂蜜の入った壺は全然重たくない。しかし、フォークよりも重たいものを持たせては駄目だとでもいうのか、フリーデリックがアリシアから蜂蜜の入った壺を取り上げた。
アリシアはあきれてフリーデリックを見上げた。
「そんなもの、重たくありませんわ。手首なんて痛めていません」
「いいから俺が持つ。その布も……」
「この布なんて、羽のように軽いですわ!」
「いや、羽よりは絶対重いぞ。やはり俺が持つ」
水の入った桶や薬草の束、蜂蜜の壺までもっているのにアリシアの持つ布まで取り上げて、フリーデリックは満足そうに笑う。
そんなことをされては、大切にされていると勘違いをしてしまう。
フリーデリックは、ユミリーナのためにアリシアと結婚しようとしているはずなのに――、これではまるで、本当にアリシアのことが好きなのかもと思ってしまう。
フリーデリックの笑顔に、アリシアは意地を張って荷物を持つと言えなくなってしまい、
「……騎士団長は、過保護……ですわ」
ちょっぴり文句を言うように、ほんのり頬を染めてつぶやいた。
アリシアも、力仕事はフリーデリックがいた方が助かるので無理に拒絶せず、彼とともに町に向かう。
城の前に来ていた人は、一足先に町に戻ってもらった。
(先にクララの診療所ね!)
ハーブや薬草をもらいたいし、できれば彼女にも手伝ってもらいたい。
前世で看護師としての経験があるとはいえ、この世界の勝手はまったく違う。そもそも氷もなければ調合された薬もない。どの程度役に立てるかわからなかったが、それでもアリシアは、自分を頼って来てくれた人にできる限りのことをしてあげたかった。
アリシアが町につくと、クララはすでに診療所の前に立って彼女を待っていた。
「アリシア様! ごめんなさい、まさか、みんながアリシア様のところに行くとは思わなくて……」
ついうっかり、昨日アリシアが処理をしたことを、みんなに話してしまったらしい。クラゲに刺された男自身も「アリシア様に助けられた!」と言い、その話が瞬く間に町の中に広まったのだという。
「マリーさんのところの男の子――ダナンくんは昨日から熱が高くて、なかなか下がらないんです。ペーニャさんのところのおじいちゃんは畑を耕していて腰を痛めたらしくて、イヴァンカさんのところの旦那さんは――」
診療所の中に入りながら、クララが順番に状況を説明してくれる。
薬草は好きに使っていいと言われたので、診療所の中から必要なものを選び、所在なさげに立ち尽くしているフリーデリックに持たせた。
「騎士団長、これと、これも。それから井戸で水を汲んできてくださいな。終わったらお湯を沸かしてほしいんですの」
「あ、お湯ならあたしが用意します!」
「ありがとうクララ。それではダナンくんだったかしら? 彼のところに先に向かいますわ。お家はどこですの!」
「あ、マリーさんの家は――」
アリシアはまず、五歳の男の子のダナンのもとへ向かった。母親であるマリーによると、熱は高いが、寒がる様子はないという。これ以上熱は上がらないだろうと判断したアリシアは、井戸の水で濡らして硬く絞った布をダナンの額にのせる。鼻が詰まって息苦しそうなので、すりつぶしたミントを胸に塗って、城から持って来た蜂蜜とシナモンを混ぜて食べさせた。
「これを、朝昼晩と木匙一杯程度ずつ食べさせてあげてくださいな。のどの痛みも落ち着きますし、じきによくなるはずですわ。それから、ミントには解熱作用がありますから、子供は少し苦手かもしれませんけど、できればお茶にして飲ませてあげてほしいんですの。熱が続くようなら、また教えてくださいな」
アリシアはマリーに蜂蜜とシナモンを混ぜたものを渡して、ダナンの頭を撫でて「すぐによくなるから、大丈夫ですわ」とにっこりと微笑み、マリーの家を出た。
「……詳しいんだな」
次にペーニャの家に向かっていると、フリーデリックが感心したように言った。
「たまたまですわ」
フリーデリックに褒められると気恥ずかしくなって、それを知られたくなくて、ツンと取り澄ましてしまうのはなぜだろう。
ペーニャの家に行く途中で井戸に寄って、フリーデリックが新しい水をくみ上げるのを待つ。
太い腕は、軽々と深い井戸の底から水をくみ上げて、木桶を水で満たしていく。
大きな手は、剣を使うせいか、皮が厚いことをアリシアは知っていた。
彼の手に、何度捕えられたことだろう。
そのたびにアリシアは数えきれないほど絶望し――、そのうちその気持ちすら失っていた。
フリーデリックのあの手が怖かったな――、ぼんやりとさほど昔でもない昔を思い出していたアリシアは、ふとあることに気がついた。
いつも容赦なくアリシアを捕えに来たフリーデリック。しかし、そういえば半年前ほどから、彼の様子が少し変だった。
アリシアは、フリーデリックに手首をつかまれるのが嫌だった。痛いからだ。だが、半年ほど前からだろうか、そう言えばフリーデリックに手首を掴まれた時に、痛みを感じなくなっていた。
アリシアは自分の細い手首を見下ろす。
もともと細かったアリシアだが、使用人がいなくなってろくなものを食べていなかったせいか、もっと細くなっていた。
(……痛くないどころか、なんだか、手をつなぐように優しかった気がするわ)
それは、気のせいだろうか?
アリシアはフリーデリックの顔を見るたびに緊張で体が強張っていたので、今まで全く気にも留めていなかったが、改めて思い出してみると妙だった。
アリシアが逃げないとわかったから手加減してくれたのだろうか。よくわからない。
「どうした? まさか、腕が痛いのか?」
水を汲み終えたフリーデリックが、手首を見つめるアリシアに気がついて、さっと顔色を変えた。
「見せてみろ! ひねったか? だから荷物は俺が全部持つと言ったのに。そんな細い腕で重たいものを持っては駄目だ。その蜂蜜の瓶もかしてみろ」
残った蜂蜜の入った壺は全然重たくない。しかし、フォークよりも重たいものを持たせては駄目だとでもいうのか、フリーデリックがアリシアから蜂蜜の入った壺を取り上げた。
アリシアはあきれてフリーデリックを見上げた。
「そんなもの、重たくありませんわ。手首なんて痛めていません」
「いいから俺が持つ。その布も……」
「この布なんて、羽のように軽いですわ!」
「いや、羽よりは絶対重いぞ。やはり俺が持つ」
水の入った桶や薬草の束、蜂蜜の壺までもっているのにアリシアの持つ布まで取り上げて、フリーデリックは満足そうに笑う。
そんなことをされては、大切にされていると勘違いをしてしまう。
フリーデリックは、ユミリーナのためにアリシアと結婚しようとしているはずなのに――、これではまるで、本当にアリシアのことが好きなのかもと思ってしまう。
フリーデリックの笑顔に、アリシアは意地を張って荷物を持つと言えなくなってしまい、
「……騎士団長は、過保護……ですわ」
ちょっぴり文句を言うように、ほんのり頬を染めてつぶやいた。
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