【電子書籍化、コミカライズ】悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
結婚はお断りです!3
「あなたとの結婚なんて、死んでもお断りですわ……!」
アリシアはフリーデリックを睨みつけてそう叫んだ。
「さあ、さっさとわたしを磔にしなさいな! さあ……!」
アリシアは鉄の十字架に細い指を突きつけて、フリーデリックに向かって怒鳴った。
「この期に及んで馬鹿にするなんて、いくら何でも許せませんわ! くだらないことを言ってわたしの反応を見たかったんですの!? 馬鹿にしないで! さあ、早く処刑しなさい! 今すぐに!」
怒り狂うアリシアを前に、フリーデリックは悲しそうに瞳を揺らす。だが、アリシアはそんな演技に騙されるつもりはなかった。
「いいですわ、あなたがしないと言うのであれば、わたしは自分で死にます」
アリシアはくるりとフリーデリックに背を向ける。
高い十字架に自らよじ登るのは不可能だ。だが、目の前には崖がある。高い崖から海に落ちれば、簡単に死ぬことができるだろう。むしろ舌をかんで死ぬよりも楽な死に方だ。
アリシアはずんずんと岬の先の方に向けて歩いていく。
「アリシア……!」
アリシアが何をしようとしているのかに気がついたフリーデリックが慌ててアリシアに手を伸ばして拘束した。
「気安く呼び捨てにしないで!」
アリシアはフリーデリックの腕から逃れようと暴れたが、鍛え抜かれた彼の腕はびくともしない。
悔しくなって唇をかみしめていると、逃がすまいとでもいうのか、フリーデリックの腕の力が強くなる。
「俺は……、君を馬鹿になんてしていない」
「じゃあなんですの? 助かると期待させて、そのあと絶望にでも叩き落したかったと? 残念ですわね。絶望するような心なんて、とうの昔に失っているんですのよ! わたしにもう心なんてないの!」
アリシアにあったのは、もう、諦めだけだった。絶望なんてしない。期待なんてしない。残念だったわね、おあいにく様!
「しかし、今君は怒っている」
「あなたが怒らせたんですわ!」
「怒っているのだから、君に心はあるのだろう?」
「揚げ足なんて取らなくて結構!」
「揚げ足じゃない。君が、自分の心はないと言うから……」
「わたしの心が何ですの! あろうがなかろうが、あなたには関係ないでしょう!」
「俺は君が好きだ」
「―――」
アリシアは大きく息を呑む。
「君が好きだ。本当だ。嘘じゃない。本当に結婚したいから、求婚した」
ゆっくりと腕の力を緩めたフリーデリックがアリシアの顔を覗き込む。
「君が好きだ。今まで、君を追い回して、ひどいことをして、本当にすまなかったと思っている。だが、この気持ちは本当だ。本当に、君のことが――」
「ふざけないで!」
アリシアはフリーデリックの腕を振りほどいた。力が緩んでいたからか、今度は簡単に振りほどける。
「ふざけてなどいない」
至極真面目な顔で言うフリーデリックが憎たらしかった。
風が吹く。
アリシアの豊かな金髪が、ふわりと宙を舞った。
ドレスの裾がはためいて、日差しを浴びて立つアリシアの顔は怒りに染まっている。
しかし、フリーデリックは、まるで女神を見たかのような恍惚とした表情を浮かべた。
「結婚してくれ」
なおも言うフリーデリックに、アリシアの怒りは爆発寸前だった。
このまま崖から飛び降りてしまいたい。けれども、フリーデリックはそれを簡単に阻止してしまうだろう。
では、どうすればいいというのか。
このままずっと、ここで押し問答を続けていろと言うのか。
アリシアの肩が怒りで震える。
好きだというのに、今まで一度もアリシアをかばいもしなかったくせに。蔑んだ目で見て、罵声を浴びせかけ、抵抗していないのに力いっぱい引きずったくせに。
どの口が「好き」だと?
許せない――
「あなたなんて嫌い」
アリシアはフリーデリックを睨みつけて、低く告げる。
「嫌い。大嫌い。結婚してくれなんて、よくそんなことが言えますわね。あなたのその言葉の、何を信じろと言うのですの?」
「嘘じゃない。信じられないと言うのならばそれでもいい。でも、嘘じゃない。本当だ」
アリシアの言葉に傷ついた表情を浮かべながら、フリーデリックは静かに返す。
「好きだ」「信じられない」そんな応酬をくり返していると、突然、パンパンと乾いた音が聞こえて二人は振り向いた。
「はいはい、もうそのくらいになさいませ」
どうやら、音は手を叩いた音のようだった。
こちらへ向かってゆっくりと歩いてくる五十手前ほどの女性が、目尻に皺を寄せて、にこにこと人のよさそうな笑顔を浮かべていた。
「まったく、聞いていれば好きだ好きだと馬鹿の一つ覚えみたいに。そんな言葉で気持ちが伝わるはずもないでしょうに。お伝えするなら、お嬢様のどんなところがどういう風に好きなのか、きちんとご説明しませんと。本当に、そう言うところは子供のままなのですから、仕方がありませんわね」
「ジーン」
フリーデリックが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
ジーンと呼ばれた女性は、にっこりとアリシアに微笑みを向ける。
「はじめまして、お嬢様。フリーデリック様の乳母を務めておりましたジーンと申します」
丁寧に頭を下げられて、アリシアの中の怒りが急速にしぼんでいく。アリシアも慌てて裾を持ち上げて挨拶をすれば、ジーンはおっとりと頬に手を当てた。
「お二人とも、お話に夢中になるのはよろしいですが、風が強いので一度中に入られてはいかがでしょう?」
「……中?」
アリシアは細い首を傾げた。
ジーンは頷いて、奥に見える古城を指す。
「中、ですわ」
人の気配の全くしない古びた城を見やって、アリシアはパチパチと目を瞬いた。
アリシアはフリーデリックを睨みつけてそう叫んだ。
「さあ、さっさとわたしを磔にしなさいな! さあ……!」
アリシアは鉄の十字架に細い指を突きつけて、フリーデリックに向かって怒鳴った。
「この期に及んで馬鹿にするなんて、いくら何でも許せませんわ! くだらないことを言ってわたしの反応を見たかったんですの!? 馬鹿にしないで! さあ、早く処刑しなさい! 今すぐに!」
怒り狂うアリシアを前に、フリーデリックは悲しそうに瞳を揺らす。だが、アリシアはそんな演技に騙されるつもりはなかった。
「いいですわ、あなたがしないと言うのであれば、わたしは自分で死にます」
アリシアはくるりとフリーデリックに背を向ける。
高い十字架に自らよじ登るのは不可能だ。だが、目の前には崖がある。高い崖から海に落ちれば、簡単に死ぬことができるだろう。むしろ舌をかんで死ぬよりも楽な死に方だ。
アリシアはずんずんと岬の先の方に向けて歩いていく。
「アリシア……!」
アリシアが何をしようとしているのかに気がついたフリーデリックが慌ててアリシアに手を伸ばして拘束した。
「気安く呼び捨てにしないで!」
アリシアはフリーデリックの腕から逃れようと暴れたが、鍛え抜かれた彼の腕はびくともしない。
悔しくなって唇をかみしめていると、逃がすまいとでもいうのか、フリーデリックの腕の力が強くなる。
「俺は……、君を馬鹿になんてしていない」
「じゃあなんですの? 助かると期待させて、そのあと絶望にでも叩き落したかったと? 残念ですわね。絶望するような心なんて、とうの昔に失っているんですのよ! わたしにもう心なんてないの!」
アリシアにあったのは、もう、諦めだけだった。絶望なんてしない。期待なんてしない。残念だったわね、おあいにく様!
「しかし、今君は怒っている」
「あなたが怒らせたんですわ!」
「怒っているのだから、君に心はあるのだろう?」
「揚げ足なんて取らなくて結構!」
「揚げ足じゃない。君が、自分の心はないと言うから……」
「わたしの心が何ですの! あろうがなかろうが、あなたには関係ないでしょう!」
「俺は君が好きだ」
「―――」
アリシアは大きく息を呑む。
「君が好きだ。本当だ。嘘じゃない。本当に結婚したいから、求婚した」
ゆっくりと腕の力を緩めたフリーデリックがアリシアの顔を覗き込む。
「君が好きだ。今まで、君を追い回して、ひどいことをして、本当にすまなかったと思っている。だが、この気持ちは本当だ。本当に、君のことが――」
「ふざけないで!」
アリシアはフリーデリックの腕を振りほどいた。力が緩んでいたからか、今度は簡単に振りほどける。
「ふざけてなどいない」
至極真面目な顔で言うフリーデリックが憎たらしかった。
風が吹く。
アリシアの豊かな金髪が、ふわりと宙を舞った。
ドレスの裾がはためいて、日差しを浴びて立つアリシアの顔は怒りに染まっている。
しかし、フリーデリックは、まるで女神を見たかのような恍惚とした表情を浮かべた。
「結婚してくれ」
なおも言うフリーデリックに、アリシアの怒りは爆発寸前だった。
このまま崖から飛び降りてしまいたい。けれども、フリーデリックはそれを簡単に阻止してしまうだろう。
では、どうすればいいというのか。
このままずっと、ここで押し問答を続けていろと言うのか。
アリシアの肩が怒りで震える。
好きだというのに、今まで一度もアリシアをかばいもしなかったくせに。蔑んだ目で見て、罵声を浴びせかけ、抵抗していないのに力いっぱい引きずったくせに。
どの口が「好き」だと?
許せない――
「あなたなんて嫌い」
アリシアはフリーデリックを睨みつけて、低く告げる。
「嫌い。大嫌い。結婚してくれなんて、よくそんなことが言えますわね。あなたのその言葉の、何を信じろと言うのですの?」
「嘘じゃない。信じられないと言うのならばそれでもいい。でも、嘘じゃない。本当だ」
アリシアの言葉に傷ついた表情を浮かべながら、フリーデリックは静かに返す。
「好きだ」「信じられない」そんな応酬をくり返していると、突然、パンパンと乾いた音が聞こえて二人は振り向いた。
「はいはい、もうそのくらいになさいませ」
どうやら、音は手を叩いた音のようだった。
こちらへ向かってゆっくりと歩いてくる五十手前ほどの女性が、目尻に皺を寄せて、にこにこと人のよさそうな笑顔を浮かべていた。
「まったく、聞いていれば好きだ好きだと馬鹿の一つ覚えみたいに。そんな言葉で気持ちが伝わるはずもないでしょうに。お伝えするなら、お嬢様のどんなところがどういう風に好きなのか、きちんとご説明しませんと。本当に、そう言うところは子供のままなのですから、仕方がありませんわね」
「ジーン」
フリーデリックが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
ジーンと呼ばれた女性は、にっこりとアリシアに微笑みを向ける。
「はじめまして、お嬢様。フリーデリック様の乳母を務めておりましたジーンと申します」
丁寧に頭を下げられて、アリシアの中の怒りが急速にしぼんでいく。アリシアも慌てて裾を持ち上げて挨拶をすれば、ジーンはおっとりと頬に手を当てた。
「お二人とも、お話に夢中になるのはよろしいですが、風が強いので一度中に入られてはいかがでしょう?」
「……中?」
アリシアは細い首を傾げた。
ジーンは頷いて、奥に見える古城を指す。
「中、ですわ」
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