悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~

狭山ひびき

町の人と交流します!7

 クララの診療所が思ったよりも大丈夫そうで、ホッとしたアリシアだったが――、事件は次の日の朝に起こった。

 ふかふかのベッドの上で心地のいい眠りの中にいたアリシアは、バタバタという足音で目を覚ました。

 なんだか、今朝は妙に騒がしい。

「……まだ、朝早いじゃないの」

 カーテンの隙間から若干の明かりは漏れているが、まだまだ日差しと呼べるほど強くもない。ようやく夜が明けようかという、淡い光だ。

(なんなの、いったい……)

 アリシアはのろのろとベッドから這い出ると、夜着の上にショールを羽織り、部屋の扉を開けた。

「ああ! アリシア様!」

 アリシアが扉を開けると、すぐ近くにいたメイドが箒をさかさまに持ったまま立ち止まった。

 箒をさかさまに持って、いったい何をしているのか。

 アリシアがぽかんとしていると、メイドは慌てたように、アリシアを部屋に押し込もうとした。

「アリシア様! 大丈夫です! ここは、わたしたちがなんとかいたしますから、どうぞ、安心してお休みください!」

「……はい?」

「心配なさらないでください! 先ほど旦那様もお呼びしたそうです! じきに騒ぎは収まりますわ!」

「……なんの?」

「所詮十人そこら! すぐに追い払って見せます!」

「ごめんなさい、わかるように説明していただけないかしら?」

 全然話がかみ合わずに、アリシアは頭痛を覚えた。

「え……、アリシア様、気づかれたから起きてこられたのでは……」

「だから、なににですの?」

 アリシアが再び問えば、メイドはさーっと顔色を青くした。

 途端にメイドはおろおろしはじめると、「わ、わたしは急いでいるので!」と、走って逃げていく。

(……なんなの、いったい?)

 一人部屋の前に取り残されてしまったアリシアが茫然と立ち尽くしていると、「あらあら」という声とともにジーンがあらわれた。

「アリシア様、こんなところでどうなさいましたの?」

 アリシアはジーンを見てホッとした。彼女ならば事情を知っているだろう。

「ジーン、なんだか騒がしいみたいだけど、いったい何の騒ぎですの?」

 ジーンは困った顔をした。

「ご説明いたしますから、まず、着替えましょう。その格好で部屋の外にいるのはよろしくありませんもの」

 アリシアは自分の格好を見下ろし、それもそうだと、ジーンとともに部屋に戻る。

 顔を洗い、ジーンに手伝ってもらってシンプルな黒いドレスに着替えながら、アリシアはジーンから事情を聞き出した。

「え? 町の人が押し寄せているんですの!?」

「押し寄せているというほどでは……。数にしたら十人程度ですわ」

「十人でも充分多いですわ。いったいどうして……」

 ジーンはふう、と息を吐きだした。

「それが、わたくしにも理由はよく……。ただ――」

「ただ?」

 ジーンは言いにくそうに口を閉ざしてから、渋々と言った様子で続けた。

「彼らは、アリシア様を出せ、と」

 ああ――

 アリシアはジーンの言葉を聞いて、両手で顔を覆った。

(ここでも、なの……)

 ここは大丈夫だと思っていた。アリシアが王女に害をなしたという噂は、ここまでは届いていないと思っていた。

 町の人たちは優しく、アリシアを温かく迎え入れてくれたと思っていたのに。

(どこにいても、結局は同じなのね)

 アリシアは泣きたくなる。

 きっと誰かが、アリシアの噂を知っていたのだろう。

 噂が広まるのがどれほど早いか、アリシアは痛いほど知っていた。

 アリシアが悪徳令嬢と呼ばれていることを知った町の人たちは、アリシアをこの地から追いやるために来たに違いない。

 アリシアが顔を覆ったまま動けなくなっていると、ジーンがアリシアをぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫ですわ! フリーデリック様が人々を説得しに向かいましたもの。じきに収まります。アリシア様は何も気になさらなくて大丈夫なのですわ!」

「でも……」

 アリシアはきゅっと唇をかむ。

 一か月だけ、自由がほしかった。でも、こうなってしまっては、アリシアがいるとみんなに迷惑がかかる。

(やっぱり、この世界で生きていたらだめなんだわ……)

 アリシアは顔をあげると、大きく深呼吸をした。

 城のみんなや、フリーデリックに迷惑はかけられない。

「ジーン、町の人が来ているのは、城の門のところかしら?」

「え、ええ……、門は閉めていますから、正確には門の外ですけれど……って、まさかアリシア様、向かうつもりですか!?」

 驚愕に目を見開くジーンに向かって、アリシアは一つ頷いた。

「行くわ。だって、わたしのせいだもの」

 アリシアは震える手をきつく握りしめて、ジーンに向かって「大丈夫よ」と無理やり笑顔を作って見せた。

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