王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました
空飛ぶ木馬 1
月の神が住まう世界――月の宮で、一番大きな火山の麓にある洞窟を住処にしている妖精の「翁」はほくほくと笑いながら真っ白な髭をなでた。
目の前には仔馬ほどの大きさの木馬がでーんとおいてある。
妖精の翁の何倍も、何十倍も大きい木馬である。
木馬には小さな羽が生えていた。
(なかなかのできじゃ)
翁は木馬の周りをぐるぐる飛び回って、満足そうに何度も頷く。
これは、翁の発明によって生み出された木馬だった。
翁の趣味は研究で、新しい不思議なアイテムを作り出すことだ。
部屋の中には不思議な力を持ったアイテムがごろごろと転がっている。
「おきなー」
「あそびにきたよー」
「げんきー?」
「これ、えれのあからー」
「きょうは、まどれーぬなんだってー」
「たべてたべてー」
「はちみつたっぷりでおいしいのー」
翁が一人、研究成果にほくそ笑んでいると、突然、妖精たちが翁の家の中になだれ込んできた。
翁は彼らの声を聞いた瞬間、大慌てで木馬を隠そうとしたが、大きすぎるので運び出すことができなかった。
「おきなー、その木のうま、なに?」
「おおきー」
「あ、ちっちゃいつばさがあるー」
「なににつかうのー?」
「ねーねー」
雪崩れ込んできた妖精たちは、見たことのない木馬に興味を示したらしい。途端に木馬を取り囲んだ妖精たちに、翁は慌てた。
この、月の宮殿に住む妖精たちが、以前翁の大切な発明アイテム――、過去を覗くことのできる鏡を盗んでいったことを、翁は忘れていないのである。
「これ、さわるんじゃない! これはただの置物じゃ!」
「うそだー」
「おきなが、ふつうのもくばなんて作るはずないもん」
「ねー、どんなふしぎがあるのー?」
「おもしろいー?」
「もしかして、しゃべるのー?」
「ねーねー」
好奇心旺盛な妖精たちが、素直に引き下がるはずもない。
翁は「ぐぬぬ……」と唸る。
(教えなかったら教えなかったで悪さをするのはわかっとる。……今回のこれは、まあ、こいつらが面白がるようなもんでもないかのぅ)
勝手に触られて壊されるよりは、諦めて教えた方がいい。翁はそう判断して、やれやれと肩をすくめた。
「別に面白いもんではないわい。これはな、空飛ぶ木馬じゃ」
「そらとぶ、もくば?」
「とぶのー?」
「このうま?」
「そうじゃ。おぬしらは、自分で飛べるんじゃから、この木馬なんて必要ないじゃろう?」
そう。自分で飛べる妖精たちが、空飛ぶ木馬を欲しがるはずはない。
翁は手土産だというマドレーヌを受け取って、ミルクを取りに奥に向かう。
そして、翁がミルクを片手に戻って来たとき――
「またやりおった! あやつらめ!」
空飛ぶ木馬は、月の宮殿の妖精たちとともに忽然と姿を消していた。
目の前には仔馬ほどの大きさの木馬がでーんとおいてある。
妖精の翁の何倍も、何十倍も大きい木馬である。
木馬には小さな羽が生えていた。
(なかなかのできじゃ)
翁は木馬の周りをぐるぐる飛び回って、満足そうに何度も頷く。
これは、翁の発明によって生み出された木馬だった。
翁の趣味は研究で、新しい不思議なアイテムを作り出すことだ。
部屋の中には不思議な力を持ったアイテムがごろごろと転がっている。
「おきなー」
「あそびにきたよー」
「げんきー?」
「これ、えれのあからー」
「きょうは、まどれーぬなんだってー」
「たべてたべてー」
「はちみつたっぷりでおいしいのー」
翁が一人、研究成果にほくそ笑んでいると、突然、妖精たちが翁の家の中になだれ込んできた。
翁は彼らの声を聞いた瞬間、大慌てで木馬を隠そうとしたが、大きすぎるので運び出すことができなかった。
「おきなー、その木のうま、なに?」
「おおきー」
「あ、ちっちゃいつばさがあるー」
「なににつかうのー?」
「ねーねー」
雪崩れ込んできた妖精たちは、見たことのない木馬に興味を示したらしい。途端に木馬を取り囲んだ妖精たちに、翁は慌てた。
この、月の宮殿に住む妖精たちが、以前翁の大切な発明アイテム――、過去を覗くことのできる鏡を盗んでいったことを、翁は忘れていないのである。
「これ、さわるんじゃない! これはただの置物じゃ!」
「うそだー」
「おきなが、ふつうのもくばなんて作るはずないもん」
「ねー、どんなふしぎがあるのー?」
「おもしろいー?」
「もしかして、しゃべるのー?」
「ねーねー」
好奇心旺盛な妖精たちが、素直に引き下がるはずもない。
翁は「ぐぬぬ……」と唸る。
(教えなかったら教えなかったで悪さをするのはわかっとる。……今回のこれは、まあ、こいつらが面白がるようなもんでもないかのぅ)
勝手に触られて壊されるよりは、諦めて教えた方がいい。翁はそう判断して、やれやれと肩をすくめた。
「別に面白いもんではないわい。これはな、空飛ぶ木馬じゃ」
「そらとぶ、もくば?」
「とぶのー?」
「このうま?」
「そうじゃ。おぬしらは、自分で飛べるんじゃから、この木馬なんて必要ないじゃろう?」
そう。自分で飛べる妖精たちが、空飛ぶ木馬を欲しがるはずはない。
翁は手土産だというマドレーヌを受け取って、ミルクを取りに奥に向かう。
そして、翁がミルクを片手に戻って来たとき――
「またやりおった! あやつらめ!」
空飛ぶ木馬は、月の宮殿の妖精たちとともに忽然と姿を消していた。
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