悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~

狭山ひびき

町の人と交流します!3

デート。

フリーデリックと、デート。

どうしてこんなことになったのだろうとアリシアは頭を抱えた。

アリシアは考えごとをしていてまったく聞いていなかったが、フリーデリックはアリシアを一生懸命デートに誘っていたらしい。

奇しくも行きたいと思っていた町まで出向かないかと熱心に誘っていたようだが、ぼそぼそとした彼の声はアリシアの耳には全く入らず、ジーンの叱責によってアリシアの耳に届いた直後には、すでにジーンの中でデートは決定していた。

アリシアが断る間もなく、うきうきとしたジーンが料理長にバスケットに入れる軽食のサンドイッチを頼んでいた。

さあさあ、とジーンに背中を押されて部屋に戻ったアリシアは、真っ白でつばの大きな帽子を用意され、長い髪はまとめられた。

(……断る暇もなかった……)

こうして、アリシアは今、げんなりとした顔で馬車に座っている。

アリシアの向かいには座るフリーデリックはにこにこと微笑んでいた。

(何が楽しいのかしら……?)

アリシアにはフリーデリックがわからない。彼の笑顔はこの地に来るまで見たことがなかったし、むしろいつも仏頂面で、アリシアを嫌っているのがひしひしと伝わってくるような態度を取られていた。

「それほど大きな町ではないが、のどかでいいところなんだ。近くの海で真珠が取れるから、加工場がある。もし気に入ったものがあれば言ってくれ」

「はあ」

アリシアはため息のような返事をして、馬車の小さな窓から外を見やった。

たとえほしいものがあっても、アリシアがフリーデリックにものをねだることはないだろう。一月後に死のうとしているのに、物を買う必要はどこにもない。

(そこまで必死にわたしの気を引こうとしなくても大丈夫よ。あなたの大切なユミリーナに危害を加えるつもりは、今も昔もこれっぽっちもないもの……)

そう言ったところで、フリーデリックは信じないだろうが。

「ユミリーナ王女は今、どうしているのかしら?」

訊ねたことは、特に何の意図もなかった。ただなんとなくユミリーナを思い出して、今どうしているのかと気になっただけだ。

ユミリーナが隣国の王子と婚約したことまでは知っている。逆に言えば、それしか知らなかった。

(あの王子と結婚して、ユミリーナは幸せになれるのかしらね?)

アリシアには到底そうとは思えなかったが、そこは小説で描かれていたヒロインとヒーローだ。書かれていた通り、生涯幸せに暮らすのだろう。

もはや、アリシアには関係のない話だ。気になってしまったのは、なんとなく、知っている小説の中と今この現実とが、違うような気がしてきたから。

少なくとも、アリシアがフリーデリックに求婚されるようなストーリーはなかった。

「王女は、半年後に隣国に嫁がれるそうだ。王子も頻繁に王女に会いに来られているし、幸せなのだと思う」

フリーデリックは平然とした態度で答えた。しかし、そのあとすぐに眉を寄せると、心配そうにアリシアの顔を見る。

「その……、すまない。無神経だっただろうか?」

「え?」

「いや……、だって君は、王子のことが好き……なのだろう?」

「……は?」

アリシアは目を丸くした。

「王子のことが好き? 冗談にもほどがありますわ」

「し、しかし、王子自身が、そう言っていたし……」

アリシアは舌打ちしたくなった。プライドだか何だか知らないが、王子はまだそんな嘘を吹聴しているのか。いい迷惑だ。

「わたしが王子のことを好きだったことは、今まで一度も、一瞬たりともございません」

きっぱりと告げると、フリーデリックは困惑したようだった。

「だ、だが……、それでは……」

それでは、なんだろうか? それでは、ユミリーナに危害を加えようとした理由がわからない? それとも、王子が嘘を言っていることになる?

もしくは――、フリーデリックがアリシアと結婚しようとする理由がなくなる?

なんだっていい。何だっていいが、勝手に勘違いして勝手に人を悪者にし、――勝手に自己犠牲的陶酔に浸ったのは、そちらの方だ。アリシアには関係ない。勝手なことを言わないでほしかった。

「あちらが勝手に言い出したことです。わたしはあんな軽薄そうな王子は好きではありませんわ。むしろ大嫌いです」

王子を侮辱したと、不敬罪に問うなら好きにすればいい。どうせ一月後には命を絶つ覚悟を決めているのだ。このまま勝手に勘違いされているよりはよほどいい。

どこか投げやりにアリシアが答えれば、なぜかフリーデリックは嬉しそうな表情をうかべた。

「そ、そうか! てっきり君は王子が好きなのだと思っていたが、違ったのか……」

「何度も言うようですが、あんな男は大嫌いです」

「じゃあ、俺は?」

「……何をおっしゃっているのか、理解に苦しみますわ」

「俺は、君が好きだ!」

もう何度目になるのかもわからない言葉に、アリシアはため息をつきたくなる。

その好きが信じられないと返したところで、また無意味な応酬がはじまるだけだろう。

アリシアはフリーデリックの言葉に返事をするのをやめ、ただ黙って、窓の外の流れる景色を眺めることにした。

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